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第二十話 - 新天地・狂信者の脅威

「おい、お前らいつまでそうしてるつもりだ」


 上陸艇の船内にはどんよりした空気が漂っていた。

 原因はうつろな目をして体育座りで塞ぎ込んでいる少女たちだ。


「…みんな、ショックうけてる」


 白月とスコールだけは仲間が死んだことになんら思いを持っていないようだ。

 そもそもスコールはレイアさえ無事(生きている状態)であればいいという考えだが。


「お前は違うのか?」

「……私は………レイズが生きてれば、それでいい」

「ああ、そうか。そういやあいつは不老()だもんな」


 不死の部分をわざと強調して言う。

 それを聞いた少女たちが力なく、虚ろな瞳を向けてくる。


 ――懐かしい。この世界に飛ばされる前の自分によく似てるな……。


「なんだったら、お前ら全員の()を解いてやろうか?」

「「…………」」

「死にたきゃ死なせてやる。死者のもとに行きたいなら送ってやる。

 その気持ちはわからんでもないからな」

「「…………」」


 少女たちはゆっくりと視線を戻し、またもとのどんよりした雰囲気に戻った。


 ――ま、そうだよな……。自分のときと同じパターンは通用しないわな。



 三日後。

 食糧も水も尽きかけていた。

 スコールは一人、サバイバルキットの中から釣り竿を出し、銃座に座って釣りをしていた。


 ――ボールペンぐらいに収納可能な竿、か。いつぞや折れやすいとかで評判になったな……。


 もちろんこの竿はそんな代物ではない。

 炭素繊維で強度、柔軟性は抜群にいいものだ。


 ――にしても、なんも釣れん。


 餌に残りわずかなレーションは使いたくないので自作の疑似餌を針につけている。

 しかし、ど素人がどんなに頑張ったところで釣れるわけは何一つとしてない。

 そのまま数時間、まちぼうけ、まちぼうけ……。


 ――やめるか、無駄だな。


 そう思って竿を振り上げた。

 すると一匹の魚がかかっていた。


 ――……これはリリースしよう。


 さっと針から外して海に帰した。

 かかっていた魚は河豚だった。

 これもまた素人が手を出すと危ないものだ。



 翌日。

 いい加減にどんよりした空気に耐え切れなくなり、朝から上陸艇の銃座に上がっていた。

 周囲をぐるりと見ても、青い空と青い海。

 ただそれだけ。

 雲もなければ陸地もない。


 ――寝るか。


 そう思い、銃座から飛び降り外装の上に寝転ぶ。

 あのどんよりした船内にもどるのは躊躇われた。


「ふあぁ」


 腕を枕代わりに、目を閉じた。




 白月に揺すられて目を覚ます。

 すでに日が暮れかかっていた。


「…あれ」

「ん?」


 白月が指さす、水平線の上には何かが見えていた。


「混成提だな」

「こんせい…てい?」

「防波堤だ。……っと、もうすぐつくな」

「ここ、どこ?」

「ナバナディア連邦、南部。構成国の一つディル=シャルマール。そこの南端の領土だ」

「…大丈夫?友好的な勢力じゃないよ」

「……ま、まぁ、なんとかなる」


 その後、何事もなく上陸とは当然いかなかった。

 すでに海岸にお迎えが来ていた。


「全員除装して降りて来い!」


 黒コートのいかにも魔法使い然とした格好のあやしい連中がいた。

 それは騒ぎが始まると同時にさっさと逃げたはずの睦月隊の隊員たちだ。


「さて、どうしようか」

「…なんとかなるんじゃなかったの?」

「どうもにもならないことはある」

「……ん?」

「どうした?」


 急に焦点の合わなくなった目をスコールは覗き込む。

 その眼にはとても小さな何かが映っていた。

 精神ネットワークにアクセスしているときの状態だ。


「ベインが『そっちに向かってるからちょっと待ってろ』って」

「ベイン?なんであいつが……」

「貴様ら!さっさとしろ!さもなくば船ごと叩き斬るぞ!」


 無視された黒コートがキレかかっていた。

 睦月の兵は単独で小隊規模を相手取ることができるほどの凄腕エースしかいない。


「ハティ!ゴゥ」


 命令を出すと同時に上陸艇の隔壁を開く。

 それと同時に白いふさふさしたのが飛び出して、黒コートの集団にとびかかる。

 動物を何日も狭い空間に閉じ込めていた場合のストレスは……。


「…止めないと」

「大丈夫だ。死にはしない……多分」



 ---



「…………」

「まあ、そういうことだ」

「…………」

「ハティは一応危険度SSS+だから仕方ない」

「……だからってだな、俺が来るまでの間に全滅はないだろ!?」


 あれからほんの五分。

 ベインが到着するまでの間に睦月隊十名はハティの猛攻によって全員砂浜に倒れ、肩で息をしていた。

 ……念のため言っておく、死人は出ていない。


「で、なんでここにいる?」

「さらっと話を変えるな!」

「いいから答えろ」

