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第八話:放課後少女

 俺が、学校から家に帰ろうとカバンを持ったとき、担任の教師である柿道かきどう 理恵鳴りえな31歳に、呼び止められる。


「あ!? なんですか先生? 」


 俺はせっかく帰ろうと意気揚々になっていたのに呼び止められて、つい苛立ちの声を上げてしまう。


「おいおい、先生にそんな口の聴き方はないだろう? 私でなければ怒られているところだぞ? 」


 理恵鳴はそう言ってウィンクする。


 ウルセェークソババァだな死んでくれねーかな。と思いつつ俺は


「何か用ですか? 」


 と返す。


「いやなに、部活の申請用紙だ。お前はすっかり忘れていてな、まぁ強制ではないから、興味のある部があったら、申請しておけ」


 そう言って理恵鳴は教室を出ていった。


 突然、時が止まる。一二三の仕業だ。


「ムッフッフッフ、部活……青春の匂いがプンプンするわ! 」


 案の定一二三がくだらないことを言い出した。


「興味ねー、けどこのまま帰ったら土管とパンの耳だろ? まぁ見るだけ見るわ」


 俺は、とりあえず部活申請書と一緒にもらった、部活と同好会の一覧パンフレットを見る。


「さてさて、どれにしようかね~」


 なんかどれもいまいちパッとしない。


 俺は気分転換も含めて屋上で考えることにした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なぁ、一二三時間停止解除してくんね? 」


