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メインキャラの宿命

 その日は部室には今河先輩が先に来ていた。椅子に腰かけて、携帯端末を手に取っている。今河先輩は座っているだけで絵になるようにも思える。不揃いに伸びた黒の頭髪に黒の制服。当たり前の姿なのにどうしてか似合っているように思える。

「あの。今河先輩」

「何か用かな。島世さん」

「今回の役ですけど」

 今回の役はとにかく出番が長い。私はどうにも、荷に勝ちすぎているような気がして気後れしてしまっていた。暗記できそうなところは暗記したけれど。不安が背中中を締め上げるようだ。

 今河先輩は不思議そうに言葉を切った私のことを眺めていたのだけど、やがて、納得したようにうなずいて続くべき言葉を噛みしめるようにしながら口を開いた。

「三年生は、ね、追込みだからね。無理はできない。二年生にはやりたがるのがいなくってね。それで真知子のやつと仲良くしている君なら。ということでね」

「それは、そう、なんですか」

 少しだけほっとする。

「そうだ。だから遠慮なく役に集中して欲しい」

「でも、私には」

 だけど、と言いたがる私に今河先輩は何か思い出すように首をなでるように手を置いてさすって見せた後、笑いながらこう言うのだ。

「そうそう。そういえば真知子と島世さんが一緒になって何かやっていただろう」

「はあ」

「そういう軽い気持ちでいいんだよ。別に誰かが我々演劇部の劇を見てどうなるというものでも無いからね」

 今河先輩はそう口にして笑うのだけど、私はまだもう少しだけ不安で、それで、もう一言声を出して聞いてみようとして、

「それに、この役は、」

「お。今日は二人も先客がいる」

 部室の扉が開くと賦星先輩の声が響く。賦星先輩は、いつも通りパイプ椅子に手を伸ばすと、端正に整った髪を揺らして鞄をどっと机に向かって投げだすと、それから私たち二人を交互に見比べて何気なくこう言う。

「それで何を話していたわけ」

 私は、何を話そうとしていたのか忘れてしまう。この役は、そうだ。私の演ずる役の話だ。私は今河先輩に目を向けるのだけど先輩は肩をすくめるだけ。何も語ろうとはしないし、再び携帯端末を手に取って悠々と何かをやっている。

「豊。何を話していたんだ」

「君には無縁の話だよ」

 賦星先輩の端正な顔が歪む。

「要。何を話していたんだ」

「先輩には秘密の話です」

 私は賦星先輩の面白くなさそうな顔が面白くって秘密にしてしまう。賦星先輩はパイプ椅子に座りこみながら、本当に面白くなさそうに、一言しゃべって、後は用紙の束を取り出して読み込み始める。

「秘密、な」

 私はその態度を見習うことにして用紙を取り出して読み込むことにする。

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