男子◆1 占い、要らないッス
――今週いちばんラッキーなのは、射手座のあなた。運命の人に出会えるかも! ――
コンビニの店内放送でしゃべってる女の人の声が、ムダに明るい。
俺は射手座。ブラックバイトに励んでる18才。運命の出会いなんてありえないです。絶対。
新しく入荷したサンドウィッチの陳列をしながら、賞味期限が迫ってるサンドウィッチを売り場から撤去する。この秋に新発売の『超絶 厚いぜ! 男のカツサンド』が10個も売れ残ってる。俺が発注した商品だし、今日もまた買い取りさせられるのか……。
このコンビニでバイトを始めてから半年になる。仕事そのものは大してきつくない。だけど、鬼畜店長のおかげで、売れ残りを買わされたりして、バイトで稼いでも金なんて貯まらないです。
――ラッキーアイテムは、と・ん・か・つ だよ ――
店内放送の占いは、まだ続いてる。
と・ん・か・つ だよ って言い方が、微妙にイラッとするんですが。
どこがラッキーなんだ! カツサンドが10個も売れ残ってるし、それを全部買い取ったら、バイト代の5時間分ぐらいタダ働きしたようなもんですよ。
「おおっ、今の聞いたか? とんかつが、ラッキーアイテムやって。フジワラくん、よかったな。お前、とんかつはめっちゃ好きやろ? 昨日もおとといも、売れ残ったソースカツ丼を、全部買い取ってくれたし」
ハイ、店長。たしかに、俺は自主的に買いました。
『えらいこっちゃ、こんなに売れ残って。誰や? 発注したの』
店長はドスの利いた関西弁で言って、俺の方をチラッチラ見ましたよね。
発注したのは俺ですが、もっと仕入れろって言ったのは店長ですよ。
――今日のラッキープレイスは、神社! 日本の伝統に関わる人が、あなたをラッキーにしてくれます――
占いは、まだ終わってなかった。
「日本の伝統もええけど、今日は、ハロウィンやろ。商店街をあげて、店の外で、ガキどもにタダで菓子を配るらしいで」
店長が、俺の肩をポンと叩く。
「フジワラくん、頼むわ。子供は好きやろ?」
「いや、そうしたいんですけど、俺、午後から大学あるんで……」
俺は、断ろうとした。
今年の春に大学に入って、それからずっとこのコンビニでバイトしてるけど、急に来なくなったバイトの代わりにたびたび出勤させられて、講義にあんまり出てない。もう単位は取れないかもしれないけど、とにかく一瞬でもいいんで、このブラックバイトから抜け出したい。
「俺な、今からパチンコ打ちに行きたいんやわ。あーあ、打ちに行ったら、確実に10万は勝ってたけどな。えらいこっちゃ、10万も損した。誰のせいや?」
店長が、俺をにらんだ。
鬼畜な上に、クズ店長だ。40代にもなって、仕事をバイトに押しつけてパチンコかよ。
でも、言えない。はっきり言えるぐらいだったら、俺はとっくにこのバイトを辞めてる。
「フジワラくんの代わりにバイト入ってくれる奴を、早く連れてきたらええねん。大学なんかいくらでも行けるやろ」
それを言われるとつらい。
俺は大学の1回生で、しかも講義にほとんど出てないから、友達いません。ぼっちです。誰にも頼めません。
それに俺、京都は地元じゃなくて、下宿してますから。家族も知り合いも、近くにいない。
ここのコンビニはめちゃくちゃなブラック企業だから、他のバイトはすぐ辞めちゃって、仲良くなるヒマなんかないし。
「じゃあ、菓子を配りに行きます」
俺は、しぶしぶ引き受けた。
「おおっ、やってくれるんか! やっぱフジワラくん、神やな。困ったときの神様・仏様・フジワラ様やもんな。お前は、神社なんか行かんでもラッキーちゃうか? 俺にとって、お前が神みたいなもんやし。神様は大学なんか通わんでええな? ガハハ」
店長の下品な笑い声。京都のはんなりしたイメージとぜんぜん違う。
ああ、今すぐ神社へ行って祈りたい。このコンビニ、つぶれろ。
――それでは皆さん、楽しいハロウィンを! ――
店内放送の占いは終わって、音楽が流れた。
今の占いのせいで、俺はどんどん不幸になった気がする。
もし今日、運命の相手に出会えたとしても、そいつのせいで、俺は不幸になるんだろうな。
【8/12 話の順序を入れ替えました】
姫君◇二 と 男子◆1 を入れ替えました。視点が頻繁にコロコロ変わると、わかりづらかったでしょうね。今まですみませんでした!
【おことわり】
関西人を悪役にしちゃって、関西の皆様ごめんなさい!
作者も生粋の関西人なので、悪者にしたくなかったんですが……。
他の地方の方からすると、関西弁って、こちらが普通にしゃべっていても怖く聞こえるんでしょうか。