カフェタイムの乱入者
第4食堂でカフェを飲みながらPCで作業する。
研究使う材料の金額を調べているのだ。材料費は研究が成功した時に払われるので基本は実費で補う。
ま、玉井ファイナンスに相談すれば無茶な金額を借りれるのでそこまで厳しい問題ではない。さすがはジョークグッズ界ののカリスマである。
ただ、無駄遣いは絶対ダメだ。信用と信頼がなくなってしまうからね。
「はぁ〜、電気機器関係はやっぱり高いなぁ。電気科の応援頼まないと配線組めないし、面倒だなぁ。」
「悩み事か?」
背後から話しかけられた。首筋がブルっときた。
慌てて振り向くと、
「やぁ、こんにちは。」
シルクハットに包まれたウェーブのかかった長めの髪。アラブ人にも見える彫りの深い顔、綺麗に整えられたワイルドなヒゲ。そして、黒いジャケットに黒のパンツ。梨田さんだ。マズい。俺は焦ったが、彼は
「今日はお守りを持って来たから、前のようなことにはならないよ。大丈夫だよ。」
と言って彼は胸ポケットに隠してあった懐中時計をチラリと見せる。
それは不思議な懐中時計だ。スモークガラスで時計の針が見えない。蓋には山と裏面は草原のような和と洋が混じり合った意匠を施しといている。蓋裏には女性の様な模様が描かれている。てか、それ見てると目が痒い。効果抜群、本物のオカルトグッズだ。
「これでも、アレルギー反応が出るのか、すまない。これなら大抵の霊能者も気がつかない筈なんだが…素晴らしい察知能力だ。」
そう言って梨田さんは懐中時計をポケットに戻した。
「なんですか、それ?あと、この間みたいにアレルギー出ないのも気になるんですけど……。」
「あぁ、ちょっと我慢して聞いてもらえるかな?」
「それ聞いて妙な事にならないですよね?」
「あぁ、そこは気をつけるよ。」
気をつけなきゃいけないことなのか?まぁ、いいか。研究室の先輩だし、失礼があっては仲嶋先生に申し訳ない。
「先ほどの懐中時計は俺が呪い(まじない)を用いて作ったものでね。日本の霧の女神を西洋に伝わる呪いで祀ってあるんだ。時計の歯車から何まで女神に纏わる意匠を施している。特性は対象をこの世とあの世の境界線に隠すこと。」
おい。誰か、このサイコ野郎をどっかに連れてってくれ。俺、この人から嫌われてもいいから逃げたしたい。この話を聞いただけで発疹が出てくる。……あれ?
「信じる信じないは気にしなくていいけど、結果は出ている。」
梨田さんの言う通りだ。俺の発疹はいつも程酷くない。
「なんでですか?」
「あぁ、それはな。具体的な話をしていないからね。それとも、君は詳細な情報を望むのかい?聞いてしまったら最後、いつも通りの症状がでてしまうよ。」
「このアレルギーのこと詳しいんですか?」
「あぁ。そういう、知り合いがいたものでね。」
「その人はアレルギー治ったんですか?」
「いや。最近、久しぶりに見かけたが治っていない様だよ。」
はぁ…。謎のアレルギーだもんなぁ、治るわけないよね。
「まぁ、同じアレルギーで悩んでる人がいるのがわかったんでちょっと嬉しいです。ところで、梨田さんはなんで呪われてるんですか?」
「あぁ。それはだな……」
「岡本君。」
また、背後から声をかけられた。この声は聞き覚えがある。とびっきりの美人がいることを確認する為に振り向く。
「古野さん、こんにちは。」
「こんにちは。研究室から抜け出して来たんですか?」
「うん。で、卒業生の梨田さんと話をしてて……」
「え…?」
古野はそこで初めて梨田さんに気付いたようだ。梨田さんは何が面白いのか笑顔だ。
「あぁ、初めまして。」
「初めまして、古野です。」
2人は握手する。美男美女の組み合わせだ。映えるなぁ。
「梨田友典です。とても美人さんで驚きましたよ。岡本君の彼女かな?」
と、古野さんの顔が険しくなる。せ、背筋が寒い。てか、痒い!
古野さんは距離を取る。
「…あなたは何なんですか?」
「おっと、これは失礼しました。」
そうですよ。こんな卑屈で暗い男とカップルなの?って聞かれたら怒りますよね。グスン。
「あぁ、すまない。岡本君、泣かないでくれ。アレルギー反応が出てしまったかな?」
梨田さんが話を誤魔化す。古野さんは心なしか悔しそうに見える。
「え?は、はぁ。すみません。」
「それはこちらのセリフだよ。岡本君、古野さん、すまないね。俺がいると雰囲気が悪くなりそうだから失礼するよ。」
そう言って梨田さんはそそくさと喫茶店から出て行った。
「岡本君、すみませんでした。」
「い、いや、気にしないで。でも、古野さんも苦手なタイプだったのかな?随分、話しづらそうだったよ。」
「はい。梨田さんとは、仲良くなれそうもありません。」
あー、やっぱり変なことに言われたの怒ってるんだ…。
「岡本君。」
「はい?」
「あの人とは関わらない方がいいと思いますよ。」
「は、はい。気をつけます」
古野さん、かなり警戒してるなぁ…。梨田さん、変な人だしね。
「野々子姉。何してんの?」
あ、嫌な予感。食道の入り口から古野家の女子が攻めてくる。黒髪の子に睨まれる前に逃げよう。
「従兄弟の人達、来たみたいだね。それじゃあ、俺は研究室に戻るよ。またね。」
「え、えぇ。それでは、また。」
俺は早歩きで逃げた。