第七話 - 白と黒
五月二十日 午前八時
セントラ国南西部、沿岸警備隊基地付近。
漆黒武装小隊と呼ばれる部隊が待機していた。
スコール中尉を隊長とした五十人で、五人一組の班十個から成り立つ。
この小隊は様々な事情で除け者にされたり軍属になった者たちの寄せ集めであり、またそれぞれが濡れ衣で指名手配中でもある。
小隊の主な仕事は隊長の独断と偏見で決められ、
上層部の命令に従うことが殆どない。
しかし、実力者揃いのため政府の上層部も迂闊に手出しは出来ず、今のところは放置されている状態だ。
そのため他の部隊からは神出鬼没の盗賊団や、テロリスト的集団などと呼ばれることもあり、一部の地域では賞金首として登録されていたりもする。
小隊の中にはちらほらと戦闘服を着た学生の姿も見られ、
黒尽くめの青年もそこにいた。
一人だけ私服であり、場違いな雰囲気を醸している。
「なあ、学生の本分は『戦争に行く』ことじゃなくて『勉強』だよな?」
黒尽くめの青年は今までも何度も出てきた疑問を投げかける。
「これも『勉強』だろ」
「確か、今回は実地試験も兼ねると言ってましたよ」
「あ、それって卒業の点に入るって言ってたね」
そのような答えばかりが返ってきて青年は項垂れていた。
――こんなとこに生徒を送る学校も学校だよな……。
そんなことを思っていると隊長が近づいてきた。
隊長の身なりを一言で表すならば”悪人”だ。
パサついた金髪の大男。
そこらの路地裏でかつあげしてます、と言えば誰もが信じるだろう。
「クロード准尉、これから今回の任務内容を話す。よく聞いておけよ」
「へーい」
もうこの時点でクロードは気分が重い。
ものごころついた時にはすでにこの部隊で戦っている。
それほどの長い付き合いでこの隊長がどれほどムチャクチャな命令を下すのかはおおよそ察しが付く。
下された任務内容は三つ。
沿岸警備隊の基地に向かい、先日クロードが一戦交えた秘匿部隊ブランクの殲滅。
及び基地内に保管されている”白い宝石”の奪取、そしてそれが終わるまでの他の敵勢力を寄せ付けないことだ。
隊長曰く『やられたら徹底的にやり返す』とのことで今回召集されたわけだ。
「准尉、貴様には学生どもを指揮してもらう」
「わかりました。それと実地試験を兼ねているようですが、評価などはどうなるんでしょうか」
「それは知らんが、まあ、結果次第では学校のほうに役に立つ奴らだったと言っておこうか」
「そうですか。それと学生たちの指揮についてですが」
「ふむ、そこは貴様が決めろ。どんなやり方でも死ななければ構わん」
そしてどうでもいいという感じで隊長は立ち去って行った。
「はぁ……いつも通りいい加減だな。
てかこのあたりってウェアウルフの生息地じゃなかったか?」
ウェアウルフはセントラ国各地の平原に生息する人狼だ。
非常に俊敏で黄土色の毛に強大な体躯を持ち、アサルトライフル程度では傷をつけることが難しいほどの堅牢な皮膚を持つ。
現在のクロードの装備はベルトにコンバットナイフが四本と、
靴下と靴底の中にナイフガン(銃弾を撃ちだせるナイフ)が二本ずつ、
計八本のナイフとレイアに修理してもらった”ギア”だけだ。
指揮する学生たちは二人がバーストライフルを扱え、残り二人は工兵で爆薬を扱える。
そのため、
「出くわしたら当然、俺一人で相手するんだろうな……」
という答えがでる。
ライフルを撃っても精々気を引く程度だし、
爆薬を使って吹き飛ばそうにもすぐに接近されてしまう為使う暇がない。
対物ライフルでもあればいいが、そんなものはこの小隊にはない。
クロードは学生たちに進軍中にウェアウルフに出くわした場合の対処を説明した。
作戦開始前から嫌な顔をされたが死なれるよりはいい。
そうこうしている内に隊長から召集がかかり、
一人を除いて全員が二台のトラックへと乗り込んでいく。
全員が乗り込むとトラックは悪路を走り始める。
トラックは草色で荷台には骨組みが立てられ幌が張られている。
草原の色と相まってそれなりの迷彩効果があるので遠くからでは発見しずらい。