「……はぁ。セントラの機神を潰して回って、そんでアカモートが落ちたって報告があったから睦月のやつらと合流するために来た」

「アカモート以外にのアクセス地点ってあったか?」

「いや、俺が勝手に作った」

「…………」


 スコールは少し呆れていた。

 中継界イーサとは世界と世界を繋ぐ道。

 その道を作ることができるのは『神』と呼ばれるものや強力な力を持つ者だ。

 そして中継界にはそれぞれ防御機構セキュリティ迎撃装置ガーディアンが配置され、そうそう簡単に出入り口を追加できるものではない。


「ま、今度レイズに会ったらちくっておこうか」

「それはやめてくれよ。アカモートの四十万人の避難のために他にもたくさん作ったからな、最悪俺のアクセス権限が永久剥奪される」


 中継界に入るためにはその中継界を生成したものの許可がいる。

 許可がなくても入れないことはないが、その場合はガーディアンの攻撃を受けることになる。


「そういやベインって時間移動はできないのか?」

「んー、俺は止めることしか出来ないな。それも局所的にしか。移動は…たぶんレイズがやれるだろうが絶対にやらないな」

「そうだな。あいつ確か、何をしても確定された運命は変えられないって言ってたか……」

「お前、もといた”世界”に帰りたいのか?」

「別に帰りたかない。核戦争で西暦が終わった現在いまの”世界”のほうが好きだ」

「普通は帰りたがるだろ?」

「さあて?生憎普通の感情とやらを持ってないもんでね」

「そうかよ……ん?」


 ベインが続きを言おうとして何かに気付いた。

 遥か遠く、長い砂浜の彼方に砂煙が上がっている。


「チッ、もう来たか……ベイン、多重結界を張れるか?」

「出来るがあれはなんだ?」

「まあ……この世界に飛ばされたときにちょっとな」


 ベインがしゃがみ、地面に魔方陣を描き始める。


「遮断系でいいか?」

「できれば断界と認識阻害を」

「なかなか高難易度のものをオーダーしてくれるな…」


 さっと魔法陣を描き終え、魔力を流し結界を張り巡らせる。

 だというのに。


「………ぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」


 砂煙をあげながら走ってくる人間は止まらない。

 世界そのものを区切る断界障壁を突き抜け、認識阻害の結界でそこにいるということがわからないはずなのにまっすぐとこちらに向かってくる。


「なんだあの化け物は……」

「なんつーか、ちょっと黒歴史の隠蔽をしてあげただけんだがな……」


 ベインに化け物呼ばわりされたその人間。

 身長170㎝程度のひょろりとしたオタクっぽい見た目の男性は幾重にも張り巡らされた結界を突き抜け、ついにスコールたちのもとへとたどり着いた。


「おおおおおおお!!わが神よぉぉ!!」


 叫びながらスライディングし、スコールの前に跪く。


「神よ!ここに居られふごぉ!?」


 ベインはその顔面に無言で蹴りを入れた。


「なんだこの気持ち悪い変態は……」

「あー……なんというか……これがここの領主だ」

「…マジ?」

「…マジだ。ついでに言うと王族の血筋でもある」

「…やばい?」

「別にやばくはない。全身の血液を抜いて煮詰めに煮詰めて、超凝縮して電子顕微鏡で見たらやっとわかるくらいの量の王族の血が混じってる程度だ」

「それもう一般人と殆ど変らないんじゃねえの?」

「まあそうなんだが、なんか国のほうが自分たちの見栄えを良くするためになんかやったらしい」

「無礼者!!」


 蹴られた衝撃からやっと復活したようだ。


「なんだ、ちっさい権力でも振りかざす気か?」

「我が神に対するのその態度!万死にあたごふぁ!?」


 再び蹴りを入れた。

 今度は急所に。


「おっ……お、おお……」


 蹴られたところを抑えながらピクピクと震えている。


「さて、これからどうする?」

「お前さあ、一応でもこの変質者は知り合いだろ!?」

「心配はしない」

「いやしろよ」

「さて、どうしようか?」

「…………」

「…………」

「何気にひどいな」

「さあねぇ?」


 二人そろってピクピク震えている男性を一瞥した。


「一度あっちに戻るのか?」

「ああ、スコールはこれからどうする?」

「さあーて、どうすっかねー。まああっちに行くならこれ、レイズに渡しといて」


 強く拳を握りしめ、白い光が漏れる。

 拳を開くとセレナイトのような真っ白な珠があった。


「これは……?」

「神力結晶だ。どうせ使うこともないから」

「なるほど…だったら渡す代わりに俺からも一つ」


 そう言ってベインは一枚のメモ用紙をスコールに渡した。

 メモ用紙にはベインの予定表が書かれていた。


「俺はすぐにあっちに行く。できるだけでいいからやっておいてくれ」

「りょーかい」

「で、お前はほんとどうするんだ?」

「まあ……なんとかするさ」


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