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第九話 - 機械の巨人

 岩が飛んでくる。

 圧倒的な魔力と数えられないほどの障壁で囲まれた大きな岩だ。

 分解が通用しない、あれだけの魔力を吹き飛ばすことは今の私では不可能。

 せめてもの抵抗として板状のMOSDを強化してぶつけたが、難なく壊され、岩は私に当たった。

 何かが砕ける音や破裂した感覚が……。

 堕ちる、補助具なしじゃ、”今は”魔法が一切使えない。


「あはは……こんなところで……」


 上空数百メートルから地上まで一気に落下して、嫌な音が最後に聞こえた。



身…の損傷……確認………により()()()()()を完……

記……域の損……確認 修復を開始……終了 

思考パタ……最適………始……終了 ……復帰まで………秒



 頭の中に直接響く無機質な声。

 聞きなれた声だ。

 いつもいつも、こうやって死にそうになって、そのたびにアイツの呪いで生き返って……。

 もうどれだけ生きた? 何回死んだ? 何人の仲間の死を看取った?

 普通、500年も生きれば精神が持たないって言ってた神様がいたけど、

 あれは嘘だったね。

 だって、私、神界戦争が起こる前から生きてるもん。

 いや、生きてるっていうのは可笑しいね。

 だって、幽霊になってから肉体をもう一回得たんだから。


 そういえば……確かまだこの星が月を一つだけ従えていた時もあったなぁ。

 世界中が戦争してどこかの島国が大きな爆弾を二つ落とされてそれは終わったけど。

 でも、その後に何百年かしてから、人口が増えすぎた、資源がなくなった、食料が足りない、

 なんて言ってまた戦争して、全面核戦争で星全体が火の海になって……。

 それからは人はかなり減っていたし、別世界から獣人とか龍とかが入ってきたし。

 しばらくはテカテカ光る黒いあの虫しか居なかったし。


完……帰ま…4……秒


 復帰まで400秒くらい…かな?

 でもこの時間ってあくまで私にとっての体感時間。

 現実じゃ、ほんの一瞬、誰も気づかない……呪いをかけたアイツ以外は。

 それにしても、復帰したらまずどうしようかな。

 岩を蹴ってきたのは間違いなく、”片割れ”だし。

 作戦説明で生死不問でお持ち帰りしろって出てたし。

 ”枷”を勝手に外して戦おうか?

 いや、でもそうしたらアイツがうるさいし。

 どうしようかなぁー……。


…全………で1…秒


 この機会音声って、ほんと聞き取りづらいよね。

 うん、誰に言ってるんだろう。

 まあいいや。目が覚めたら考えよう。


復旧リカバリー



 目が開く、まず見えるのは新緑の大地。

 そして無残に砕け散ったMOSD。

 立ち上がって前を見る。

 こっちに向かって来るのは、紅い私。

 私の”本体”であり”片割れ”。

 性質は私とは真逆。

 私が静かで精密とするなら、”姉さん”は激しく大雑把。

 魔力の保有量が桁違いだからまず勝てる人はいない……アイツ以外は。

 

 そんなことを思っていたら”姉さん”が魔術を詠唱し始めた。

 詠唱と言っても呪文を唱える訳じゃなくて、

 魔力自体で基礎を作ってそこに変数みたいな感じで、条件を入力していく。

 その値が一定値より大きければ、もしくは小さければ必要な魔力は加速度的に増えるけどね。

 だから魔法とは違う、補助具なしで使うなら、使えるのは天使とか悪魔とか、そういう高位の存在だけ。もしくは一部の特殊な人。

 そして、それを視た私はさっきの枷がどうのこうのは忘れていた。

 だって詠唱しているのが『極光の剣(レーヴァテイン)』なんだもん。

 軽く100㎞は焼き払うことができる、七色のレーザーのようなものを撃ち出す魔術。

 そんなもの視て冷静でいられないよね?

 だから私は取り敢えず直撃は避けるために直伝の魔術を使った。

 これは詠唱なんて要らない、補助具も要らない、相手の魔術の構成が分かっていれば後は使うだけ。


「どうなっても知らないよ『魔術分解(デコンパイル)』」


 ちなみにデコンパイルっていうのは魔術がコンピュータで使うプログラムみたいな感じだから、私が勝手に言ってるだけ。

 

