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マヨナカ・ロジカル・ブレイク  作者: ひらた はじめ
猿の蛮行と変な人
6/20

大人の悩みと子供の悩み

 昼食を取る。しかし、先生の元気がいつも以上にない。

「先生、あんまり元気ないですね。やっぱり体調よくないんですか?」

「あ、あぁ。仕事が大変なのもあるが…ちょっと……。」

「進捗よくないんですか?」

「……バカを言うんでない。」

 ギロリと睨まれる香田。ビクッと肩を揺らし。

「す、すみません。」

「……そこまで怖がらなくてもいい。」

「どうしたんですか?」

「……まぁ、今度の展示会のことなんだ。…展示方法が変わるかもしれないと連絡が入って……」

「今更ですか?」

「……茨城工科学院の恒田教授、わかるだろ?」

「「はい」」

「……仕事の関係で、彼の所が出展出来ないらしい…」

 教授の話を、食事の手を止めて聞く。

 来月に行われる7大学デザイン研究室合同展示会。それぞれの研究室が作品を展示会形式で発表し、外部の人も招いて評価してもらう予定だ。

 恒田教授は、俺たちの研究室と特に懇意にしてもらってる人だ。聞くところによると問題児ばかりの研究室で、家庭では姉さん女房の尻に敷かれているという。

「恒田先生、どうなさったんですか?」

「……夏休み中に海外の展示会に駆り出されるみたい…あと、噂の奥さんが妊娠したらしい………今は四面楚歌状態だとね。」

「ヤること、ヤってるんスね。」

「チッ」

「先輩?どうしたんスか?」

「なんでもない。仲嶋先生、恒田先生の四面楚歌って、敵は誰ですか?」

「……敵って表現はよくないけど……まずは奥さん…次に海外へPRさせたい学校

…合同展示会……」

「あれ?先生、学生が手伝えるのイベント混じってんスけど……あ!」

「……そう、自分の所の学生。」

 ズ――ン、と空気が重くなる。あぁ哀れな恒田教授。

 と、話をしていると、香田が見知った顔を見つけめ立ち上がる。

「古野先輩だ!古野先輩!一緒に食べましょ!」

「お、古野。おたくもどうだい?こっちに来るかね?」


 俺も二人の視線の先を目を向ける。

 そこには、金、茶、黒のグラデーションが特徴的な長髪に眠そうに細められた瞼、陶器のような白く美しい肌に異様に整った顔立ちの美人さんがいた。手には定食のトレーを持っている。

 彼女が美人であるというのは何も顔だけではない。その体もまさしく美人たりえる物だ。アスリートのように引き締まった長い手足、そして魅力的なお尻。それを強調するかのようなタイトなジーンズと丈の短いワンピースに包んだ長身の女性、古野乃ノ子だ。あまりにも美人過ぎて首が痒くなる。魔性の魅力にもアレルギーが出てしまう。

 古乃は俺と同じ地元の女の子だ。幼稚園から高校までクラスメートだったのだがあまり思い出はない。俺は彼女を前にすると美人過ぎて気後れする、そして緊張して背筋寒くなる、さらには首まで痒くなっちゃうくらいだから、話したこともあまりない。

 それになんか嫌な雰囲気にもなる、やっぱ首搔きまくる男って変だと思われてそう。中学の時に転校してきた彼女の従妹の一人はすれ違う度に俺の事を睨んでいたし……はぁ。

 大学では学科が違うのだが、彼女は建築学科の生活デザイン研究室の所属で、俺達の研究室が協力関係なこともあり、仲島教授や香田とも顔見知りだ。

「いいのですか?男性同士で楽しんでいたようですが……。」と古野が言う。

「大丈夫っスよ!ね、先生!」

「……構わない。」

「?先輩、青い顔してますよ?」

「あ、あぁ……。えっと、恒田先生が心配でね。」

「恒田先生に何かあったのですか?」

 と、古野にも恒田先生四面楚歌問題について仲嶋教授が説明する。古野はパクパクと小さな口に食事を運んでいく。俺は首をポリポリと搔く。

 そんな古野を前に香田は鼻の下を伸ばし見惚れている。古野は香田を気にせず、食事を続けつつ先生の話を聞いている。っていうか、食うの早いな。

 それよりも香田だ。そんなに古野が好きなら、さっさと告白して、さっさと玉砕してほしいものだ。今、俺の陣営<彼女無しの童貞たち(ラストバレット)>は手薄なんだ。はやくこっちにこい。グスン。みんな卒業したり、恋人が出来たりで寂しいなぁ……グスン。

「岡本君、何で泣いてるのですか?恒田先生の事、心配してるのですか?」

 俺は、ヤることヤってる人の心配なんてしない。

「え。あぁ、恒田先生って報われないから、ちょっと同情しちゃって……。」

 しまった。心にもないこと言ってしまった。後悔。まぁ半分本音なんだけど。


「ちょっと、乃ノ子姉。もうミーティング始まるよ。」

 後ろを振り向くと、古野の3人の従妹たちがいた。

 金髪の子、茶髪の子、黒髪の子。みんな、古野にとても似て美人だ。さすが古野家は素晴らしい遺伝子を持っているようだ。だが、3人は古野ほど長身ではないのため、可愛らしいといったイメージが強い。

 そういえば、古野を含めた4人は同じ学部、同じ研究室に入っているみたいだ。仲良すぎだろ。地元から逃げ出した俺としては、同郷の人間がこんな近くにいることに世間の狭さを感じてしまう。

 それにしても、美人が4人。首がますます痒くなる。首を搔いていると黒髪の子が相も変わらず俺を睨んでいる。あっちから見たら俺はストーカーみたいに映ってるのかな?グスン。古野は周りを気にも留めていなかったようで、いつの間にか昼食を終えていた。

「あぁ、そうでしたね。それでは皆さん、お先に失礼させて頂きます。お邪魔しました。」

 美人4人組は足早に建築学棟へ向かっていった。

「前から思ってたんスけど、古野先輩ってかなり早食いスね。」

「お前、サボり癖だけじゃなく、ストーカー癖まで持ってたのか……。」

「私はまだ半分しか食べていないのに、後から来た彼女は完食していたな……。若いなぁ。あれが、美貌の秘訣か?」

 寿命が縮まりそうな秘訣だな。でも普通は太るだろ、あんな早食い。


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