第三話 - 再会
「こちらレイズ、そちらの状況は」
『八割方かんりょーってとこー』
小型無線機からは少女の声が返ってきた。
「敵にとっては災難だな。まあ、それは置いといてこないだの貸しが有るだろ、少し支援してくれ」
『おっけー、じゃあ少し待っててねー』
「分かった」
『それとーたまにはこっちにきてよねー』
「はは、そりゃ無理だ。メティに扱き使われてるからな」
通信を切って小型無線機をポケットにしまう。
「それで?どうすんだレイズ」
「しばらくしたら援軍が来るはずだ」
カルロはどういう意味か理解できなかった。
「……はい?」
なにせ今回の作戦はブルグント北部の小国とアカモートの手が空いている部隊だけで実行されているからだ。
最初から部隊の追加投入の予定などないはずなのだ。
カルロは頭をひねり、何かあったかと考え始め、レイズは何気なく周囲を見渡していた。
すると空の彼方の奇妙な光に気付いた。水平線の少し上に見えるその光は、
――支援部隊送ってくれりゃいいのに、何で支援砲火するかなぁ……。
それは遥か遠くから放たれた砲弾の軌跡だった。
レイズは水平線の上の光を指さしながら、
「あれが見えるか? これから砲撃が来るぞ」
焦る様子もなく、さも当然の事の様に言った。
「ちょっとまて、それって俺たちも巻き込まれるんじゃ……」
「そこは障壁使って何とかするさ。ほら、来るぞ!」
オレンジ色の軌跡を描きながら、砲弾がある程度まで近づいてきた瞬間、弾けた。
「集束爆弾じゃねえかぁぁぁ!!」
「さっさと伏せろ、馬鹿」
レイズはカルロを押し倒し、自分たちを障壁で囲んだ。
――たしかクラスター爆弾ってこないだ使用禁止になってたような……。
二発目、三発目と飛来し弾けて次々と降り注いでくる爆弾の雨、その洗礼はカルロにとっては永遠に感じられ、レイズにとっては、
――はぁ、いつまで続くんだか。つーか足元崩れねえだろうな。
そんなものでしかなかった。やがて、爆撃が止み二人は立ち上がる。
無線機からは『なにが起きている!!報告しろ』という指揮官の声が聞こえていたが無視した。
先ほどまで丘だった場所は平らになり、残っていた味方の姿も雪に埋もれてしまったのかなくなっていた。
そしてなにより建物があった場所は、建物が消え、代わりに黒い影とでもいうべきものが蠢いていた。
混乱がMAXになり一周まわって冷静になったカルロはスコープ越しにそれを観察する。
「なんだよあれは……」
「ホロウ、魔物だ。だいぶ昔に全滅させたはずなんだがな、なんであんなにいるのやら」
「全滅させた? どういうことだ、レイズ」
「俺、見た目十八歳でも結構長生きしてるんでな。それと、あれには絶対触れるなよ、廃人コース確定だからな」
「廃人……ってそんな危険な奴なら図鑑に載ってるはずだろ、見たことねえぞ」
「本当に危険なものはデータベースには一切載ってないもんさ」
ホロウが数匹近づいてくる。
「いいか、カルロ。俺が動きを封じる、その隙に核を撃て」
「核?」
「赤黒い球みたいなのが見えたらそれが核だ」
気づけばレイズの周りには白い霧のようなものが渦巻いていた。
それは本来ならば普通の人間が、ましてや魔法士が扱える力ではない。
カルロはしゃがんで、アサルトライフルを構えながらそれを見ていた。
レイズはただ黙ってそれを掌に圧縮する。そして手をホロウに向け突き出し、開放する。まるで洪水のように白い力が流れ出す。
それの奔流に呑まれたホロウたちは動きを止め、体表面に赤黒い球体を浮かばせていた。
レイズが膝をつきながら叫ぶ。
「撃て!!」
カルロは的確に銃弾を放ち、核を打ち砕いてゆく。
水風船が破裂するように、黒い霧のようなものが飛散し、すぐに虚空に溶けて焼失し、そこに存在していた証は何一つ残っていなかった。
「何なんだよ……」
「カルロ、お前だけでさっさと逃げろ。もう一発ぶっ放すのは流石にきつい」
「何言ってんだ、置いて行ける訳が――」
言い終える前に気付いた、いつも間にか包囲されかかっていることに。
ホロウたちが近づいてくる。中には人の形をしたものもいる。
「ホロウにやられた連中の成れの果てだ」
カルロは人型のホロウに狙いを定め魔法で攻撃しようとした。
さきほどの攻撃でアサルトライフルのマガジンは空だ。
「止めとけ、魔法で倒すなら十人くらいの飽和攻撃じゃないと意味がない」
「じゃあどうしろと!こんなとこで死にたくねえぞ!!」
叫び慌てながらも慣れた手つきでリロード。
銃を乱射するが、ホロウたちは怯まない。
「どうすりゃいいんだよ!!」
そう言ったとき、ホロウの群れの中から一人の男が歩いてきた。
獅子の鬣をを思わせる肩まで伸びたくすんだ金髪の男だった。
「ぎゃあぎゃあうるせぇぞ小僧」
カルロに向かってそう言い放ち、レイズには昔馴染みに向ける表情で語りかけた。
「よお、久しぶりだな。落ち零れ」
「やっぱりお前か、屑野郎」
レイズは侮蔑の笑みでそれに答えた。