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第五十九話 - セントラ市街戦 〉〉 最強vs???

 殺人現場のような状態の後片付けを済ませたスコールは、リナにバスタオルを渡した。

 さすがに半裸の状態は目のやり場に困りはしないが恥ずかしいだろうという事で。


「あ……リナ?」

「ひっ……」


 露骨におびえた表情とまではいかずとも、隠しきれていない怯えがある。


「とりあえずだがなレイズ。聞いた限りはトラウマものの体験だぞ、ほんとならもっと怯えていてもおかしくはないはずだ」


 スコールの背に姿をほとんど身を隠すようにして、レイズの視線から隠れている。

 どういう事があったのかと言えば、流れで襲って襲われてレイズにやられかけたということが、去年の十二月ころにあったわけだ。その恐怖は計り知れないほどに大きかっただろう。

 その後ランダム転移で空高くに飛ばされ、落ちていたところをウィリスに救われるということになり今に至る。


「そもそもなあ」

「お前に説教されたかねえよ」

「ああそう。じゃあ端的に言うか、なんでウィリスとリナをこっちに連れてきた?」

「あ、いや、それは……逃げる時の転移に巻き込んだ……」

「なるほど。リナ、本当か?」

「…………」

「レイズ、正直に言え」


 疑惑の眼差しが向けられる。

 こいつならナニがあってもおかしくはない。


「……」

「言え」

「フライアがあんまりしつこいもんだから洗脳用の魔法で…………して……」

「へぇ、お前の個人的ルールの中には洗脳系統の魔法は使わないとかなかったか」

「時と場合によりけり……」

「レイズ」


 静かにスコールが立ち上がった。


「ちょっとそこに正座」

「…………はぃ」


 くどくどくっどくっど長いお説教が始まる。


「だいたいお前は一っっっ番最初の時から――」


 ◆お説教なんて面白くないので省略◆


 普通の人間ならば数十年も前のことなど覚えていることは無い。

 だがスコールはいままで繰り返してきた、確実に万単位は超えた過去のことを引っ張り出し、そこから言い始めたのだ。

 かなり大雑把に省略されたため、数時間で済んだが、そんなに長く続けたところで受け手側の集中力が持つわけがないことを知っているため、終わりを告げた。

 一段落ついてスコールが元の位置に座ると、巻き込まれでお説教を眺めていたリナが眠気に負けてぱたりと倒れ、スコールの腿のあたりに着地する。


「レイズ、そこの奥の棚にバスシーツが入れてあるから出せ」

「へいへい……」


 なんだかもうこき使われる立場に定着しつつある。

 一応言っておくが、これでも白き乙女というありえないほど強力な戦力を率い、真面目なときならば単独で国を相手に戦争できる阿呆である。

 バスシーツ、もしくはタオルケットを取り出したレイズは、スコールに膝枕のような状態で眠っているリナにそっと掛けた。


「そういや、お前の周りの女どもはどんどん減ってるな」

「まず男衆がほとんど行方不明なのがおかしいんだけどなあ。なんであんなに男女比率が偏ってんだか」

「仕方ないだろ。睦月は勝手に行動できる権限あるし、師走たちは死んだし。団長はそもそも所属が違うし。それにベインだってなんか仕事があるんだろ」

「まあそうだけど……てかウィリスはどこ行った」

「知るか。路地裏でリナが不良に絡まれてたからちょっと襲撃して連れてきた」

「……お前さ、一般兵には勝てないんじゃ?」

「何言ってんだ。路地裏の不良だ、そこらの軍服脱いだ軍人どもからライフルかっぱらって脅せばすぐに終わる」

「ひでぇ」


 確かにこの街にはキャンサー隊のような、”一般市民”に紛れ込んだ軍属の者が多数存在している。

 しかしそれでも軍属であり軍人。誰かのように訓練をサボったりはしていないためしっかりと基本通りの動きができる。そして基本通り、パターン化された行動はスコールにとってはとても撃破しやすくある。


