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平安時代の姫君、現世で婚活はじめまする  作者: かちゃ
異なる世は、地獄にございました
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男子◆2 とりつく、を、とりゐと

「トリック、オア、トリート!」


「はいっ」


「トリック、オア、トリート!」


「はいっ」


 さっきから俺は、『トリック、オア、トリート』って言うと、自動的に、菓子くれるATMみたいになってた。


 バイト先のコンビニがある商店街で、俺は今、ハロウィンのイベントを手伝ってる。


 今日は、ハロウィン当日の10月31日。


 コスプレで来店した子供には、駄菓子をひとつあげますっていうイベントをしてて、俺はコンビニのまん前に机を出して、それを配ってる。冷たい風が吹く中、5時間ぶっ通しの休憩なし、ひとりで菓子を配ってますけど、もう泣いていいッスか?


 俺の前へズラッと並ぶお子ちゃま集団に、ひたすら菓子を配る。


 魔女の黒いとんがり帽子かぶった子とか、オレンジ色のかぼちゃスモックを着た子ばっかり。スモックは、腹のところにジャックランタンの顔がでっかく描いてあるやつです。


 その中で、ひとりだけ目立つ和服のコスプレ。神社の巫女さんスタイルの子が、列の最後尾にいる。あいつまた来たの? さっきも並んでたよ。子供なのにセコっ! もう1回もらうつもりか。


 でも、相手が厚かましくても断れないんッス。俺はこのままじゃ人生詰むって、わかってるのに。


 今年の春に大学へ入って、このコンビニでバイト始めて半年。関西弁で厚かましい店長にすっかり調教された結果、いい人キャラが定着しちゃって抜け出せない。


 バイト中、俺はずっとニコニコ笑ってる。困ったときのフジワラくんは『神』って店長に言われて、シフトの穴埋めばっかり。授業を休んで働かなきゃいけないのが、もはや普通になってる状況。


 このコンビニ、ブラック企業なんで。売れ残った弁当やパンを俺が買うまで、店長は、『フジワラくん、晩メシ作るの面倒やもんな。これ、どうや?』ってしつこく言ってくる。


 夏のお中元シーズンなんか、3万円の販売ノルマを勝手に決められて、売れなかった分は買い取りさせられたんですわ。ブランド豚肉と、サラダ油とかを大量に。けっこう頑張って食ったけども、さすがに飽きた。今もまだ、下宿の冷凍庫にたっぷり残ってる。


 もうすぐお歳暮のシーズンだから、めちゃくちゃ気が重い。


 バイト辞めたいって店長に言うと、『お前がおらんかったら、店が潰れる! わがまま言うなや』って脅されちゃって、辞められない。


「とりつく、を、とりゐと」


 そうだ、菓子を配らなきゃ。


 自分語りしてる場合じゃないッスね。


「はいっ」


 俺は、駄菓子を差し出す。


 それをつかんだのは、真っ白な手。どう見ても、お子様サイズじゃない。大人の手。


 いやいや、大人にはさすがに菓子をあげちゃダメでしょ。


「あのお、すみません。お子様だけのサービスなんで、大人の方はご遠慮を……」


 俺は、駄菓子を引っ込めようとした。


「とりつく、を、とりゐと」


 菓子をガッチリつかんで放さない手。


 俺はびっくりして、客の顔を見た。


「うっ」


 思わず、声が出る。


 気合い入ってるぞ。平安時代のコスプレ。百人一首みたいな、お姫様のコスプレ。着物は、何枚重ねてるんだろう。黄色に緑、ベージュ色と、赤と紫。最低でも、5枚は重ね着してる。予算どんだけかかってるんだ。


 顔は扇で隠してるけど、首筋までしっかり白塗りしてるし、額には、丸い公家眉まで描いてある。コスプレをしたら駄菓子もらえるからって、眉毛をつるっと全剃りして本格的に作り込んできたのか?


 ピッグカツ(1枚30円)のために、こんなに本気をぶつける奴がいるとは。


 何者だ。


「この人は、お母さん?」


 俺は、巫女のコスプレしてる子に訊いた。


「ううん、ぜんぜん知らないおばちゃん。お菓子が欲しそうにジトーッと見てきて怖いから、連れてきてあげた」

 ようやくW主役のふたりが出会いました!


 フジワラくんが愚痴ってばかりでイヤーな感じ! と思われた方、すみません。この先いろいろあって、彼も成長しますので、温かく見守ってくださいませ。

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