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第十話 - 海竜

 心地よい揺れを感じながらも、同時に違和感を感じ取り、レイズは目を覚ました。


「いつの間にか寝てしまったか……」


 周りには意識のない4人がいる。

 カルロ、クロード、レイ、レイアの4人だ。

 戦場を後にして、上陸艇に追いつき、適当な艇に銃座から乗り込んだ後は覚えていない。

 レイズは違和感の正体を探るため、船内を見渡した。

 そして後方の電子ボードの表示を見た。


「ん? どういうことだ」


 後部の電子ボードには『時速50㎞』とだけ表示され、他は全て『Unknown』となっていた。


「五十キロ? 遅すぎるだろ。それに他の情報は……」


 備え付けの無線を手に取ってスイッチを入れる。


「こちらレイズ。状況は」


 …………。

 応答がない。仮に全員寝ていたとしても機械が人工音声で応答するはずなのに。


「繰り返す、こちらレイズ。状況は」


 …………。

 まったく応答がない。考えられる可能性は2つ、1つはマシントラブルで通信ができない、

 もう1つは……味方が全て沈められたか。

 前者は起こり得る可能性はゼロパーセントといってもいい、ならば後者しかない。

 レイズは隔壁を開いて銃座に上った。

 進行方向を見れば外は夕焼けの空だった。

 ところどころに鰯雲が浮かんでいる。

 そして、いつもならどこでも見ることのできる海鳥がまったくいない。

 後ろを向けば、血がべっとりと付いて赤く染まり、

 大きな穴と無数の小さな穴の開いた上陸艇が1隻だけ。

 やがてその1隻は爆発し景色の中に流れていった。


「なにが……あった?」


 レイズは一度、船内に戻り弾薬帯の入っている箱を2つと、

 双眼鏡を取って再び銃座に戻った。

 片方の弾薬帯を重機関銃に装填し、もう片方は封を開けておく。

 もう片方は通常弾ではなく、徹甲弾と徹甲榴弾が交互につなげられているものだ。


「鳥がいないってことは、近くに海竜がいるな。海龍じゃないだけマシ……か」


 レイズにとっての竜と龍の区別は、子供か大人かということだ。

 見渡す限り海ばかり、航行距離から考えれば強襲揚陸艦との合流地点であり、

 そろそろ見えていないとおかしい。

 

 ――まさか沈められたか?

 