 俺は屋上につくなり、一二三にそう言う。


「え……? まぁ良いけど、なんでまた? 」


 一二三は俺の不可解な発言に首をかしげつつ、時の流れさせる。


「まぁな、今日は何かロマンティックな気分だからな……、なんか時の流れを感じたいんだ」


 そう今日の俺はなんだかロンマティック。なにか素敵なことがある予感がしているのだ。


「おっ! この学校の青春パワー染まったな」


 一二三はこころなしか嬉しそうに笑う。


「かもな」


 俺は風を感じる。いい気持ちだ。


 ………………


 …………


「ハッ!? 」


 俺は寝ていたようだ。


「今何時だ」


 俺は校舎の時計を見ると。


 その針は短針と長針共に8を指していた。


「マジかよ!? なんで起こさなかった!? 」


 俺は一二三にそう言うと


「いや、気持ちよさそうに寝てたから」


 そう返した


「はぁ~、まぁいいや」


 俺はため息をつきながら屋上を出て、階段を降りる。


「ん? あそこ電気がついているな、一体こんな時間に何してんだろ? 」


 もうとっくに下校時刻がすぎているのにいまだ明るくしかし儚く夜を照らす建物を見つめる。


「あれは第四体育館だな……」


 一二三はそう言う


「無駄に体育館あるよなこの学校」


 しかし、妙に気になる。あの小汚く小さい建物が俺の心に何かを語りかているようだ。


 俺は光りに誘われる羽虫のごとく、第四体育館の灯火に吸い寄せられる。 


 俺は第四体育館に入ってみる。


 すると、一人の少女が踊っていた。


 その少女は、金色の髪をなびかせながら、フープを操り、華麗に踊っていた。


 その少女はレオタードにつつまれた細い体がしっかりした身体をしなやかに動かし踊っていた。


 その少女の舞踊はけっして激しいものではない、しかし俺の心臓を激しく鼓動させる。


 俺はこの時、名前も知らない彼女に惚れていた。


 普段の俺なら、女ごときに心動かされることにプライドが許さず、激しく不愉快になっていただろう。


 しかし今の俺にはただただ、彼女の美しさに見入っていた。何もかもを忘れただ動悸を激しくする、それがとても心地よいほど俺は今、恋焦がれていた。


 恋……今まで取るに足らないくだらないものだと思っていた感情。それが俺を未知の領域まで高ぶらせている。


 彼女に声をかけたい、その衝動が俺の全身を駆け巡る。


 しかし、同時に声をかけていいのかと重くのしかかる心境もあった。


 彼女は舞を止める。そしてハーフだろうか、大人な雰囲気と幼い雰囲気を見事に調和させた整った顔と、エメラルドのように心惹かれるみどりの瞳を俺に向ける。


「見て……たの? 」


 彼女はその雪のように透き通る白い肌を桃色に染め上げながらそう言う。


「ああ……すごく綺麗だったよ」


 俺はついそう言ってしまう。


「そう……」


 彼女はそっぽ向いてしまう。


「こんな遅くまでやっているんだ、新体操部の練習かな? 大会とかあるの? 」


 俺は彼女との会話を繋がりを断つのが嫌で、そう声をかけると。


「そうね……なんとなくね……」


 彼女はあさっての方向を見ながら無愛想に答える


「そうか……」


 俺はそれ以上何も言わない、言うべきではないと思ったからだ。


「でもまぁ、こんな夜遅くだと帰りとか大丈夫? 」


 俺は彼女が夜の闇に飲まれないか心配でそう声をかけた。


「大丈夫よ」


 彼女ははっきりとそう言う。


「でも……心配だな」


 俺は彼女が夜に潜む魔物に食われることがたまらず恐ろしい。


「じゃあ、家まで送っていってくれる? 」


 彼女はその時目の前にいる少年を不思議と信じてしまった。その少年の瞳はとても美しいモノに彼女は見えてしまった。


「ああ、いいぜ! 」


 俺は二つ返事で悩む余地なくそう返す。


「私はゼリョンヌィ あきら、あなたは? 」


 彼女がそう聞いたので俺は


宮上みやうえ 唯人ゆいとと言います」


 ついちょっとカッコつけてそう言ってしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺とあきらは並んで歩く。


 …………


 ……


 無言で歩く。


 ちょっと気まずい雰囲気。俺は何を話していいかわからない。


「ねぇ、どうしてあなたは私を誘ったの? 」


 とうとつにあきらはそう言う。


 そう言えばなんでだろう? 俺は衝動的に誘ってしまった今にして思えば理由は明確にはわからない、でも本心のまま思ったことを告げればいい。


 俺はそう思い


「気になった……から? 」


 疑問に疑問系で返す、会話としては最低であったが。


「そう……」


 彼女はポツリとそう言うだけであった。


 またしばらく無言の時が流れ。


「ねぇ……どうして私はあなたを一緒に帰ったと思う? 」


 彼女はそう聞いてきた。


 そう言えばなんでだろう? 彼女からすれば俺と言う男はただの変な奴だなぜ彼女は俺と帰りをともに?


 俺が答えを導き出す前にあきら


「正解はあなたが気になったからよ」


 そう言ったあと少し笑って。


「それに、正直な人は嫌いじゃないわ」

 

 俺はその言葉に少し、ほんの少し恥ずかしくなって


「新体操……すごかったね」


 俺はそう言って話題を変えた。


「あれが? 」


 玲は少し驚いた顔をする


「え……? そんなでもないのあれ」


 俺はなんとなく予想外な返答に面食らう。


「私はね、子供の頃から新体操をやっていたの、でも怪我で出来なくなちゃったの」


 玲はそう言う。


「え……、なんかごめん」


 俺のバカ! トラウマ抉ちゃったよ~


「こっちこそ、ごめん……でもいいの、大した怪我じゃないから、それにもう未練はないから」


 そう言った玲の瞳に嘘の色はなかった。ように俺には見えた。


「そっか、結構心強いね、俺なんて弱くてさ~見習わなきゃね」


 俺が暗い雰囲気を晴らそうと、明るくおどけると


「たしかにあなたはメンタル弱そうね」


 玲がそう言った直後


「あっ、もう家についた」


 そういった玲の視線の先には高いビル、高層マンションがあった。


 けっこう値段の方も高いマンションで、その入口はどことなく気品があった。


「じゃあまたね、男の子に誘われるなんて初めてだから楽しかったよ」


 玲はそう言って、マンションの中に入っていった。


 俺は玲の口から出た“初めて”と言う単語に心躍らせながら我が家に帰った。

   

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