クロードはそんなトラックの幌の上に寝転がっていた。
二五人ずつでも狭いのに、学生四人を無理やり乗せた結果、
かなり狭苦しくなったので逃げた訳だ。
見渡す限り人工物は数キロ先に見える基地だけだ。
他は草の緑ばかりでつまらないので、ヘッドセットを付け無線機片手に空を飛んでいる鳥を眺めていた。
『クロード准尉、何か見えるか』
「草、草、草、草ばっかりだ。クライム少尉、俺の転科願いどうなってます?」
『君の書状はすでに中尉がお読みになった。却下とのことだ。それと、何かあったらすぐ連絡するように』
「りょーかーい。……何も起こらないだろ」
そう呟いたとき、破裂音が聞こえたような気がした。
起き上がりさっとあたりを見回すが、特に異常はない。
「気のせいか」
再び寝転がって上を向くと、黒い点のようなものが見えた。
「なんだ? 鳥……じゃあないな」
黒い点はどんどん大きくなってゆく。
「落ちて……来てる?」
そう思った時には黒い点が何なのか分かった。
無線のスイッチを押して叫びながらトラックから思い切り身を投げた。
「四脚戦車だーー!!」
着地と同時に凄まじい破壊音が響き、
振り返ればさっきまで乗っていたトラックが潰れ、赤黒いものが飛び散っていた。
「くそっ!」
もう一台のトラックは衝撃で横転しており、
乗り込んでいた味方たちはすぐに脱出し、
四脚戦車へ向け銃撃を開始した。
だが、弾は一発も当たらない。
周囲の空間が不自然に歪み、すべての弾丸が逸れてゆく。
「ギア搭載型かよ!!」
四脚戦車は車体上部に機関砲と無反動砲を二つずつ備え、
中央に紫色に光る装置がある。
その装置こそが”ギア”と呼ばれるものであり、
周囲の重力場を任意に操作することが出来るものだ。
不意に四脚戦車が動き始め、クロードに照準を合わせた。
「やべぇっ!」
あわてて自分のギアを操作する。
あれ以来使うのは初めてだ。
一瞬で効果範囲を入力し発動させると、
以前とは比べ物にならないほど出力が上がっていた。
その直後四脚戦車の砲が火を噴いた、飛んでくるのは砲弾。
今までに逸らすことは出来たが防げたことはない。
クロードは反射的に目を閉じ、腕で顔を覆った。
数秒たっても何もないので恐る恐る目を開けてみると、
不思議な光景が目に映った。
四脚戦車は絶え間なく砲弾を撃ち出している、だがその音は全く聞こえず、
砲弾はクロードの展開する重力場に触れると運動エネルギーを失い落ちて行く。
「……これって全部遮断してるのか?」
とくに考えることもなく無線のスイッチに触れる。
「こちらクロード、聞こえたら応答してくれ」
マイクに声を発するが、数秒たっても応答はない。
どうやら強力な重力場は電波すら掻き消しているようだ。
「まあ、これなら余裕で潰せるかな」
とりあえず余計なことは今は考えないようにして、
目の前の敵に意識を向け攻撃を始める。
四脚戦車に駆け寄りながらベルトから右手でナイフを抜く。
クロードは四脚戦車の脚から登って、まずはギアを破壊するつもりでいた。
だが、あと少しの距離まで近づいたところで進めなくなった。
どうやら互いの展開している重力場が干渉して弾き合っているようだ。
「ふんっ!」
いくら力を入れても弾き合い進めない。
すると突然、四脚戦車が飛び上がりクロード目掛けて落下してきた。
このまま押しつぶすつもりだ。
クロードは咄嗟に自分に掛かる重力の向きを変え、横向きに落ちた。
「さてさてーどうするかな」
近づくためには重力場は消さないといけない、
だが消すと砲弾に撃ち抜かれる。
音が遮断された静かな状況で冷静に思考する。
――無線使って連携ってのが出来ねえしな。……音も電波も遮断されてるし。……ん? 電波を遮断? 電波って電磁波だよな? 電磁波ってことは光も遮断できそうな……。
そこまで考えてある一つのアイデアが浮かんだ。
ギアの出力が大幅に強化されているなら、
自分じゃなくて相手を囲むように重力場を発生させて、
光をも遮断してしまえば認識されなくなる。
その間にとんずらしてしまえばいいんじゃないか?