「ま、そりゃそうとほんとに減ったな。メティとアイリはあっちで、クレスティアは……そこか」

「ああ、ここだ」


 胸元の青いネックレス。その先端にぶら下げられた魂の結晶とでもいうべきもの。


「そんでもって、フライアとかセーレとかフェネとかクレナイとかノルンとかその他もろもろ全員寝取られたか」

「その表現酷くない!? 間違ってないけどさ!」

「ついでにラティナとかアイギナとか実験体とかその他もだな」

「…………いや、別に俺の女という訳では……」

「とられたよなー」

「……つかそういうお前も蒼月を!」


 掴みかかろうとしたレイズだが、次の一言でフリーズした。


「ああ、邪魔だから殺した」

「は……………………」

「一人の方が身軽でいいし、守る必要がない分余計なことに気を割かなくてい――」

「ふざけんじゃねえぞ!」


 ゴバッ!! とモーテルの壁が吹き飛び、瓦礫に混じってスコールが弾きだされた。

 背中からアスファルトの駐車場に叩き付けられながらもすぐに体勢を起こす。

 だがふらついている。

 骨が折れた、内臓もすこしやられた。


「く……げふっ、本気になりやがって」


 確かに触れられた瞬間に術式盗取インターセプトをおこなったが、術そのものが複雑且つ大きすぎて奪い取れず、効力を減衰させるにとどまった。

 ”魔術”の場合は魔法と違って妨害対策として別の術を組み込むことがある。結果的に発動速度は遅れるが、その分発動できる確率は上がる。


強制えぃ(フォーシン)――」

「遅い!」


 瞬間的に行われた加速と硬化の魔法、それはスコールに接触する前に解除され物理現象だけが衝突する。

 音速を越えた、認識速度を超えた一撃でスコールの体が冗談のように吹き飛ぶ。

 モーテル前の駐車場に停められていた車にぶち当たってずるずると落ち、ふらつきながらも立ち上がる。


「……多重であらかじめ発動寸前まで用意、さらに保管場所は個人管理のイーサの中か」


 魔法の発動から終了、事象の定着までが異常に早い。


「お前、頑丈すぎやしないか。今の攻撃は一応隔壁を体当たりでぶち壊すためのものだぞ」

「言ってなかったが、これでも障壁は展開できるからな」


 ある意味正解であり嘘である。


「お前、魔法も魔術も使えないだろ」

「だから? 神術は一応使えるぞ」

「神術じゃないのは視えている。俺の眼を誤魔化せると思うな」

「視て壊して盗んで、なんでも使えてホントにだな」

「…………」


 すっと、レイズが虚空をなぞるように腕を動かした。

 赤と白の文字列が帯のように辺り一帯に散らばっていく。


「ここは我が領域、何人も立ち入ることは許さぬ」


 発せられた結果の定義に従って魔術が自動的に組み上げられ、広範囲に精神干渉の力が広がる。


「殊勝な判断、これで一般人は近寄れなくなったわけか」

「お前と本気でやりあったら確実にカタストロフィが起こるからな」

「そうか……」


 ふらつく体に鞭打って、いつものように立つ。

 もう正面切ってぶつかるしか道がないが、そうやってまともにぶつかり合えば確実に今の状態では負ける。


「なあスコール」

「喧嘩の途中で呑気に話すか」

「別にいいだろう、なんで殺したかだけ聞かせろ」

「さっきも言った。邪魔だから」

「本当にそれだけか」

「さてな……。ま、あいつにも言ったが、あってるか間違っているかよりも自分が納得できるかどうかのほうが大事だ」

「蒼を殺すことが、お前にとって納得できることだって言いたいのか」

「……相手の嘘と本音を受け止め、正しく誤解しろ」

「お前はいつだって……!」


 嘘と本当をばら撒いて相手の判断に任せる。

 それを分かっているからこそ怒る。

 いつも自分から誤解されに行く。


戦い(けんか)に言葉は要らない。勝った方が正義だ、来いよ」


 その一言が余計にイラつかせる。

 正義は必ず勝つと言うが、それは勝った方が正義になるからだ。

 常識的に考えて、一般的な正義が勝つという事はほとんどありえない。

 大抵は悪が勝つのだ。

 もっと平和的に話し合いで解決したいが、お互いの事情を話すより力をぶつけ合ったほうが手っ取り早い。

 だから、ズゴッ!! とレイズが路面を踏み砕いた瞬間、凄まじい衝撃を受けたスコールが吹き飛んだ。

 加速、移動、硬化、ベクトル操作。

 砲撃の威力を一点に集中させたような攻撃に、冗談のように血を撒き散らしながらスコールが路面を転がる。


「がばっ!」


 喉に詰まった血を吐き出し、呼吸のたびに血が溢れ出る。

 あまりの衝撃に体が震えてまともに動かない。

 それでも起き上ろうとして、上から飛び降りてきたレイズに蹴りを食らって再びアスファルトの固い地面に叩き付けられた。

 肺からおかしな音がして、呼吸するたびにビリビリと痛みが走る。


「お前は……!」

「や、ってみろ。がはっ、障害になるならテメェの大事なやつら全員を消すぞ」

「なんで……なんでそんな考え方ができんだよ!」


 ッッドン!!

 振り下ろされた拳が確実に心臓を捉え、突き抜けた衝撃がアスファルトを割り砕いた。

 スコールが完全に反応を示さず、沈黙したところでふと気づいた。

 まわりに白い燐光が舞っている。

 なんでこいつはいつも以上に煽ってきた?


