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マヨナカ・ロジカル・ブレイク  作者: ひらた はじめ
猿の蛮行と変な人
8/20

俺達の疑惑と彼等の課題

 それから2週間、梨田さんと顔を合わせないよう注意を払いながら学生生活を送っている。ちょっと面倒だ。あと、香田が3年生に俺のアレルギーの説明をしてのもあって、怖がられてる気がする。危害を加える輩はいないので困りはしないが、居心地が悪いことこの上ない。

  研究室の大テーブル。

「はぁ…あぁあ。」

「先輩。うるさいっス。」

 カタカタッ。

「だってさー。お前ら、みんな俺にドン引きじゃん。」

「仕方ないっスよ。だって…」

 カタッと、タイピングが止まる。

「だって?」

「発作起こすし、下手すれば祟られるなんて面倒じゃないっスか。」

 大層面倒臭そうに腕を組んだ香田が言う。

「んぅ〜〜。そうだけどさ…。」

「諦めてください。」

 また、香田はタイピングを始める。カタカタッ。

「ところで何やってんだ?」

 香田は片手でタイピングがを続けながら、スマートフォンのメールフォームを見せてくる。器用なヤツだ。

「えっと……あぁ緊急ゼミ?って、あと30分かよ。」

「そうっス。なんでも、今日の夕方に展示会の打ち合わせで会場に行くらしいっス。」

「へぇ…だから、今日は3年のゼミ生が揃ってんだ。てか、4年生は?」

「逃亡っス。もとい、自分の研究に没頭中っス。」

「4年のヤツら、能力高いからかわかんないけど他の教授に教えてもらって規模大きめの研究やってるよな。スゲーよなぁ〜。ここの道具で満足してないのか寄り付かないし。」

「まぁ、わからないとこは専門の方に聞くのが効率的っスよね。でも、一番の理由は……。」

「何?」

「はい。先輩が面倒だからみたいっスよ。」

 オーマイシット。なんだよ、それ!なぜに俺はタブー扱いになるのか?!ホワァイ!

「あとの理由は卒業生の作品が評価されてるんで独自路線で研究をしたいらしいですよ。」

「評価?どこ情報??」

「だって、先輩達の世代とかって変態多いじゃないっスか。」

「人聞きの悪い……」

 不敬罪に処してやる!いや、待てよ。言われてみれば確かに変態が多かったような……

「なにより、先輩と一番仲のいい院生の玉井先輩なんて…」

 玉井のヤローは反則だろ!

「オナ…いえ、ジョークグッズで特許取る人なんて……特許取れるくらいの誇らしい先輩っスけど、それが愛玩道具でなんて……。なんで、こうが……」

「やめよう。ヤツは特殊なニーズに応えることの出来る稀有な人なんだ。特化した分野はアレだが、人を悦ばせる天才なんだ……。」

 俺の大事な友人の玉井は変態だ。というより、玉井自身は本当の変態ではないのだけど、彼は人が悦ぶポイントを押さえる天才である。テクニシャンでありながら、サドとしての適正もある変なヤツだ。褒め言葉だ。

 なにより、携帯のバイブレーションが弱いと言って自分で改造した時に「こ、これは……!」なんて言いながら図面を引き、マッサージ道具なんかを参考に竿ではなく玉を愛でる愛玩道具を作ってしまった。スゴい才能だと、みんな喜んでいた。いや、悦んでいた。トンデモない物をゼミ生になってすぐの3年が作ったのだ。

 仲嶋先生は良いセンスだと褒めた。それが事件の発端だ。

「あんな事件がなければ、玉井は……」

「事件ってなんスか?」

「あれはな……」

 彼のセンスに惚れ込んだとある教授が玉井製愛玩道具を高レビューしたのだ。企業相手に。

 某ジョークグッズ王手のスカウトが来た。仲嶋先生は戸惑いつつも喜んだが、玉井は違った。て、スカウトの人も玉井品で悦んでな……!