 子供とはいえ海竜ならば五十メートル程度はある。

 そこらの戦艦程度では簡単に沈められてしまう。

 まともな武装のない揚陸艦では尚更だ。

 今度は自分の小型無線機のスイッチを入れる。

 これは少々改造しているため、かなり強力だ。


「こちらレイズ。現在、高速上陸艇にて移動中だ。どこの部隊でもいい、応答してくれ」


 これで応答がなければ周囲十キロメートル以内には誰もいないということになる。

 …………。

 そして、応答はなかった。


「マジで誰もいねえのか。魔導回線でも……?」


 魔力を信号化したもので長距離通信をしようとしたが、できない。

 周囲の自然に存在している魔力がひどく乱れている。


 「ダメか……」


 索敵用の魔法も使ってはみたが、返ってくるのはノイズばかり。

 強力な索敵魔法であれば何か探知できただろうが、

 先ほど魔力を使い過ぎた為、今はランクB程度の魔法しか使えない。

 レイズは双眼鏡を使い周囲をぐるっと見渡した。

 すると後方700mくらいに長い影があった。


「おいでなすったか……」


 重機関銃を後方に向け、その影に照準を合わせ引き金に指を掛けた。

 ドガガガガガガッっと連続した音が響き、弾丸は影に吸い込まれるに消えていった。

 影は消え、レイズは手を抑えていた。


「なれないものは使っちゃいかん……」


 反動で手首にかなりの負荷が掛かり痺れていた。

 そして、その音で気がついたのかクロードが上がってきた。


「敵か?」

「海竜だ。それにしても、あれを食らって動けるとはな……」


 ――前にも同じようなやつがいたな……ヴァン、キニアス、ウィリス。盗賊やってた頃に一緒に”仕事”して、”あの日”大勢の仲間と一緒に時空の歪みに飲み込まれて……。


「おい、マシンガン使ったことねえだろ。代われ。俺が撃つ」


 クロードに言われレイズは過去の思い出から意識が戻った。


「分かった、海竜の倒しかたは分かるな?」

「ああ、目か口狙って撃てばいいんだろ」

「そうだ」


 そういってレイズは銃座から飛び出し上陸艇の上に降りた。


「落ちるぞ」

「大丈夫だ、磁力で固定してる」


 レイズが言った通り、まるで強力な磁石を仕込んだ靴でも履いているかのように船体に体が固定されている。無論、魔法であるが。


「そうか、で、どうするんだ?向こうが攻撃してきたら一発でこっちは沈むぞ」

「それを俺が防ぐ、お前は銃撃する。それの繰り返しで倒すか逃げ切るかすれば勝ちだ」

「そうかよ……ほら、来るぞ」


 クロードがそういうと全くの予兆なしに水弾が飛んできた。

 直径二メートルくらいのでかいやつだ。


「せぃっ!」


 レイズが腕を一振りする。

 それだけで水弾は形を失って海に落ちていく。


「なにやった?」


 問いつつもクロードは的確に海竜の影を狙って銃弾を叩き込んでいく。


「系統外魔法の強奪スティールだ。魔力と運動エネルギーを奪ってる。

 意外と便利だぞこれ。すれ違いざまに財布盗んだりできるし」

「泥棒か、お前?」


 立て続けに飛んでくる水弾を落としながらレイズは答える。


「もと盗賊だ」

「……盗賊ねぇ、ま、俺の所属する部隊も似たようなもんか」


 そうこうしているうちに無駄だと知ったのか水弾は飛んでこなくなった。

 そして海竜の影も消えた。


「追い払ったか?」


 クロードは警戒を解かずに言った。


「まだだ、海竜はしつこいからな……」


 ――初めて戦った時は海の上を3日間全力で走って逃げたかなら。


「具体的にどうやって殺す」


 クロードの目は獲物を狩る者の目だ。

 人を殺すときの光のない目ではない。


「さっき奪った力で爆撃する。そしたら多分、怒って体当たりでもしてくる。そうしたらもう一個の箱に徹甲榴弾があるから、そいつでぶち抜いてやれ」

「爆撃?」

「まあ、見てろ」


 レイズは右手を前に突き出し狙いを付ける。

 索敵魔法は使えない。

 だから狙うのは竜がいるであろう、場所よりもさらに深いところ。


 ――蓄積した運動エネルギーを海底より円錐形上向きで解放。

  魔力を海面より円錐形下向きで解放。


 その瞬間海面が一瞬だけ膨らみすぐに沈み込んだ。

 海水がどんどん濁ってゆく。

 濁った中から一際大きな影が上陸艇へと接近する。


「クロード、海竜の肉って結構美味いぞ」

「なんだよこんなときに」

「なるべく頭以外は撃つな。この距離で徹甲弾ならあの固い鱗も貫通できる」

「……お前さ、あれ、食べる気か?」

「そうだが?」


 そういった刹那、影と反対の方向から水の刃がすっと飛んできた。

 その刃はレイズの首を何の抵抗もなく通り抜け海に落ちた。


「……あ?」


 首と体が分かれて海に落ちていった。

 そしてそれを飲み込みながら海竜が姿を現した。


「…………ずいぶんアッサリ死んだな。白い人」


 海竜の頭を見てクロードは3発だけ撃った。

 1発目の徹甲弾が鱗を突き破り、2発目の榴弾が内側から肉を抉る。

 そして、3発目の徹甲弾が脳を破壊する。


「やったか。これで終わりだ」


 海竜が速度を失って海に沈み、景色の中に流れ消える。レイズの死体を飲み込んだまま。

 ………。


「……この船どこに向かってる?」


 一段落して、クロードは最後に割と大事なことに気付いた。

 この上陸艇は自動操縦でマニュアル操縦は出来ないのだ。



 次にクロードが目覚めたのは、翌日の昼だ。

 船内の電子ボードには時速0㎞、燃料0、とだけ表示されていた。

 ほかの3人は相変わらず眠ったままだ。

 銃座に上がってみると、どこまでも続く大空と青い海原だけが見えた。


「……………………遭難した?」


 一度船内に戻ると電子ボードも空調も切れていた。

 燃料がなくなったのだから当然だろう。


「さて、食料の確認をしようか」


 ――レーションが一包み、正直これは食べたくない。粘土みたいな感じでパサパサでとにかく不味い。脂ギトギトのペミカンをそのまま食べるほうがマシだ。水はペットボトル4本分、俺ならこれで1週間はいける。以前、悪質貴族の私設部隊から金をとったときに、泥沼の中に飲まず食わずで4日潜ってたからな。隊長恨むぜ、自分だけ逃げやがって。