「…………ありえな――」


 言い終わるよりも前に弾かれた。

 見えない壁、決して破壊できない壁のようなものに押し出された。

 気付けば周囲一帯真っ白で真っ平。

 ところどころに青い色の半透明のパネルが浮いているが、これには見覚えがあった。

 レイアの使用する光子操作と複数の魔法で作りだす端末。


「まさか記憶を」


 身体中に激痛が走り、視界が赤に染まる。

 白いシャツに血が滲み、鼻の奥からドロッとしたものが流れ出てきた。

 思わず顔を押さえたが手も濡れていた、血で。


「ねぇよ……」


 脳裏にフラッシュバックしたのはいつかのナノマシンだ。

 そこにある有機物を容赦なく分解する悪魔のような微小機械兵器。

 対抗手段はもう考えてある。

 自分自身に高圧電流を流してしまうという自殺行為だ。

 即座に実行し、びくびくと震えながらボトリと倒れた赤黒い何かは、すぐに元の姿へと再生された。


「何の真似だ!」


 レイズの前方十メートルほどに、倒れたままのスコールに回復魔法を掛ける誰かがいた。

 青色のパーカーを着て、フードを被ったショートパンツの女の子。

 黒いブーツソックスに濃い目の青いブーツを履いたその女の子は、ここにいてはいけないはずの存在だ。


「スコール、立てる?」

「立てる立てる。ここに来たってことは、レイズの魔術を無力化できたんだな」

「できたよぉ、なんかすっごくダミー処理とか混ぜてて分かり辛かったけどねぇ」


 レイズの事をまるで空気のように無視する少女、そして何事もなかったかのように全快したスコールが立ち上がる。


「無視するな! なんでお前がここにいる!?」

「うるさいから黙ってろ。それでさ、スコール」

()、質問に答えろ!」

「黙ってろって言ったよね。なんであんたなんかの命令に従わなくちゃいけないわけ?」


 妙にトゲトゲした言葉を投げ返され、自分が掛けた魔法、魔術がすべて効力を失っていることに気付く。

 詳しく視てみれば、まったく同じ効果を生み出す極小のが新たに展開されている。

 隷属の術を除いて。


「私はもうあんたの支配下に置かれた人形じゃない。すべての力も記憶も取り戻した、もう私は自由なの」


 そっと脱いだフードの下から、綺麗な、染めたかのような青髪が広がる。


「今までほんとに長かったよ。スコールが遊び半分にクラッキングをしたお蔭で気づけたからね」

「おいスコール! お前一体どこまで手を出した!?」

「軒並み全員ってところか。まあ、記憶封鎖で何も覚えちゃいないだろうが」


 こいつはそういうやつだ、気付かないうちにいつの間にか何かしている。

 そう思うがもう遅い。

 レイズが最も苦手とするのはメティサーナだが、次に本当の全力を出したとして勝てないのはレイアだ。

 レイア特有の分解は、無慈悲にあらゆるものを分解する。

 分解レベルの設定にもよるが、最大の場合は素粒子を通り越して魔力と神力にまで分解してしまう。

 あらゆる物質は無の均衡が崩れて生まれた、それがこの世界の基本ルールの一つ。

 魔力と神力は互いに打ち消し合って無となる。

 ならば、最終的にすべてを無に還すこともできでしまう、最強であり最も凶悪な力。


「まさか、俺を消す気なのか」

「さあ? そこはこいつに任せる。さすがに破壊者(rase)じゃなくて昇華(raise)なら消されても復活できるだろ」


 言い終わるとスコールは、後ろ歩きで警戒しながら離れていく。

 そして、青い髪の少女だけはそこに残り、いつの間にやら拳銃型の補助具を両手に持ち、背に翼のように青色の魔法陣を四つ展開していた。

 なにも魔法陣と言えばすべてすべて円形だとか角形という訳ではない。


