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第六十二話 - セントラ市街戦 〉〉 破滅への戦い

 スコールとウィリスは街中を駆け抜けていた。

 安全域であるはずの街中はいつも以上に危険地帯になっている。仕事を終わらせたからと撤退に移行し始めたところでホロウというとてつもなく厄介な魔物が湧き始めたのだ。排水溝の隙間から、マンホールを押し退けて地下から、路地の暗がりから、とにかくあちこちからだ。

 基本都市部とその周辺は定期的な哨戒と掃討が行われているはずだから魔物は出ないはずだ。だというのにこれほどまで湧き出すのは誰かが引き込んだか召喚したか。


「ヴァレフォルのクズ野郎かっ!」


 ウィリスが走りながら前方で爆発して飛散する瓦礫を停止させる。


「それしかないな」


 脇道から飛び出してきた装甲車両目掛けてスコールが手榴弾を放り投げる。車体上部の砲塔へと消えていったそれは数秒後に炎を吹きだした。普通のものではなくテルミットだ。内部は灼熱地獄になっている。


「どうする」

「残念ながらあの系統の魔物は無理だ」

「ドラゴン仕留めたやつが何言ってやがる」

「あんときはたまたま弱ってる小型の水棲種を陸上で迎え撃ったからやれただけだ」

「それじゃねえよいつだっかなほら、バカデカイやつ」

「竜人族の――!」


 ウィリスの首元を引っ張って路地に飛び込むと同時に、さきほどまでいた場所を焼夷剤が包み込んだ。


「火炎放射器かよ」

「遮蔽物の多い市街戦にはちょうどいいな」

「呑気に言ってる場合か、さすがに流体をまとめて停止させるのはきついぞ」

「じゃあ逃げよう」


 路地のバケツを蹴り飛ばしながら走っていくと、後方から轟! と音が響いて熱波が押し寄せる。


「射程長すぎねえか!?」

「勘違いしてるようだが火炎放射器の射程は口径を小さくしてシリンダーを弄れば百メートルくらい余裕で飛ぶぞ」

「……はっ? 俺の知る限り十メートルそこらなんだが」

「これだから魔法使いは……」


 路地を抜けた先でバリケード代わりにバスが止められていた。

 その前に差し掛かった、その瞬間にバスの車体側面から勢いよく炎が噴き出した。数秒遅れて爆音とともに横転し、真上にすさまじい火柱を押し上げる。


「まずいな……」

「最強無敵がなに言ってんだよ、何とかしろ!」

「無理だ」


 まるで戦時中のような場所を走り抜け、がら空きのジャンク品ショップに入り込むとガラクタを集めて入口を封鎖する。一時のセーフゾーン。


「フェンリルは使えないのか」

「どこにいるか分からん上に連絡の方法もない」


 裏口に向かいながら店内を軽く見るが使えそうなものはない。

 せめて紙とペンがあればと思ったが、そんなものすらおかれていなかった。


「スコール」


 小さな声で言われて止められる。

 ショップの裏の加工場、とでもいう場所にホロウが一体。人の形をした重油のようなドロドロとした不定形の魔物だ。


「やるか……一体程度ならやれる」

「どうやって? あれは飽和魔法攻撃じゃないと……俺だけじゃ無理だ」

「忘れたか、これでも一応は神力も使える」


 加工場に踏み込んでホロウが気付くと同時に、詠唱をせず術の形にもせずに力だけを圧縮する。手の平に握りこむようにしたそれをサイドスローで投げるように開放する。レイズには遥かに劣る量の力だが、それだけでも十分だ。


「ウィリス」

「任せとけ!」


 飛び出し、腰に掛けてある臙脂色の剣の柄のようなものを掴み魔力を流し込む。刹那、青白いブレードが飛び出して剣の形となる。


「らぁっ!」


 バギリッ、強化ガラスを叩き割るような音とともにホロウが虚空に溶けて消えていく。セントラのライブラリには載っていない魔物であるため、倒し方を知っているものがいないだろう。


「あっけないなぁ……ってお前何してんだ?」


 ウィリスが振り向いた先では機械を稼働させて、廃材のような錆びついた鉄の棒を加工しているスコールの姿があった。

 プレス機を使って平たく伸ばし、グラインダーで削って刃を作り、油圧カッターで持ち手の形を大まかに作るとハンドグラインダーで研磨して慣れた手つきで糸を巻き付けながら編んでいく。