クロードは即座に実行に移した。
ギアを操作し効果範囲を相手の重力場と重ならないギリギリの位置に設定、
出力を最大にして発動させる。
一瞬空間が歪み、空間が裂けたような気がした。
そして忽ち真っ黒な球体のようなものになった。
すぐに無線のスイッチを押し、叫ぶ。
「今のうちにずらかるぞ!!」
クロードを含めた二十八人はトラックに乗って走ってきた道を辿り緩やかな丘の上まで駆けた。
その間、四脚戦車からの攻撃は一切なかった。
全員がメタマテリアル(電磁波を欺くもの)と、
ペルチェシート(赤外線レーダーを欺くもの)を使い迷彩が完了したのを確認して、クロードは重力場を解除した。
その瞬間、皆なにも言えなくなった。
真っ黒な球体があった場所だけ綺麗になくなっていたのだ。
四脚戦車は勿論のこと地面すらなくなっていた。
「………マジで空間が裂けてたのか?」
クロードがぽつりと呟いた。
GEAR(Gravity Energy Application to the Raise)、
重力の力を応用し、より高みを目指す。
ギアの当初の開発目的は莫大なエネルギーで重力を操作し、人工的重力場を形成。
空間に穴をあけ長距離の移動やラグのない通信を実現するということだった。
だが、それだけのエネルギーを作り出せないという事と、
仮に用意できたとして制御できないという理由で計画自体が難航、
半凍結状態になっていた。
しかし、今、クロードのギアはその二つを成し遂げた。
他の者達はなにが起きたのか理解していなかった。
だが、そこにあったものが消えたという事実から、
消失したか別の場所へ飛ばされたかの二つに考えが行き当たり、
皆別の場所へ飛ばされたものだと思った。
次に言葉を発したのはエンジニアだった。
クロードの携帯端末型のギアを指しながら、
「なあクロード……お前、そのギアに何した?」
別のエンジニアも、
「こりゃあ、すげえことだぞ……」
そんなことを言いながら、かなり感情が高ぶっていた。
クロードは部隊を再編するためエンジニアたちのことは無視して確認を始めた。
「そんなことより、まずは生存者の確認だ。リンドウ! シルフィ!」
「大丈夫」
「こっちもなんとか生きてる」
それなりに付き合いの長い二人を呼び、いることを確認する。
「隊長! 隊長はどこに……」
周りの二十七人の中に隊長の姿はなかった。
クライム少尉もいなかったため、クロードが階級と在籍年数順では一番上になる。
「隊長……死んじまったのか……。
仕方ないか、取り敢えず一時的に俺が指揮を執る。まずは――」
そこから先を言おうとして背中をポンと叩かれた。
振り向くとそこには真っ赤な隊長が立っていた。
「おうわぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーー!!」
「なにもそこまで驚かんでもいいだろう」
よく見れば全身真っ赤なだけで血のにおいもしなければ傷もない。
「潰れて死んだんじゃ……」
「潰れたのはトラックとオイルの缶だ。
他の奴らは腕が潰れたりしているが死んじゃいない」
隊長の後ろを見れば他にも真っ赤な仲間たちが歩いてきていた。
傍から見たら血まみれの軍団が歩いている、
かなりホラーなものにしか見えないだろう。
「……赤いオイルなんて積んでましたっけ?」
「ああ、積んでいたよ。滅茶苦茶高価なやつを。
これが終わったら売って金にするつもりだったんだがな」
顔は笑っていても凄まじい怒気が伝わってくる。
「それってこの間の作戦で中央の貴族から盗んだアレですか?」
「そうだよー」
笑っている、確かに隊長は笑っている。
しかし体から放たれるドス黒いオーラのようなものが凄いことになってる。
「隊長、まさかとは思いますが、そのオイルの恨みを晴らすためになんかやったりします?」
「やるとも」
そう言った隊長はいつの間にか拡声器を手に持っていた。
「各自、分隊編成! 怪我人はこの場で待機! クロード准尉は先に海岸へ行き、逃走するであろう敵を待ち伏せしろ」
指示が出ると同時に、隊員たちはすぐに分隊を作ってゆく。
「なんで俺一人!?」
「貴様は一人で一個中隊を相手にできるだろう?