「私ね、ずぅっっっっと嫌だったんだよ。うわべだけのやさしさ、みせかけだけのかんけい。全部あんたに押し付けらてさあ。スコールだけだったよ? 素気ない態度だけど一番気にかけてくれたのは」

「それは……」

「もういいよ、聞きたくないからね」


 静かに二丁拳銃……両手の補助具が向けられる。


「さよなら」


 背後の翼のような魔法陣が煌めく。


「もしかしたら、あんたを好きになったこの感情も創られた偽物だったのかな……」


 カチッと、トリガーが引かれて魔法が放たれる。

 目に見えた放出ではない。

 火炎が飛ぶだとか、水が溢れ出るだとかいう事象が起こるのではなく、対象に直接起こる分解。

 多重展開マルチキャストされた術が一気にレイズを襲う。


「スティール!」


 障壁に走ったノイズが瞬間で消え去り、何かを掴み取ったかのようなレイズの手だけがいやに目立つ。


「やっぱりだめかぁ……仕方ない、使おう」


 最初から期待していなかったような声音で言うと、両手の補助具を落とし、腕を前に突き出す。

 淡い青の光が溢れ、集まり、狙撃銃を形作る。


「新兵器の性能試験にはちょうどいいよね」


 青色のスリングを肩にかけ、慣れた手つきでセーフティーを解除する。


「消えろ」

「リリース!」


 分解魔法と分解魔術が同時に放たれた。

 対象指定の六連発の分解、領域指定の単発の分解。

 効果が顕現するまで一瞬の差。

 レイズとレイズの展開する障壁が真っ黒に染まり、物質としての結合を強引に解除され、素粒子単位に引き離された物質がさらに分解を経て消え、次いで発動された分解が魔法のプロセスをバラバラにする。


 静かな破壊だった。

 静かな終わりだった。

 静かな別れだった。


 終わると狙撃銃型の新兵器を背中に回し、何事もなかったかのようにスコールに駆け寄っていく。

 その顔に悲しみはまったくない。

 むしろ邪魔なゴミを掃除し終えたかのような爽やかで無邪気な笑顔だ。


(マジでやりやがったなあのバカ……)


 そんな様子を全力で隠密ヒドゥン状態になって眺めているレイズがいた。

 身体が消える=死亡と言えてしまうのだが、こいつはこいつで何かと不死身で死なない体質のため、望めば瞬間で復活することも可能だ。

 しかしそんなことをすれば分解を食らい続ける永遠ループ、無間地獄のコースなのでやらない。


(なかなかいい見世物だったぞ)

(なあ、スコール。お前は精神ネットワークに入れないはずじゃなかったか?)

(目の前にちょうどネットワークの総括がいるんだ、介入も簡単だ。それより、お前がどれだけ仲間のことで本気になるかは今一度分かった。だからちょっと見せてやる)

(なにを?)

(さっき展開した術、邪魔が入ったが今からでも発動できる)

(白い光はお前のか)

(当たり前だろう。という訳で、ちょっとあの世まで行って来い)

(……片道じゃないだろうな)

「それじゃ、行くか」

「うん!」

(おい無視すんなよ)

(帰りは自分でなんとかしやがれ)

(…………おい)


 なんだかよく分からない念話が一方的に切られると、眼下にべったり引っ付かれているスコールを眺めつつ急速にどこかに引き摺られ始めた。

 引き摺られているが、方向という感覚がない。

 まるで別世界に引き摺られるときのような感覚で、視界が白に染まっていく。


(冗談じゃない……あの世から帰るってのはちょっとゲートでお出かとは違うんだぞ!!)


 誰にも気づかれない状態でジタバタと暴れながら、抵抗虚しく引き摺られていった。

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