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第四話 - 浮遊都市

 レイズに屑野郎、と呼ばれた男。その名はヴァレフォルという。

 闇の扱いと盗みに長け、今は様々な世界で盗みを働いている。

 また、ほかにも仲間が存在し、序列が存在するが、それは力と比例しておらず、世界すら壊す力を持つ者も存在する。


「誰が屑野郎だ、この死に損ないが」

「はっ、てめえと喧嘩してる暇はねえ、そこのホロウども連れてさっさと失せろ」

「残念ながらそれはできない相談だ。これを彼らに渡さなくてはならない」


 その手に握られているのは紫色の宝石。それを見たレイズは目を見張る。


「どこに渡すつもりだ」

「セントラの奴らさ」

「そんなことして何の利益が有るってんだ?」

「教えるわけがないだろう」

「そうか、まあ、何にせよそれを向こう側に流すわけにはいかねえな」


 レイズ全身に加速の魔法を使い、飛び掛かり奪い取ろうとした。

 だが、相手の方が早かった。ヴァレフォルはレイズの拳を受け止め、空いた手で ナイフを抜き、心臓を一突きする。


「がは…………」


 ヴァレフォルはナイフを引き抜き、首筋にナイフを走らせ、レイズを叩き伏せた。


「あぁ? 昔はこんなもんじゃなかったろぉがよぉ」


 レイズはピクリとも動かない。突然のことに呆気にとられていたカルロは、すぐに我に返り素早く正確にヴァレフォルの額に狙いをつけ、慌てることなく引き金を引いた。

 それに対しヴァレフォルは障壁を展開し、すべて弾いた。


「無駄だ小僧」


 マガジンが空になるとカルロはアサルトライフルを捨て、サイドアームのハンドガンを抜いて撃った。相手が踏み込んでくる。

 一発目は避けられ二発目以降はハンドガン自体をナイフで弾かれ有らぬ方向へ飛んで行った。

 立て続けに引き金を引きスライドが下がりきって停止する。弾切れだ。


「おおぉぉっっ!!」


 最後はコンバットナイフを抜いて切りかかった。だが、それもヴァレフォルのナイフで弾き飛ばされ、続け様にナイフの柄で殴打され、倒された。

 ろくな抵抗もできずに意識が沈んで行く中、レイズの小型無線機から声が聞こえた。


「PMSC白き乙女所属、如月隊。これより――――」


 それだけ聞いてカルロの意識は途絶えた。


---


「ん……」


 カルロが目を覚ました時そこは、清潔感あふれる白い部屋の中だった。

 柔らかいベッドに寝かされて丁寧に布団がかけられていた。

 寝転がったまま見渡すと部屋の中にはテーブルとイスが二つあり、窓からは微かに潮の香りがする風が入ってきていた。


「っ! ……傷?」


 顔にはナイフの柄で叩かれた時の傷が残っていた。

 意識がはっきりしてくるとだんだん思い出してきた。


「あの後どうなった? レイズは? ほかの仲間は?」


 考えているとピピッと電子音が鳴り部屋のドアが開く。


「あ、やっと起きた」


 部屋に入ってきたのは小柄な少女。

 青色のショートヘアにサファイアのような瞳、水色のシャツを着てクリーム色のズボンをひざ上まで捲り上げて穿いている。


「起きたんならさっさとついてくる。歩けるでしょ」


 それだけ言うと、少女は部屋から出ていった。

 体を起こしたカルロは、調子を確かめる。

 体を左右にねじっても痛みはない、筋肉に異常はなく怪我は顔以外には一切なかった。

 廊下に出るとさっきの少女が待っていた。


「早くして、遅れると怒られるのは私なんだから」


 少女に促され、足早に廊下を歩いていく。

 部屋の外も白い壁が続き、今出てきた出入口と同じものがいくつも並んでいた。

 出入り口がないほうはガラス窓で、外に見えるのは一面の青。海だ。


「ここはどこなんだ?」

「アカモート」

「アカモート?」

「後で説明されるはずだから」


 そう言って少女はどんどん歩いていく、やがて廊下の突当りまで来た。

 突当りの床には魔法陣が刻まれていた。


「乗って」


 言われるがままに乗ると少女の手元に水色の半透明のパネルが出現した。

 少女がパネルに指を走らせる。

 一瞬後、気づけば外にいた。


「転送用の魔法陣? すごいな、これって滅茶苦茶高いもんだろ」

「そうなの? よく知らないけど、そういうのはここにはたくさんあるよ」


 あたりを見回せば、至る所に魔力を使って動く物がある。

 道端には街路灯、空には小型の飛空艇。ほかにも道路表面すれすれを高速で飛んでいくホバーバイク。


「うわぁ……俺の住んでるとことは大違いだ」

「おいていくよ」