先日ブランクの小隊を三つ殲滅した実績もあることだ、頼むぞ准尉」
先日の一件をかなり誤魔化して報告した報いが今きた。
一応小隊としては桜都国と、正確には桜都国のPMSCsとは敵対しているので、
一緒に戦いましたとは言えなかったのだ。
「うぐっ……わかりました、やりますよ」
この隊長には抵抗したところで無駄だということを嫌というほど知っている。
しぶしぶ命令を承諾し、罠を張るため工兵にプラスチック爆薬を貰いに行く。
「おい、一キロくらい分けてくれ」
「あれから爆薬の講習は受けたのか?」
「受けてねえよ」
「じゃあ、渡せないな」
「そういうこと言うなってー、少しくらいはいいだろ」
無理やり取ろうとするが止められる。
「ダメだダメだ、銃器の訓練受けてない俺らが銃を使えないように、
爆薬の講習受けてないお前は使ったらダメだ」
そんなこんなで追い返されたクロードはこっそり爆薬一キロと、
無線起爆の信管を十本くすねて海岸へと向かって行った。
海岸に近づくにつれて銃声が聞こえ始めた。
「やべぇな」
前方の海岸沿いでは、よく分からないが交戦中のようだ。
そして後方は・・・・・・
「ウェアウルフ十匹をどうするかな」
道中、運悪くウェアウルフの群れに遭遇してしまい、
ここまで追いかけられている。
追いかけてくるウェアウルフには血が付いている個体もいる。
遭遇してしまったときはダメもとでナイフで切りつけてみたが、
刃が欠けてしまった。
仕方なくギアを使って飛び回り、爆薬を直接貼り付け、
爆砕するという荒技で九匹は仕留めたが、爆薬が無くなり逃走に移った。
そして今、ギアのバッテリーが切れて必死になって走っている状況だ。
クロードは無線のスイッチを押しながら、
「隊長ー!! 迫撃砲ありましたよね!?
ちょっとこっちにぶっ放してくれません!?」
銃撃は跳ね除けることができても迫撃砲の攻撃はどうにもならないだろうと考えてのことだ。今まで迫撃砲の砲撃を躱したことはなんどもあるため自分が被弾するということは頭にない。
だが無線機からは隊長の声ではなく、別の声が返ってきた。
『伏せて』
先日の少女の声だ、そして伏せる前に全身を激痛が襲った。
「あだだだだだっっ!!」
――なんだ!!なんだよ!!なんですか!?
痛みに耐えきれずクロードはその場に倒れ、ウェアウルフどもは逃げてゆく。
『やっほー、生きてるー?』
「ぜぇ……ぜぇ……、い、生きとります……っつかテメェ何しやがった!?」
『マイクロ波当ててみましたー、電子レンジがものあっためるのと同じような感じだね』
「……ってことはあれか、体表面の水分子を振動させてってやつか?」
『はい、正解。あ、今そっちにレイズが行ったから気をつけてねー』
その会話で通信が切れた瞬間、セントラ兵の死体が飛んできた。
死体が飛んできた方向を見ると白い髪の男がもの凄い速さで向かってきていた。
片手に持っているのはバナナ型の弾倉が刺さった木製ストックの例のやつ。
「あの速さは魔法士かよ……」
クロードはセントラ兵の死体から残っていた手榴弾二つを抜き取り、
自分のベルトに引っ掛け、
ハンドガンも奪い向かってくる男へ向けようとした。
その瞬間、いつもの様に体が自然と動いて横転した。
さっきまで立っていたところを七.六二ミリの弾丸が抉る。
「あぶねぇな!」
すかさずクロードもハンドガンで撃ち返すが障壁にすべて弾かれる。
「くそっ!」
ハンドガンを捨て、ナイフに持ち替えこちらからも接近してゆく。
ジグザグに回避行動を取り、
狙いを付けさせないようにするが相手は撃ってくる。
――二十七、二十八、二十九、三十…弾切れだな。
回避行動を止め、まっすぐに相手を目指そうとした。
しかし、今度は火炎弾が飛んできた。
一発目は横っ飛びに回避し、二発目はナイフを投げつけ爆発させる。
「思った通り接触起爆か」
爆発の炎がちりちりと肌を焼く。新たにナイフを抜き放つ。
爆炎が晴れると白い男がナイフを振りかぶりながら飛んできていた。
「ほんと…ついてねえよなぁ!」
ナイフを逆手に持ち替え、相手のナイフめがけて振るう。
カキィン! という音と共に火花が散る。たった一撃で右手が痺れた。
「こんの野郎!」
左手でナイフを抜き、次の攻撃を防ぐ。
「テメェどこの所属だ!?」
そう問いかけると以外にも白い男は攻撃をやめ、悠長に答えた。
「アカモート雑用係りのレイズだ」
「はぁぁ??」
「いやなに、俺だってこんなとこ来たくて来てる訳じゃねぇんだよ。
借金の返済期限延長の為と理不尽な上司のせいで、
こんなとこまで仕方なく来ててさー……」
聞いてもないのに相手は愚痴を言い始めた。戦場であるというのにまったく警戒していない。
「もう戦うのも面倒だからさ、お互いここは退かないか?
