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姫君◇十 わらわは闘いまする

「大変だわ! 早く、濡れたお着物を乾かさなくては」


 ママと呼ばるる女人が叫びます。


 おお、何を言うておるかわかりませぬが、惑うておるぞ。


 わが袖を水にて濡らし清めましたゆえ、(よこしま)なる者はわらわに近づけませぬものな。


「乾かすなら、着物を脱いだ方がいいよね」


 ちひろといふ童が、わらわの袖をつかみました。


 うぬっ、これはいかなることじゃ? ちひろもママも邪なる者ゆえ、わらわに近づけぬのではないのか。


 わらわにはわからぬ言の葉にて、(まじな)いを唱えたのではなかろうか。清浄なる水の護りを破りおったのか?


「私も脱ぐのをお手伝いしますわ」


 ママがにわかに近づいてまいります。


 わらわの後ろへと回り、わらわの着ておりまする衣の首のあたりをつかみます。


 ぐぬぬ……。不覚じゃ。捕らえられてしもうたぞ。


 衣の袖と首の後ろをしっかとつかまれておりますので、わらわは動けませぬ。 


「でも……十二単って、どういう風に脱ぐのですか? 着物でしたらまず帯を解きますけど、十二単じゃ帯を締めないですものね」 


 ママは後ろよりわらわの顔をのぞいておりまする。


 逃れるには、今はこうするより外はないぞ。

 

「いざ」

 

 わらわは密かに()の紐を解きます。


 裳とは、腰の後ろに巻く衣にございます。


 裳には紐がついておりまして、その紐をわらわの腹の前にて結うてあります。紐を外しますれば、わらわの羽織っております衣をすべて一時に、いともたやすく脱げますのじゃ。


「えいや!」 

 

 わらわは大きなる声で拍子を取りまして、くるくると身をひるがえします。


 幾重にも重なった衣が空蝉(※)のごとくママとちひろの手に残り、わらわは身一つにて逃れました。


 されど、裸姿ではございませぬ。わらわは白き小袖に赤の長袴を着ておりまする。


「まあ、すごいわ」


「着物がスポーンと脱げちゃった」


 ママとちひろはわらわの脱いだ衣をつかんだまま、惚けております。


「意表を突いたコスプレパフォーマンスだな。十二単を一瞬で脱ぎ捨てて、巫女のコスプレに早変わりか」


 陰陽師も、驚いておる様子ですな。


 ふふふ。勝ちましたぞ。


 わらわにはちひろや陰陽師どものような術は使えませぬが、邪なる術など要らぬわ! 敵の目を(あざむ)くなど、わらわにはたやすいのじゃ。


「すごい、かっこいいよ! 今のもう一回やって」


 ちひろは、驚き騒いでおります。


 ほほう。わらわに欺かれて、悔しいか。


「今みたいなのを動画に撮って、神社の宣伝に使えないかな。イケイケ動画にアップしてもいい?」


「こらっ、ちひろ。またお姉さんに無理なお願いをするのか。止めなさい。さっきも今夜のお見合いを勝手に決めただろう」


 陰陽師が怒っておりまする。


 わらわのような神通力を持たざる者に欺かれ、悔しいのでありましょう。


 ふふ。こやつらが言うておることはようわかりませぬが、何を言うておるのかの? 一度は聞いてみたいものじゃ。


「えーっ、でもお姉さん美人なんだもん。うちの神社のイメージキャラになってくれたら、オタクのお兄さん達がもっといっぱい来てくれるのにもったいないよ。パパは神社を盛り上げたくないの?」


 ちひろも渋い面をしておりますな。


「だってパパ。うちの神社って、1000年くらい前にできてすごく古いんでしょ」


「ああ、そうらしいな。この神社の神職は、初代からパパまで150代くらい続いてるんだぞ」


「平安時代のお姫様から巫女さんに早変わりしたらさ、神社の歴史が古いって一瞬でわかるんだし、いいと思う」


 ちひろはそう言いましたのちに、わらわの方を向きました。

 

「うちの神社のCMを私がスマホで撮るから、出てもらえませんか?」


 ちひろがわらわの方へ歩んでまいります。


 わらわをあくまで追おうといふのじゃな?


「お金は払えないけど、今夜は、大金(おおがね)先生との恋のキューピッドを頑張る! 大丈夫、絶対にうまくいくから。うちの神社は、縁結びの御利益があるんだよ」


「あの、申し上げておきますが」


 ママが、何か言うております。


 ちひろがわらわを捕らえるのを助けようといふのか。


「ちひろは、『 イケイケ動画 』というサイトで動画を投稿しています。有名なサイトのようでしてね、ちひろのような一般人の子供が撮影したものでも、1日に何百人も見られているんですよ。ネットにお顔が出てしまうのもよいことばかりではありませんから、よく考えてお決めになってくださいね」


 ママは、にこやかに笑うておりますな。


 先刻に、わらわが見事にそなたの手より逃れるのを見たであろう。わらわを恐れておらぬのか?


 ええい、こざかしい!


「さあ、それよりお着物を早く乾かさないとシミになってしまいますわ。パパ、洗面所からドライヤーとタオルを取ってきてくださいな」


 ママは、手を叩きます。


 むむ。これは何の呪いじゃ?


「ほいきた」


 陰陽師は、木枯らしに吹かれた葉のごとく急ぎ去ってゆきます。


 神通力を自在に使ふ陰陽師をいともたやすく去らせるとは・・・・・・ママは強き女人にございます。


 わらわ一人で、あやつを破れるのであろうか?


 鬼よ。早う目を覚まして、わらわを助けてたもれ!




===


※空蝉・・・・・・セミの抜け殻

 読んでくださった方ありがとうございます。 

 前回の更新のあと、5件も新規ブックマークをいただきました! ありがとうございます。

 その後、ご期待に添えなかった方は申し訳ありませんでした。

 更新も遅く、内容によっては1話が短いときもありますが、少しでも楽しんでいただけるように努めます。 


 今回は話があまり先へ進んでいなくてすみません。

 来週は執筆時間が取れそうなので、今月中になんとかもう一回更新できるように頑張ってみます。


【修正のお知らせ】

 第7・9・10部分を少しだけ修正しました。

 ストーリーはまったく変わっていません。

 話別アクセスを見ていると、そのあたりの話で読むのを止めてしまわれる方が多いので、直しています。

 細かくごちゃごちゃ書き込んでいたセリフや描写をスッキリさせてみました。少しでもわかりやすくなっているとよいのですが。


 今後ともよろしくお願いいたします!

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