 そして分解したその瞬間、しまった! と思った。

 だって姉さんの場合に限って使用する魔力が桁違いで魔力だけでも小規模の核爆発並みの威力を余裕で起こせるから。

 爆発が始まる一瞬前に私は愛用の補助具(ライフル)を召喚して、引き金を引いた。

 それでもう大丈夫……だと思う。

 私の前に盾が生まれる。

 その盾は『魔除けの盾(アイギス)』。

 召喚者をあらゆる災いから護る盾。

 あれだけのエネルギーを分解するよりこっちのほうが楽だし確実だもん。


 そして凄まじい音と共に爆発が起こった。

 核爆発並みの威力はなかったが、キノコ雲が空に昇っていくほどの威力はあった。


「やっぱり、厳しいね。アイギスにヒビが入るなんて」


 私はすぐに追加でアイギスを召還してピラー型の補助具も召喚した。

 魔法と違って、魔術は魔力保有量(キャパシティ)の範囲でしか使えない。

 でも自分で詠唱する必要はない、だから支配下の”魔力を充填した補助具”を複製召喚して、それに詠唱させればいくらでも魔術は使える。

 私だけの裏ワザ。


「やるじゃん! レイア」

「久しぶりに会ってそれはないと思うよ」


 姉さんがどんどん近づいてくる。

 ガラスの砕けるような音がして最初のアイギスが砕かれた。


「へえ、少しは固くなったじゃん。でも、まだまだ」


 まずい、正面からやりあえば絶対に勝てない。


「ピラーズ、牽制して」


 補助具に攻撃させて、その間に逃げる。

 今までまともに殺り合って、相討ちが何十回かで後は全部負け。

 レイズが来るまで捕捉していればなんとかなる。

 でも空中に飛び上がって逃げたものの対抗手段が少ない。


「降りて来いよー!!」


 降りたら降りたでなんかするし、絶対。

 はぁ…どうしよっかな。


---


 レイズ達は敵の基地が見える場所まで来ていた。

 基地ではすでに戦闘が始まっていた。


「どーこの奴らが戦ってやがる」

「私達の攻撃目標に対して漆黒武装小隊という部隊が苛烈な攻撃をしています」


 レイズのすぐ隣にいるのは蒼月そうづき黒月くろつきだ。


「こりゃ、ほっといたら勝手に片付くな。例の二人をとっ捕まえに行くか」


 職務放棄精神丸出しでレイズが言うと蒼月が話しかけた。


「召喚石の回収はしなくていいの?」

「奴らが運び出した後に襲撃して奪うさ」


 そう言ってレイズは振り返り、


「各自、閏月隊の隊長を見つけ出し拿捕せよ。もう一方については既にレイアが交戦中だ。こっちは俺が一人で行く」


 現在、この場に置いて指揮権はレイズが持っている。

 もともと白き乙女の所属メンバーの殆どは、レイズが盗賊をやっていた頃の仲間たちだ。

 慣れた者が指揮したほうが皆、動きやすい。


「了解」「了解」「了解」


 皆が声を揃えて答え、索敵を開始していく。


「さーて、カルロは何やってる」


 魔法で光を歪めて遠くの映像を目の前に映し出す。

 そこにはチンピラのような感じで喧嘩している馬鹿二人がいた。

 レイズは無線の周波数を合わせ、


「おい、馬鹿二人。そこに居たら死ぬぞ」


 ただそれだけ言って広域魔法を使用した。

 海水面を急速加熱し、水蒸気を上昇気流で遥か上空へ。

 そして上空を急冷却し雲を作り、適当に風でかき混ぜ雷雲にする。

 ここまでは単なる”準備”だ。


「さて、久しぶりに使うが……まあ大丈夫だろ」


 真っ白な粒子が渦巻き、レイズの周りに魔方陣を形作ってゆく。

 魔方陣を魔法陣の一部とした多重魔法陣。


「対象は効果範囲内で地上にいるもの、効果範囲は雷雲下方、効果は限定的な封印……」


 レイズは一人ぶつぶつと呟く。


「天罰のイメージを流用、天より降り注ぐ落雷を天罰とし……」


---


 馬鹿二人、カルロとクロードは雷雲からゴロゴロと音が聞こえてやっと喧嘩をやめた。


「おいおい、クロード一旦休戦しねえか」


 MOSDを構えたままカルロは言った。


「そうだな、俺は先に逃げさせてもらうぞ」


 クロードはギアを操作し、一人浮かび上がり、飛んで逃げて行く。


「また、置いてけぼりは嫌だぜ……」


 MOSDの照準をクロードの重力場に合わせ、引き金を引いた。


「てめ、何しやがる」


 そしてカルロはそれを無視して走り始めた。

 いまから逃げたところで攻撃範囲外へ出ることはできない。

 そのことを知るよしもない二人はとにかく走った。


---


 地上からの苛烈な対空砲火を『魔除けの盾(アイギス)』で防ぎつつ飛行していたレイアは、


