第八話 - 馬鹿二人
一人取り残されたカルロは走っていた。
「マジで誰もいねーじゃん!!」
砂浜を越え草が生え始めているところまで来ると一度立ち止まり、
その先を見渡した。
大地が抉れているところもあれば割れているところもある。
巨大な岩や、岩が砕けた欠片のようなものまで散らばっていた。
「なにがあったんだよ!!」
一人叫んでも虚しいだけである。
走るのは流石に危ないのでカルロは足元に気を付けながら進んでゆく。
すると大地の割れ目に黒いものをを見つけた。
――なんだぁ?
気配と足音を消し、ただ何なのか確かめたいという思いで近づいて行った。
二メートルくらいまで近づくとそれが人であることが理解できた。
――俺と同じで置いていかれたくちですかね?
「おい、何やって――」
「おうわぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!! なんだ! なんだよ!! なんですか!!!
隊長もお前もなんで俺の”異能”に反応しねぇんだよ!! てかお前、その装備はブルグントじゃねえか!!」
黒いもの=クロードはカルロを蹴り飛ばし、セントラ兵の死体から奪ってきた粗悪なナイフを抜き放った。
「ちょっと、待とうか」
MOSDを使いクロードの足元に即席の落とし穴(サイズ大)を作り、落とす。
没シュートである。
落とした後は穴の縁を壊して半分生き埋めにした。
「おめーこんなところでなにやってんだよ」
なにか哀れなものを見るような目で語り掛ける。
「それはこっちのセリフだ! ブルグントの狗」
対するクロードは今にも噛みつきそうな犬のように答える。
「いや、俺の今の所属は……多分アカモート」
「アカモート? 白い自称雑用係りと同じとこか」
「は? 雑用係り?」
――雑用…? 雑用と白いと言えば…。アカモートのあちこちで掃除(広場の落ち葉集めとか)、運搬(運送業者いるのに)、補修(壁とか壁とか壁とか)、魔物退治(主に飛龍とか海龍とか)、お魚(マグロ)咥えた野良猫(ライオン並みにデカいやつ)を追いかけていたレイズしか心当たりがないんだが……もしかして。
「レイズのこと言ってるならそうだ」
脳裏に浮かんできた一人のことをさらりと言う。
「あー、だったら”今は”敵じゃない。さっさと俺を掘り出してどっか行け」
「じゃあな、そこからは自力で脱出しろ」
「おい! ちょっと待てぃ!」
――うん、どうでもいい。だって蹴られたし、あれくらいはいいだろ?
カルロは一人、歩いていた。
見渡す限り草原でなにもない。
――地雷とかレーザー攻撃衛星とかねえだろうな?
だが何もないからこそ、何かあるように思えてしまうのが人だ。
空を見て(当然、地上から衛星なんて見えない)、地面を見て(素人に地雷の有無なんて判らない)、慎重に進んで行く。
そして慎重に進んでいたから気づいた。
――人? どこのやつらだよ、統一性のない装備しやがって。
とりあえず茂みに身を伏せ、様子を見る。
気づかずに歩いていたら鉢合わせしていただろう。
そして、ヒューっと音を立てながら彼らに隕石が三つ降り注いだ。
『めーいちゅー』
『生き埋めにした仕返しだ、思い知れ』
『いやいやー違う人たちが潰れたよー』
『チッ、座標を送れ、もう一発……』
無線機からはレイアの声とさっきの黒いやつの声が聞こえてきた。
――なにやってんの!? あのまま進んでたら俺が潰れたよ!!
「何やってんですかね!? あんた達は!?」
『次は当ててやる、覚悟しろ』
「はぁ!!?」
真上を見ると隕石が…戦車くらい簡単にスクラップに変えてしまうそうなデカい石が落ちてきていた。
ついでに背面に魔法陣を展開しながらレイアが飛行しているのも見えた。
驚きのあまり体が動かなかった。
ちょっと動くだけで回避できると頭で分かっても体がいうことを聞かない。
――やばい! やばい! やばい! 動けぇー! 俺の体ー!!
そのとき、ふと目の前を赤いものが過った。
それは女の子だった。
その女の子は軽く飛び上がって、隕石を蹴り飛ばした。
レイアの方へ、狙ったかのように、一直線に。
ゴガキィーーン!! とすごい音がしてレイアが墜落していくのが見えた。
――大丈夫か? ……いや、さっき座標云々言ってたし罰が当たったということで。
赤い女の子はいつの間にかレイアの方へと走って行っていた。
「なんだろうね、この状況。敵よりも変な奴らに殺されそうになるって……」
そうこうしている内に泥まみれのクロードが”飛んで”きた。
「テメェェさっきはよくもやってくれたなぁぁーー!!」
「……………はぁ、メンドくせー」
MOSDを向けて引き金を引く。重力場を解体されて地面に勢いよく落ちたクロードは受け身を取り、カルロへ向かって走る。
その後は路地裏の不良同士の殴り合い的な感じの喧嘩になった。
レイアが墜落した方向からは、凄まじい音がしてキノコ雲が上がっていた。