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第十九話 - その日・1225

月追いの()魔狼!」


 レイアを抱きながら、落下するスコールが叫ぶ。

 すると耳のとがった大きな犬…、いや狼が突然どこからともなく現れる。

 純白に輝く真っ白な毛が特徴で、体長は優に二メートルはある大きな白狼だ。


「もっと寄れ!」


 落下する瓦礫を蹴りつけ、ハティが隣に並ぶ。

 手が届くところまで来ると、スコールはその体毛を容赦なく掴んで引き寄せ、背に跨る。


「頼むぞ」


 そっと、静かに言うとスコールは片手でレイアをしっかりと抱き、もう片方の手でハティのふさふさの毛をむんずと掴んだ。

 そして目を瞑り、歯を食いしばる。 


 遥か下に見えていた地上がだんだんと近づいてくる。

 強烈な風圧と、永遠にも感じられる時間をやりすごし、ドンッと重い音と衝撃が体を走り抜ける。

 ハティの脚がミシリと軋み、苦痛に顔が歪む。


 スコールはその背にレイアをうつぶせに寝かせ、自分は降りて辺りを警戒する。

 偶然にも落ちた場所は、陸地。

 それも白き乙女の所有する敷地内だ。

 至る所が抉れ、本部があったはずのところには大きなクレーターができていた。


「グングニル……凄まじい威力だな」


 すでに誰もいないのか、聞こえてくるのはバチバチと激しく燃え上がる炎の音と時折聞こえる爆発音のみ。


付い()()()


 高速上陸艇の泊めてある整備工廠へ向かい歩く。

 あちこちがひび割れ、でこぼことした路面だがハティはなるべく身体を揺らさないようにスコールに追従する。

 やがて堤防が見え、焼けた鉄と油、潮風のにおいが流れてくる。


「散々だな…」


 眼前にあるのは白き乙女の保有する艦隊の残骸だ。

 本来、民間軍事組織はあくまでも正規軍のサポートとして、また正規の方法で実行できない仕事を行い、装備も戦闘機や艦船などのものは契約国の保有するものを借用する。

 しかし、白き乙女に限って言えば戦闘ヘリ、戦闘機、戦艦、飛行空母などあらゆるものを配備している。

 特に飛行空母は二機も所有していたが、その片方は桜都国に貸し出された際にレイズによって撃墜されている。


「行くぞ」


 再び歩き始める。

 堤防に沿って歩を進めながら時折、辺りを見回す。

 すると、しばらく歩いた頃に建物の近くに人影を見つけた。

 ハティが飛び出す。


待て(ハウス)!」


 呼ばれるとすぐに大人しく隣に戻ってくる。

 よく見ればその人影は先に落下した月姫たちだった。

 白月を除いては全員その場に座り込み、焚火を囲んでいる。


 白月以外は体を抱くようにしてガタガタ震えていた。

 びしょ濡れだ。

 どうやら運悪く海に落ちてしまったらしい。

 しかも今は一二月も終わりの時期。

 この寒さは体に応える。


「使える船はあったか?」


 座っていない一人、白月が小さな声で答える。


「…高速上陸艇が一つ」

「そうか。で、こいつらは?」

「みんな、泣いてる。隊長のこと……」

「そう…か。……レイアを頼む。ハティ!」


 スコールが呼ぶとすぐに隣に来て伏せる。

 その背中からレイアをおろし、ハティにすがらせるように寝かせる。

 犬種でいえばハティはサモエドにかなりちかい見た目をしている。

 実際のそのふさふさの毛は寒冷地帯で暖房代わりに寄り添っていたいほどに暖かい。


「どこ行くの?」

「管理AIを壊してくる。どうせここは放棄するしかないだろ?