「よし! 水で1週間はいける。後は救難信号だが……」


 何かないかと探していると船底からゴンッという音が聞こえた。


「まさかまた海竜じゃないだろうな」


 銃座に上がり下を見ると五十メートルくらいの長い影があった。


「ちくしょう! やってやるさ、この距離なら殺れる!!」


 クロードは機関銃を思い切り海面に向け、引き金を引こうとした。


「ちょっと待て、撃つな」


 後ろからレイズに止められた。首を切られて死んだはずなのに、首には一切の傷はない。


「…………幽霊ですか?」

「死んでねえよ」

「…………いや、死んだよねアンタ。確かに頭と体がさようならしてたよね!!!」

「カルロにも言われたが、俺は死なない」


 しばらくの沈黙のあと水平線の上に飛行機が見えてきた。

 赤い色の軍用機だ。

 遠目に見ても全長四百メートル以上、全幅1㎞はある途方もなく大きなものだ。


「おいクロード、あれ堕とせ」

「はぁ? なんで堕とす必要があるんだよ。ありゃ白き乙女のだろ? フレアで煙り出して助けてもらった方がいいんじゃないか」


 クロードは発煙筒を使って飛んでくる軍用機に居場所を知らせた。

 そしてすぐに砲撃が来た。

 砲撃の内容はレールガンや高出力レーザーや長射程ミサイル。


「アホ、だから堕とせっつったんだよ」


 しかし、レールガンの砲弾とレーザーは真下に落とされ、

 ミサイルに関しては軍用機の方へ飛んでいった。


「今度は何した?」


 レイズのほうを見ると小型無線機を右手に持ち、前に突き出している。


「いやー、あれね、作ったの白き乙女の奴らだからさー、ミサイルとか簡単に弄れちゃうわけですよ」


 赤い軍用機の周りでは爆発が起こっていた。

 おそらくは近接防空砲でミサイルを破壊したのだろう。


「……なあ、お前、アカモートの雑用係りじゃなかったっけ?」

「裏じゃ1万の部下を持つ盗賊団の頭領だ」

「ほんとのところは?」

上司メティにいいように使われる捕虜しもべだな……」

「そうか……それよりあれはどうするんだ?」

「じゃ、堕とすか」


 レイズは立ちあがって、小型無線機のスイッチを押した。


「どういう事情で攻撃したかは一切聞かない。謝罪も受け付けない。だから死んでくれ」


 それだけ言って容赦なく魔法による苛烈な砲撃を開始した。

 最初は海水を高圧縮した水弾に始まり、徐々に氷塊になり、

 最後はどこからか召喚した普通のものより一回り小さいミサイルを連射していた。

 赤い軍用機は最初こそ反撃する間があったが、徐々に防御に徹っし始め、

 最後はミサイルの嵐で爆散した。


「……………レイズさんよお、あんた一人で世界征服できるんじゃないのか」

「できるぞ。一回調子に乗ってやったことがある」


 ――”別の世界”での話だがな……。


「仮にしていたとして、じゃあなんで今はこんなとこにいるんだよ」

「いやー、調子に乗りすぎて天界にまで手えだしてな。制圧してそのあと、大天使にコテンパンにされて、しもべにされて今に至るってとこだな」

「おい、1回は制圧したのかよ…………」


 レイズは規則的に無線機のスイッチを押しながらも、無駄話を続けた。


「ああ、最後の掃討戦で4枚羽の大天使にボロ負けしてな……」

「大天使なのに4枚羽? 2枚じゃないのか?」

「なんでもサボり癖がひどくて降格されたとかなんとか」

「天使にもそんなやつがいるんだな」


 クロードはレイズの作り話として聞いているが、レイズが言っていることは事実である。


「他にも色々いたぞ、男を漁りに地上に降りてくるやつとか、ドジな事ばっかりやってるのとか、平気で人を撲殺するようなのとか」

「なあ……そいつらってホントに天使か? 悪魔の間違いじゃないのか?」

「いやいや天使だよ、うちにもずぼら天使が……ぶふぉあ!」


 いきなり虚空から出現した真っ黒な4枚羽の天使は、

 レイズに対して容赦ない蹴りを叩き込んだ。

 急所への一撃。

 ボキっという何かの折れる音がした。


「誰がずぼらですって? たった今、桜都国から請求書が来たんだけどね、この額はどういうことなのかしら」


 今のレイズに答える余裕はない。

 蹴られたところを抑え、小刻みに震えながら丸まっている。


「メティ……急所は……そこは蹴っちゃ……いかんて………」


 そのままレイズの意識は霧散した。

 クロードは特に取り乱すこともなくメティに話しかけた。


「あんたが、さっきレイズの言っていたずぼ……ガフッ」


 一瞬で間合いを詰められ鳩尾に1発叩き込まれた。

 それきりクロードの意識もなくなった。


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