お絵かき
日時:六月十三日。場所:美術室。目的:三限目の美術の授業。
マス目を縦横のキャンバスに引くとそのマス目ごとにパーツを埋め込んで模写して行く。綺麗な女性の絵を手本に私は、綺麗の半分くらいの女性を模写して行く。確かなことは、綺麗には違いないのだけど、模写はどこかが違ってしまっている。元の半分。その半分。また半分。絵が完成に近づくに従って、半減してゆく何か。これは絵画の半減の法則と名付けたいな私。
「要。上手いね」
「そうかな」
「里美も上手だけど」
「それほどでも」
「洋子のどうなの里美」
「洋子の、ね」
普段見せない真剣な表情で絵を見比べている里美に向かって聞いてみる。
「洋子が描いているのは、ね」
「見ない、見ない」
「うわ。ひど」
慌てたように里美の前で手を振る洋子は相変わらずだ。二人を見ていると何だか私は楽しくなる。
洋子の絵は下書きの段階だった。おおまかに描かれたデッサンに色分けのための文字が記入されているのがわかるのだけど、一体、デッサンのモデルは何だったのだろうか。私にはわからなかった。全体的に下手。部分的に下手。細部的に下手。そして下手なのはわかるのだけど、何を模写しているのかは全くわからないという代物。
「うわ。ひど。って。うわ。ひど」
洋子は傷ついたかのように両手で二の腕を掴むと、笑いながらそうリフレインする。
「これ。ひどいよね。要」
「下手で悪かったわね」
絵と呼ぶ前段階のものを里美が指さして、私に確認を取り、洋子が少し膨れてそう口にする。
「そういう里美はさっきから真剣な割には、絵が変なんじゃない」
「これはこういう絵なの」
そう口にしながらも、里美は手を休めない。下書きは八割がた完成しているように思える。真剣な里美の手が区切られたマス目の中を自在に走ってそれから、新しいパーツを継ぎ足してゆく。抽象的な絵の下準備のようだけど、綺麗な下書きだ。
里美の模写に比べたら私の模写なんてまだまだだ。綺麗な女性を綺麗に描くだけのことができないなんてどうしたわけなのだろう。私は二度ほど手を動かして、それから消しゴムを手に取って修正して二度同じところを書き上げる。変わっていないような気もするし変わったような気もする。
里美とその仲間たちのことを私は考えていたんだ。綺麗な里美に、輝いている仲間たち。昨日の光景がふと蘇ると、どうしてだろう、綺麗に模写したはずの絵が急に色あせて見えてしまう。
みんな真剣だ。そして私も真剣に授業を受けている。
みんなそうだったのだ。
…洋子はわからないけど。