「まったく、それ使うって……まあ、地上に縛り付けるくらいなら……」


 レイズの行わんとしていることをすぐに理解し、『魔除けの盾(アイギス)』を5つ重ねて自分の前方に配置して姉に突撃した。


「無茶するなぁ、でもここで捕まるのは嫌だし……」


 レイアの”姉”は即座に魔術を組み上げる、使用するのは『総てを砕く雷光(ミョルニル)』。


「まったく……そんなものは効かないよ」


 レイアは魔術を分解し、魔力の奔流をアイギスで受け流し、抱き着く。

 触れてしまえば、片割れの……姉さんの思考パターンなら読み取れる。

 後は全力で魔術の発動を阻害するだけ。


「ちょ、レイア、そんなことしたら……」

「姉さんが悪いんだからね、いつもいつも勝手に居なくなって……」


 言い終わる前に眩い光とともに雷が落ちた。


---


「あちゃー……こら予定外だ。馬鹿二人にも当たっちまった」


 レイズが使ったのは、あくまでも高位の存在を無力化するためのものであり、尚且つそれだけの威力がある。

 つまり、人間などに命中した場合は高確率で廃人コース行きである。


「うん、俺は知らん。ちゃんと警告はした。逃げなかったあいつらが悪い。以上」


 悪びれる様子もなく言った。

 そして小型無線機を取り出し、


「そっちは捕まえたか?」

『目標ロスト、敵増援が接近中です』

「分かった、月姫は召喚石を奪取、他はレイア達を回収して撤退しろ」

『了解』


 小型無線機をしまって、索敵用の魔法を広範囲に展開する。

 山脈の向こう側に機動兵器や多数の兵士達が確認でき、さらに向こう側には……。


「なんか変なのが来たな」


 レイズの索敵に引っ掛かったのは身の丈三百メートルは有ろうかという巨人。

 しかも機械式のようで身体の随所に対魔法用の装備やプラズマ砲、

 レールガン、コイルガン、レーザー、etc.と色々装備されている。


「なんだろうねぇ、だいぶ前にぶっ壊した機械仕掛けの神(デウスエクスマシーナ)に似てるな。ま、あのときは世界をくっ付けるだの訳の分からん機能がたくさんついてたが……」


 レイズの足元に青色の魔法陣が浮かび上がる。

 それは転送魔方陣で一瞬で上空一キロメートルへ転移した。


「さてさてー、使用禁止ではあるが使うとしようか、災害級の魔術を」


 そう言うと、真っ白な粒子がレイズよりも遥か上、成層圏へ向かって集まり始め、巨大な魔方陣を造ってゆく。


「衛星軌道上のゴミ(デブリ)を使用」


 腕を一振り、それだけで上空二千キロメートル、衛星軌道上の廃棄された人工衛星や、その打ち上げに使われた物の破片が次々と魔法陣の上に転移してくる。


「加速と慣性増大で……うぉわ、危ねぇ」


 砲弾が飛んできた、その軌跡は赤く焼けている。


「レールガン……いや、この程度なら当たっても大丈夫そうだな」


 その砲弾は水平線の遥か向こう側へと消えて、水平線の上にある雲に赤い光が映った。どうやら何かに着弾したらしい。


「ま、一応防護結界は張っておくか」


 真っ白な光が地上へと降り注いだ。衝撃で大地が割れ、何もかもが巻き上げられる。

 鼓膜が破れそうなほどの轟音が鳴り響き、大地が形を変えてゆく。

 機動兵器や兵士たちは跡形もなく消し飛び、残るのは一つだけ。


「やっぱ、ダメかー。いや、あれはAPSにレールガンとかレーザー使ってるから当たり前か」


 巨人は無傷だった。

 落ちてくるデブリを悉く撃ち壊し、高出力レーザーで蒸発させる。

 無茶苦茶な方法でレイズの攻撃を無効化したのだった。

 巨人はゆっくりと動き出す。

 その一歩一歩は大地を揺らす。


「あれは歩く災害と言ってもいいかも知れんな」


 レイズは素朴な感想を抱いた。

 その瞬間、再びレールガンが放たれた。

 今度はレイズのいる場所までは届かない。

 レイズの遥か手前で砲弾は地に落ちてゆく。


 ――運動量を奪取、射出座標に転移。


 軽い破裂音が轟いた。


「くそ、ジャマーは厄介だな」


 次々とレールガンやコイルガン、ミサイルなどの攻撃が飛来するがいずれも地に落ちてゆく。


 ――奪取した運動量を蓄積、対象の右足下の地中に集中。


「これならどうだ!!」


 巨人の足元がひび割れ、沈み込み、巨人が倒れる。


『全部隊、上陸艇に乗り込みました』

「オーケー、先に撤収しろ。俺も後から飛んでいく」


 地に伏した巨人を一瞥し、レイズはその場を後にした。


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