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第二十九話 - 夢

 球体を収めた青いクリスタルが浮かんでいる。

 何十、何百、数えていけばそれは二百五十六個あった。

 その中心には不愛想な青年、本名不詳のスコールが一人漂っている。


「今更ながら……」


 両の腕を伸ばせば半透明のキーボードが展開され、流れるような指の動きでパラメータを弄る。


「最初はすべて同じ条件だった。

 同じパラメータを書き込んで開始して、それぞれの分岐点で状態を固定、複製して保存」


 横に腕を薙ぐと、呼応するかのように同じようなクリスタルが出現する。


「わずかに違うパラメータを入力……」


 キーボードに指を走らせ、次々とクリスタルの中にある、青い球体が変化してゆく。


「生き残る世界は……」


 あるクリスタルは、ヒビが入り、砕け散る。

 あるクリスタルは、中の球体が砂色になり、霧散する。

 あるクリスタルは、球体表面で何かが蠢き、茶褐色になる。


「加速」


 さらにほかのクリスタルも変化が起こり始める。

 次々と砕け散り、変色し、霧散し、残ったのは二つ。


「生き残った世界のみを固定、ほかは排除……空いた演算領域に成功した世界を複製……実行」


 ”失敗”した世界クリスタルが塵すら残さず、まるで最初から何もなかったかのように消失。

 代わりに残っていた世界クリスタルと同じものが、消えた数だけ現れた。


「何度でも、あいつが望む世界を創りだすその時まで……何度だって、

 何年だって、何回死のうとも……。

 残りはあと”二回”しかないんだ、もう失敗は許されない。

 確実に成功するパターンを見つけさえすれば、後は現実で駒を動かすだけ。

 それですべてが終わる」


 またクリスタルが砕けた。

 スコールはそれを眺め、荒廃した世界を想像し、小さく笑った。


「今の世界は、まだ成功からは程遠い。

 確実にあの不確定因子は排除し、まずは灼熱の聖誕祭の原因ファクターを封殺する。

 魔法の存在しない……歪んでいない世界を……」


 薄く蒼色の靄がかかった、昏い空間で一人、誰もいないその場所で、その存在は求め続けた。

 自分が存在せず、且つ自身の恩人が笑って暮らせる世界を。

 かつて普通の人間でありながら、レイズの行いによって無理やりに戦いに引き込まれた頃のことを思い出して。


「それにしても、明晰夢か、それともまた意識だけ引っ張られたのか……、

 並みのスパコン程度が行える処理の量じゃない。

 一体なんだ? これだけの処理能力がありながらどこにあるか座標すら不明ときた。

 最悪、あのシミュレートされた仮想世界の外にあると思っているこの場所さえも仮想……有り得るな。

 シミュレーション仮説ならば……中にいる限りは定かではない、確認できやしないのだから」


 一人、誰に聞かせるでもなくボヤキながら手を動かす。


「その点において最善のパターンが分かれば、次の世界に情報を持ち越して、

 干渉すりゃ起き得ることはある程度だが制御可能。これが最初に分かってから……」


 さっとキーをタイプして、今までの記憶メモリーを召喚する。

 ところどころに着色された文字が表示され、ありとあらゆる言語で示されている。

 ただその中でも、すべてに共通しているのは――昇華せし者(レイズ)

 いくら排除されようとも、気づけばまた出現し、常に流れを一定の状態に保つように動いている。

 本人は決して意図して動いていなくとも、結果的にそういう動きをしている。


「レイズ……か、どうやっても解けない呪いを使えるただ一人の存在か。

 まあ、主人公レイズがあれじゃ、脇役モブも大変なこった」


 脚を組み、手を頭の後ろに回し、


「にしても……まずはヴァレフォルの処理からやらないかんな。

 あの野郎も同じ程度には思考クラスターの継承ができてるだろうし、

 いや、何よりも毎回の的確な妨害行為が証拠か」


 至極面倒そうな感じで思考の流れに身を任せた。

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