アメジスト
私は愛される術を知っていた。
喋らなくたって笑っていれば問題はなかった。
だってみんな可愛いって言うから。
上手く綺麗に自分を良く見せる。
そうしていれば問題ない。
一部の女子のやっかみなんて興味ない。
自分が恋人と上手くいってなくて、その恋人が私に言い寄って来たのは私のせいじゃないじゃないか。
私に八つ当たりしないで欲しい。
それでも周りの人は私がそんなことするはずないって擁護してくれる。
放課後の教室で窓の外を眺める。
陸上部やサッカー部が走り回っていて活気があった。
友達は擁護してくれた。
でも私の彼氏はこの話でいつも悲しそうな顔をする。
「それは貴女が誠実ではないからなのでは?」
クスリと笑い声が聞こえた。
教室の出入り口で廊下と教室の境界線に立つ女性。
ゴシック調のロングワンピースを身にまとい、こちらを見ていた。
それは外靴なのではないかと思うロングブーツを、カツカツと鳴らしながら私の元へ歩いてくる。
そして私の顔を至近距離で覗く。
切れ長の瞳に長いまつげ、大人の色っぽさが漂う香水の香り。
「真の美しさとは、誠実さと心の平和がもたらすものですよ」
ニコッと効果音の付きそうな笑顔。
私の手を取り何かを乗せた。
良く見るとそれは石のようだ。
「二月の誕生石のアメジストです」
差し上げます、と女性は笑った。
呆然とする私に目もくれず、用事は終わったというように教室を出ていく女性。
二月は私の誕生日のある月だ。
あの人は私の誕生日を知っているのか。
そもそもあの人は誰で何者なのか。
それにあの人の言葉。
私に誠実さと心の平和がないとでも言いたいのか。
コロンと私の手の中で転がる石。
私はそれをぎゅっと握り締めた。
翌日のこと。
いつもサイドに結っている髪を下ろしてみた。
スカートの丈を下ろしてみた。
薄くしている化粧をしないでみた。
私としては大差のないことだけれど、朝迎えに来てくれた彼氏はそれを見て驚いていた。
どうしたの?何かあった?って、無駄にオロオロして聞くから笑ってしまう。
クラスメイトや友達も同じ反応。
固まって私を凝視する人が沢山いた。
私らしくないのか意外という声が沢山聞こえた。
まぁ、別にいいのだけれど。
「ねぇ、今日の私と昨日の私…どっちが好き?」
彼氏に問いかけると目丸くした。
「どっちも好きだし、真帆だけど。今日の方が本当の真帆っぽい」
嬉しそうに笑う彼氏。
何だか久々に正面から彼のこんな笑顔を見た気がする。
ブワッと心の奥底から込み上げてくる愛しいって気持ち。
「うん、私も好きだよ」
ケロリと本音を零せば、教室中が固まった。
私がそんなことを言うとは思っていなかった、とでも言いたげな雰囲気。
顔を真っ赤にする彼を見て上機嫌な私は、別にそんなこと気にも止めないのだけれど。
制服のポケットに入れられたアメジストが、コロリと転がる感触がした。