そのほうが俺は楽できるし、お前も余計な仕事しなくていいだろ? な?」
「…………でもなぁ……一応仕事だし、うちの上司もかなり面 倒な人だから」
クロードはさり気なーく手榴弾のピンを抜いて、
「悪いな」
不意を衝いてレイズのシャツにの中に、首元から手榴弾を入れて一目散に走った。
「あ、ちょ、これはねえだろーーー」
そんな叫びが聞こえた後、ボフンッ! と乾いた爆発音が聞こえた。
至近距離での爆発、それも対人殺傷用の手榴弾。
上半身くらいは綺麗に吹き飛んだだろうとクロードは思った。
「さて、取り敢えずは…」
気配を感じ咄嗟に横に跳ぶ、後ろから拳くらいの大きさの石が飛んできた。
「いい度胸してんなァ!」
「なんで死んでないんだよ!?」
「転送魔法で空中に転移させて障壁で囲めばどうにでもなんだよ!
それよりお前もなんだよ、銃弾避けるわ石も避けるわ」
再びナイフを抜いて構える。
「そりゃあ、天性の才能ってやつだな」
「そうか、じゃあどこまで避けられるかな」
レイズが腕を振るうと大地が割れ、岩が四つ浮かんだ。
当たれば人ならば確実に潰されるほどの大岩だ。
「おい……ちょっと待てよ、それはなっ――」
なんの前触れもなく、いきなり岩が飛んできた。
手榴弾のピンを抜きながら思い切り横に跳び一つ目をよけ、
手榴弾を斜め上に投げる。
そしてすぐに前に飛び込むように伏せ、
飛んでくる岩の下に入り二つ目をギリギリ避けた。
三つ目はさっきの手榴弾の爆風がちょうどいい感じ当たって軌道が逸れる。
四つ目は反射的に避けてはいけないという感じがしてナイフを投げつけた。
岩は凄まじい音を立て、爆散した。その破片が体にあたる、
これは避けようがない。
「どうだ!」
さっきまでレイズがいた場所を見ると影も形も無かった。
「終わりだー!」
声は上から聞こえ、そちらを見ると真っ白な剣を振りかぶるレイズの姿があった。
「ちぃっ!」
素早くしゃがんで両の手にナイフガンを持ち、レイズへ向けて撃った。
左右四発ずつ、計八発を撃ち銃声がなぜか九発分聞こえた。
そして剣が消失し、レイズが落ちる。
「やったか」
慎重に近づいて行き、顔を覗き見る。
額には弾が突き刺さっていた。
「これは……な…い……だろ」
その一言を最後にレイズは動かなくなった。
クロードが撃ったのは九ミリ弾、
レイズの額に刺さっているのは七.六二ミリ弾。
「一体……誰が撃ったんだ?」
その答えはすぐ後ろから返ってきた。
「私だよー、また会ったねクロード」
振り向けば先日、一緒に戦った少女がいた。
その手にはまだ煙の上るライフルが握られていた。
「なんで俺の名前を知っている」
「前にも言ったけどセキュリティが脆弱すぎるから、簡単に調べることはできたよ」
「なるほどな、それでお前の名前は?」
「レイアだよ。それと改めて言っておくけど、私は桜都国のPMSC白き乙女所属だからね」
「分かってる、今は戦うつもりはないし、いつ戦っても勝てそうにないから戦わない」
「そう、ちょっと残念だなー」
「戦う気だったのか……」
「冗談だよ、それじゃ私はレイズを持って行くから。じゃあね」
そういって華奢な体で難なくレイズを持ち上げて海岸のほうへ走って行った。
「よく持てるな……いや、こないだは五〇キロくらいのライフル持ってたしな……ま、取り敢えず待ち伏せのために隠れるか」
レイズのとの戦闘で相当悲惨なことになった地形を眺めながら、
クロードはどこにどう隠れるか考え始めた。
トラップをはるために持ってきたはずの爆薬はすでに使い果たしてしまっている。