 玉井には専門学生の彼女がいた。玉井のテクニックに骨抜きなったメンヘラだ。かわいい子だが、玉井に構って貰えないと暴走するビッチだ。

 彼女は玉井が就職してしまうと全て投げ捨てでも着いてくると言った。玉井は恐れた、ヘタしたら刺されると。

見兼ねた仲嶋先生は、玉井を企業の開発補助として派遣した。要はバイトだ。ただし、開発成果の一部をゼミの研究として扱うとい強攻に出たのだ。勿論、学校は反対していたのだが、企業側の手厚い接待に根負けした。お金ってスゴい。

 そうこうして彼の処女作にして特許を取った力作、通称〈玉イイね!〉が発売された。スマッシュヒットをかましてしまったことにより、玉井は知る人ぞ知る有名人になってしまった。彼のファンがよくゼミのイベントに押し寄せて問題になったのもいい思い出だ。

「で、なんで玉井先輩は研究室に残ってるんスか?」

「それが、新しい作品の対象ユーザーが女性なもんで、彼女でモニタリングするらしい。」

「ヒッ……」

 ドン引きだよな。玉井としては、その反応を彼女にして欲しいらしいよ。でも、逆効果だってさ。

「って、彼女さん。もう学生の歳じゃないスよね?」

「バカになった。」

「へ?」

「その、ね。アレの依存性になったらしい。だから、勉強の方がヤバくなってて。」

「マジっスか!?」

「マジだよ。だから、彼女への責任もあるから学費とかは負担してるってさ。」

「ドツボにハマってるっスよ。それ。」

「逃げられないよな……。」

 可哀想だが、これは姦淫した玉井のミスだ。こういう危険性があるから、様々な宗教で禁止してるんじゃないかと思うほどの玉井の業の深さだ。ま、ヤってるこてはヤってるんだから、気にしないけどね。グスン。

「先輩。玉井先輩のことを心配してるんですね……。」

 残念な物を見るかの様な香田の視線。

「あぁ。大事な友人だからな……。」

 ま、本音を言うなら刺されないことを祈るばかりだ。

「で、上の世代は変態が多い話なんスけど、」

「まだ、いるの!?」

「いるっスよ!」

 香田がキレた。最近の子は沸点が低いな。

「先輩も変態って事になってんスよ!」

「え?」

 待てよ、待てよ。なんで俺なの?俺、童貞だよ?変な性癖もないよ?趣味だって学生なら普通の部類のハズだし、オタクやマニアと言うほどハマってるのは服とかスニーカー位だよ?ホワイ!

「先輩ってオカルトアレルギーの割に、猫グッズしか作品作ってないっスよね?」

 ん?だから猫好きというか身近なペット道具が一番研究しやすいだけなんだが……

「まぁ、そうだけど。」

「猫に魅せられてるんじゃないっスか?」

「は?」

 ブツブツっと肌が赤くなる。怖い事言うなよ……。

「そこは、この間のペットとのトラブルで疑惑は晴れましたけど。」

「そうだよ。俺にあるのはプライベートの充実に研究を役立たせてるだけだよ。」

「てっきり、猫が恋人だと思ってたっスよ。」

「ネコと恋人の位置は置き換えるなよ?」

「はぁ……」

 香田がまた引いた。

「そういう笑えないエロ冗談も変態疑惑のひとつっスよ。」

 オーシット。やっちまったぜ!

「わるいわるい。気をつけるよ。」

「そうして下さいっス。」

 っスっスっスっス、うるさいヤツめ!でも、俺と仲良くしてくれる後輩だから大事にしなきゃな。

「あと、オネェの梅田先輩もスゴかったですね。」

「梅ちゃんのこと変態って言うなよ。自分は女だって言ってて、誰よりも女として頑張ってんだから……」

「俺、ビビったッスよ。スゴい美人がいるなぁと思ってたのに、男だったなんて……」

「学科の男女比見とけよ。俺らの世代は戸籍上の女性はいないぞ。」

「なんで、梅田先輩はここに?」

「男漁りだって。今はタイに花嫁修業に行ってるみたいだよ。」

「それ、花嫁修業じゃなくて工事しに行っただけじゃないっスか?」

「んー、どうだか?それもあるかもしんない。でもな。なんとなくだけど、単純にニューハーフ文化に触れてみたかったんじゃない?」

「へぇ。って、もうこんな時間かぁ。」

 俺は時計を見る。たしかに、もうゼミの時間だ。

「なんか、話し込んだな。ゼミ用の課題、大丈夫か?」

「大丈夫っス。俺のじゃないんで!」

「へ?」

 俺は研究室の隅で作業している3年生を見つける。だいぶ焦ってるみたいだ。

「あの子?」

「はい。なんかバイトとかで大変みたいなんで、プレゼン原稿を手伝ってただけなんスよ。」


 ガチャ。仲嶋先生がやってきた。

 例の3年生は真っ青な顔で、大テーブルに着席した。ご愁傷さまです。

 俺は先生に挨拶をして学内の喫茶店でカフェタイムにするため研究室を後にした。後輩がゼミで苦しむ姿は目に毒だからね。

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