 だったらなるべく情報は消しておいたほうがいい」


 スコールはすぐ近くの建物に入っていった。

 その建物は白き乙女の精神ネットワークを除くすべてを管理している人(A)(I)能がある場所に通じている。

 AIにはマスターとスレーブがあり、マスターは開発元であるAS社が管理、使用し、スレーブを他の企業や個人が貸与されて使用する形になっている。

 AI自体かなりの額であり、損壊した場合の違約金はゼロが最低でも六つはついてくる。

 ここで使用しているAIは個体名『ヴァルゴ』。

 壊した場合はさまざまな追加オプションも付いているためにゼロが九つはつく。

 スコールはそれを承知で破壊しに行く。

 ただそれがばれたところで金は一銭も出す気はないし、

 見に行ったら壊れてましたというつもりでもある。


 ――AIか……確かだいぶ前のニュースで自己学習機能を強化した、”自己進化型”を試験的に作ったとかもあったな。


「ここか」


 部屋に入ると多数のサーバー機と、中心に一際大きなインターフェースがあった。

 それに近づいて、仮想ディスプレイを表示させ、あるコマンドを打ち込んだ。


 ――()()()()でもコンピュータにこれは通用するか?


 打ち込んだコマンドは、『数学を使って、数学自身に矛盾が起きない事を証明せよ』と言った感じのもの。

 大抵のコンピュータならばエラーを吐き出すが……。


「……対策が雑だな」


 見事に処理がループし始め、だんだんと冷却設備が唸りはじめる。

 このまま放っておけばそのうちで熱で破損するだろう。

 それを確認するとスコールは部屋を出て、施設内を歩き回り、食料をかき集め外に出た。


「…あれ」

「お、用意してくれたか」


 そこには高速上陸艇が一隻用意されていた。

 ついさっき塗装しなおしたかのように綺麗で、桜都を示す紋章や白き乙女の紋章はなかった。

 すでに乗り込んでいるのかレイアたちの姿はない。


「じゃ、行くか」

「待って。あっち」


 指さされた方角には海に沈んでゆくアカモートのシルエットが浮かんでいた。


「レイズたちは?」

「応答ない。多分、まだ中に」

「……あいつなら大丈夫だろ。さ、行こう」


 スコールは白月とともに高速上陸艇に乗り込んだ。

 通常なら自動航行だが少し弄ってマニュアル操縦でこの地を後にした。



---



「ぷはっ!」


 木片や船の残骸が浮かぶ海上に一人の青年が顔を出した。

 あちこちに打撲痕があり、額には大きな瘤がある。


「ったくよぉ、何が起こってんだ!?」


 漂流物を避けつつ、平泳ぎで海岸を目指す。

 ところどころは油が流れ出し、粘ついている。

 それでも泳ぎ続け、砂浜にたどり着く。


「マサヤ! カズハ!」


 彼の記憶の中では、ほんの数時間前まで一緒にいたはずの者。

 その名を呼んだが返事はない。


「スズナ! アズサ!」


 ほかにも名を呼んでみたが、やはり反応はなかった。


「くそっ、あいつらは無事だろうな?」


 悪態をつきながら砂浜を歩くと、瓦礫の陰に人を見つけた。


「っ!? おい! あんた! 大丈夫か!?」

「…………」


 返事はない。

 口元に手を当てると息をしていなかった。


「死ん…でる?」


 立ち上がり、辺りを見ると、どこを向いても死体ばかりだった。

 胸元を見れば桜の紋章が刺しゅうされていた。


「PMC?」


 死体の合間には、剣や折れた槍、叩き割られたような盾が突き刺さっている。

 遠くを見ようとすると、煙や化学物質が燃えたようなスモッグでよく見えなかった。

 ただ、今、この場所から見える範囲で動いているものは燃え盛る炎だけだ。


「ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ただただ叫んだ。

 やりばのない感情をぶつけるために。

 そして、叫びたいだけ叫ぶと体に疲労感が重くのしかかってくる。

 青年は重い体に鞭打って、歩き始める。

 仲間を探すために……。


次回、しばらくレイズ出しません!

……いや、主人公出さないってどうなの?

自分でもそう思います。

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