 ものの数分で片刃のショートソードが出来上がる。ちなみに本来はショートとロングの区別はそれを使用する兵種による。


「……すぐに折れそうだが、まあいいか」

「お前は刀鍛冶か?」

「どこが……こんな堅さが均一の剣なんざ斬撃じゃなくて打撃用にしかならん。しかも折れやすい」

「じゃあなんで研いだ……」

「一応切断には面積と圧力と。だからな」


 そう言って裏口から一歩踏み出したスコールは即座に加工場に戻った。


「どした?」

「……さすがにあれは無理だ」


 ウィリスが顔を出して外を見ると、ホロウの群れがうじゃうじゃと。人型、四足歩行の獣型、タコやイカのような変な型までいろいろと。


「無理だ」


 ウィリスも引っ込むと、言葉もなしに協力して廃材を集めて裏口を封鎖する。


「…………」

「…………」


 金属系の廃材はかなり頑丈で重い上に壊そうとすれば怪我をするという、コンクリートのバリケードよりも厄介なものになっていた。まだ外から侵入しそうな気配はないが、そうなっても十分な時間を稼げるだろう。


「表側は別のところが撃ち合ってるぞ」


 適当に見てきたウィリスが作業台に腰掛けながら言う。スコールはスコールでなにやら機械とガラス板のようなものを引きずり出して、壁をハンマーで砕き電気通信線を引きずり出して切り裂いて、そこに接続する。


「それは?」

「セントラじゃ操作席コンソールって呼ばれてるな」


 スイッチを押すと瞬時にガラスの板にウィンドウが表示され、手元には仮想キーボードが現れる。


「さすがセントラ製」


 他所の機器と違いこの国で出回っている情報端末は起動にかかる時間がほとんどないに等しいほど早い。スコールは手早くキーに指を走らせて何かを打ち込んでいく。


「おっ?」

「さすが、仕事が早い……ああくそっ」


 街路の監視カメラの映像が出たかと思ったはしからスノーノイズに覆われて消えていく。それでもスコールは口ではやけになりながらも、思考と指はしっかりと動いていた。長い文字列を打ち込むとSOUNDONLYのウィンドウと共に声が響く。


『援護いる?』

「ああ、レイアのコンバットパターンで航空支援を。展開術式は対地射撃多めで」

『おっけぇー……敵のウィザード黙らせたらすぐに飛ぶから』


 ウィザード、この場合は魔法士や特定分野を極めた熟練の者ではなく電子戦闘に長けた者だ。組織的な電子戦になれば必ずと言っていいほど仮想戦闘部隊の支援に配置されている。


「でぇ? ゼロの支援が来るまでにぃあっ!?」


 腹の底に響くような揺れと爆音が響き、表側から砂埃が流れ込んでくる。


「今度は……なんだよ!!」

「ウィリス、こんな魔法の戦場より危険な街で驚くな。いきなり重爆撃機の絨毯爆撃があってもそれが普通だから」

「こんなところに順応してるお前らが怖いね……」


 空襲警報のサイレンなんて日常的に無人戦闘機が飛び回っているだけあって鳴ることはない。続けて響いた爆音で裏手側が赤く染まったのを見るや二人は表側に駆け出した。間一髪で炎に飲まれずに済んだが、現実はそれからさらに厳しさを増す。

 何か小さな細い影がスコールたちの頭上を通過して、その翼から細長いシルエットを切り離していく。


「おうおう……街中で派手に爆撃か」


 風を切り裂く音、連続する轟音、鼓膜を叩き割りそうな衝撃波、肌をちりちりと焼く熱風。

 一度目の爆撃を終えた機影がターンして再び頭上を通過したとき、対人レーダーにでも引っかかったのかピンポイントで一発投下された。


「お、ぉぉぉおおおおおおおっ!?」

「本職の軍人がなに驚いてやがる」


 一歩下がるとスコールは先ほどのショートソードをバットのように構え、弾着の寸前で真横から斬撃……ではなく打撃を入れた。若干斜め下を向いた一撃で衝撃を流しつつ、それをへこませながら数メートルほど転がす。