 気付けば少女は一人、先に行っていた。


「ちょ、待ってくれー」


 浮遊都市アカモート。

 人口約五十万人、そのほとんどは様々な事情により住処を追われた者で人間以外の種族も数多く居住している。

 この地は複数の円形の浮遊人工島で構成され、三つの階層に分けられる。

 下層と上層は直径一キロメートル以下の浮遊島で構成され、最上層を除き居住区画と生産区画となっている。

 中層は直径約六キロメートルの浮遊島で、都市の主要機能が集中し、島の中心には天高くそびえ立つ白い建物がある。

 アカモートの浮遊島は全てが転送陣ゲートで繋がれ、個人の持つ権限の範囲で自由に行き来できる。

 また、浮遊島の外縁部には防空用のガトリング砲やミサイルランチャー、対魔法障壁が展開され他勢力からの侵攻を防いでいる。


 カルロたちはそんな物騒な都市の中層の外縁部を歩いていた。


「なあ、なんで歩くんだ? ゲートで移動できるんだろ」

「中層は今日が総メンテナンスの日、だからぐるっと回って行くしかない」

「あのー、ちなみにどれくらい歩くんですかね?」

「九キロくらい、かな。あちこち通行止めだからね」

「マジで……」


 項垂れながら歩き続け、何気なく近くの浮遊島を見ると、燃えている何かが落ちていくところだった。

 ちょうど人のような形をした何かが。


「あれは?」


 カルロが聞くと、少女もそれに気づいて目を凝らした。


「ん?」


 何かは遥か下の海へと落ち、水柱を上げた。

 少女はそれを見ながら、心底あきれた表情で言った。


「あー……あれは……気にしないほうがいいよ」

「よけいに気になるんだけど」


 外縁から身を乗り出して下を見たカルロはあるものに気付いた。


「この下にある棒みたいなものとか箱みたいなのはなんだ?」

「見たことないの? ガトリング砲とランチャーだよ」


 知っていて当然のように少女は答え、再び歩き出した。

 二時間以上歩きやっとのことで中心部へとたどり着く。

 見上げれば首が痛くなるほど高い建物があった。

 一番上のほうは霞んでよく見えない。


「すっげぇー」

「見てないで行くよ」


 建物の入り口に警備兵はいない。代わりに多数の監視カメラやセンサーが設置されている。

 中に入るとそこも白を基調としたデザインの美しい作りだった。

 あちこちから水が流れ落ち、水路をたどり中心の池へと流れ込む。

 池の真ん中には巨大な転送陣ゲートが設置されていたが、どうも停止しているようだ。


「ここも止まってる。昇降機も……メンテ中かあ」

「なあ、まさかとは思うが上まで階段とか言うんじゃねえだろうな」

「そのまさか、上るよ。えっと一番上まで行けるのは……」


 少女はあたりを見回して、上に行くための階段を指差した。


「あそこの螺旋階段を上がっていくよ」


 階段を上っていくと、ところどころに濡れた足で歩いて出来た足跡があった。


「足跡?」


 それは上に行くほどくっきりと残っていた。

 先に上っている少女はその足跡をまったく気にしていないようだ。


「なあ、この足跡ってどこまで続いてるんだ」

「これから私たちが行くところまで」

「どこに行くんだ?」

「最上階に」


 そう言われて上を見上げると、眼が眩むほどたどり着くべき場所は遠かった。


「上まで魔法で飛んでいったらダメなのか」

「ここ、魔法は一切使えないよ」

「え? ここってジャマーとか設置されてんの」

「違うよ、許可された人と特定の魔法以外は、発動しても顕現する前に掻き消される」

「どういうことだ?」

「そういうルールになってる。詳しくは知らないほうがいいよ」


 それきり会話することもなくなり、階段を上がっていった。

 最上階に着き、廊下に出るとそこはこれまでの階とは違う造りになっていた。

 これまでの階は白を基調とした造りだったが、ここは灰色。石材で造られていた。

 床には縁が金縁の赤い絨毯が敷かれ、壁際には幾何学模様の壺や花瓶などが置かれている。

 カルロはこれまでとは違う造りを見ているうちに、ある部屋の前の壁にだけ亀裂が入っていることに気づいた。


「なんであんなところに亀裂が?」

「確かレイズが叩きつけられたときにできたとか」

「あいつ何やったんだよ!!」

「さあね、ほら着いたよ」


 そこには大きな木製の扉があった。特にこれといった装飾がされている訳でもない扉だ。

 少女はノックもせずにその扉を開けた。

 すると、部屋の中から海のにおいと何かが焦げた臭いが流れてきた。


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