「ウィリス」

「…………」

「なに呆けてる、行くぞ」

「お前、爆弾を……」

「よく見ろ爆弾じゃない」


 ガヂチチィと金属の装甲を軋ませながら出てきたのは人の形をしたものだ。


「パワードスーツか!」

「残念、機械兵だ」


 途端、人ではないと分からせるかのように腕のパーツが広がって内部から銃口を覗かせる。ベルトリンクはなく、その代わりにバッテリーボックスのようなものがあるところからして、


「レーザーライフルだな」


 と、スコールが呟いた時にはゴミの山に隠れていて、ウィリスは近くに転がっていたバスの残骸に隠れた。


「ウィリス、こっちだ!」

「バカ! ゴミの山より金属のほうがっ!?」


 ジジジィと銃声ではなく高圧電線から放たれるような音を発して瞬間でバスの残骸に穴が開いて、赤熱した銃創だけが残る。光速の射撃……と言っていいのかはわからないが、それを人の目で認識することはできない。


「なんでバスは貫通してゴミの山はきちっと弾いてるのかねぇ!!」


 横薙ぎに掃射された後を見ればゴミの山だけが貫通を防いでいる。実際に目にするとバリケードになりそうにないゴミの山がこれほど役に立っているのは、生ゴミも粗大ゴミも何もかもが混ざっていい感じになっているからだろう。


「クロスアタック」

「了解」


 しばらくすると冷却のために射撃が止まる。ガスを使用しての冷却だから時間はほとんどないが、同時に飛び出したスコールとウィリスは怯むことなく仕掛ける。魔力を流し込んだブレードが十メートルほどにまで伸び、狙いを付けられる前に振り下ろす。青白いブレードが機械兵の逆関節を使った回避行動で綺麗に外れてしまうが、そこを逃さずにスコールが足を狙った横薙ぎを一撃を放つ。回避直後は低性能な一般兵器では硬直してしまい連続した行動はできない。

 金属フレームの折れ曲がる嫌な音を聞きながらスコールが伏せ、その頭上をブレードが通過して機械兵に留まらず周囲の建物の壁まで斬る。


「出力あげすぎたかな」

「十分だ、対魔装甲だからそれくらいでちょうどいい」


 黒緑色の装甲を蹴りながら空を見上げる。

 飛行型のホロウと無人戦闘機、ウィングユニットを付けた飛行兵が青い嵐から逃げ惑っている様子が窺えた。当たれば容赦なく消滅への片道切符が切られる魔弾。


「ツァウヴァクゥゲル……コールサインがかぶってるな」

「なんのことだ?」

「いや、こっちのことだ。気にするな」


 押し付けられた仕事はとうに終わっているが、このまま離脱するには少々問題がある。

 街中にホロウが出現しているということは最優先殺害目標が近くにいるということであり、これを逃せばいつどこで接触できるか分からない。しかも魔物については上官たちが知らないため、このまま帰ってすぐに掃討作戦で駆り出される落ちが考えられる。


「ゼロ、上空から索敵。クズ野郎かホロウの発生源を探してくれ」


 移動しながら無線で伝えるとすぐに柱型の補助具(ピラーズ)が展開され、それがさらに魔方陣を多重展開していく。もとから魔力の保有量は少ないが、あらかじめ魔力を充填しておいた補助具を複製召喚で低コスト展開、そこから高コストの魔法へと繋げていく。

 昼間の蒼い空に描かれる青い魔方陣。

 地上で交戦中だった複数の勢力は突然のことに戦闘を中断していた。セントラのギアでは魔方陣なんて目に見える形に展開しないため、考えはすぐにブルグント側が攻めてきたか、そういうものに行き当たる。


「すごい規模だな……空一面、レイズのミーティアライン並みじゃねえか」

「あれは確か全力で撃てば半球壊滅させられるとか言ってたな」


 ある程度静かになった市街地せんじょうを進む。ところどころから無人兵器がホロウに向けて攻撃している音が響くが、効果はないようだ。

 そしてしばらくして、目当ては見つかった。



魔弾

魔法の弾丸

Frei Kugel

フライクーゲル、クゥゲル?

というのはさておいて、

Zauber Kugel にしました。

辞書で引いて読みが分からず、最初はザウバーかな? とか思ったのですがそれだとSauberという別の単語になるのでちょっと考えました。

ドイツ語って確か”Z”の音は濁らないはず。

なので

Zaツァ

uウ

berバ

と、したけれどあってるかな?

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