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ギルド『暇人工房』の割と穏やかで喧しい日常  作者: 若桜モドキ
捜索願 ~うちのマスター、知りませんか?~
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すべての始まり

 それは、件の騒動が始まって間もないころ。

 第三都市、あるいはその近場にいた『冥刻の新月騎士団』の中心メンバーは、ひとまず都市にある拠点へと集まり、状況についての情報収集、今後についての話し合いを始めていた。

 といってもわかっていることはただひとつ。

 ここが、自分達が遊んでいたゲームに告示した世界である、ということぐらいだが。


「……どうしましょう」


 フェリニが思わず漏らすつぶやきに、答える声はない。

 部屋は二十人ほどが一堂に会することができる程度の広さがある、会議室と言った趣きの内装をしていて、今は十人ほどが集まっている。あと数人ほど、ギルド内部では発言権を持つ幹部という扱いをされることが多いメンバーがいるのだが、フレンドリストから名前が消えているため、おそらくこの状況に巻き込まれていないのだろうという結論に至っている。

 いっそ全員が巻き込まれていればよかったが、この騒動、特にゲームをしていない場合でも巻き込まれているから規則性がわからない。フェリニなど最たるもので、絶賛お仕事中だったのだがふと気づくと街中で呆然と立ち尽くしていた。そこは前日ゲームをプレイした時、ログアウトした場所だと気づいたのは、しばらくその場で棒立ちになってからである。

 それからメンバーらの阿鼻叫喚が踊るチャットに書き込みをし、招集。

 現在に至っている。


 集まってはみたものの、どういうことなのかわからないし何もしようがない。画面越しに見てきたキャラの衣服を身につけ、その見目を混ぜた己の容姿にも、未だ慣れる感じはしない。

 わかっていることは余りにも少なく、わからないことは無限に存在する。

 それでもできるところから、とまずはメンバーに連絡を飛ばした。


「ひとまずメンバーは最寄りの都市に集まって、適当なところで固まっているように伝えておいた。思ったよりレーネ近郊にいた連中が多くてな。ほら、ちょっと前の初心者歓迎のイベントの影響だろうけど。あのへんはリクにまかせておけばいいんじゃないか、リーダーは」

「そうだなぁ……あとで連絡入れて、あっちの様子聞いておく」

「全体チャットが死んでるのが、ちぃと痛いかな」

「あー、あれなぁ……やかましいだけだと思ってたけど、こういう場合は無いと不便だな」

「ギルド内が残ってるだけよしとしましょうよ」


 だらだらとした雰囲気の、話し合いというか相談は続く。

 誰かが言ったように、本当にチャット機能が生きていてよかったと思う。全体チャットで情報収集できないのが痛いが、ギルド内やフレンド内だけでもあるとものすごく楽だ。

 フレンドの中にはギルドを超えたつながりがあったりする場合もあり、さらに来る者拒まずで片っ端から登録しているような場合だと、全体チャットに等しい情報網となるだろう。

 問題はそんな交流の幅が広い知人を、フェリニは持っていないことであるが。

 まぁ、ギルドの中に何人か、それに近いメンバーがいるだろう。

 あとで探さないと、とここに来る途中で購入したメモにサラサラと書き留める。


「で、だ――なんかだんまりしてる団長サンに、そろそろ今後の指針を決めてもらおうか」


 机に足を乗せるようにして、柄悪く座っている男が口を開く。

 彼はメンバーの中でも極端なくらい戦闘特化のプレイスタイルで有名で、何か大規模なイベントが有る場合は彼をリーダーに戦闘部隊を組むことも多い、切り込み隊長のような人物だ。

 文字だけのチャットと違い、直に会って話をしているに等しい現状、その態度というか柄の悪さはものすごく際立って感じられる。当たり前のことだが、ゲーム時代と口調などが違うメンバーが多い中で、彼のブレのなさはある意味安定しているように思えた。

 そんな彼が口にすることは、フェリニでも反論しがたいものだった。


「こんな状況でまさか足手まといの面倒を見るとか、手取り足取りとか、そんなふざけたこと言うんじゃねーだろうな。オレは絶対に嫌だぜ、『リアル』でザコとガキのオモリなんざ」

「何がどうなってるかわからないからなぁ……」

「どう戦うかも不明なのに、確かに弱い連中をどうこうする余裕はないかな」


 他のメンバーも同じように思うのか、同意に近い言葉を発している。

 彼らの言うことは、理解できた。

 何がどうなっているかわからないこの状況で、ゲーム時代と同じままではいられない。あの頃は片手間にできる『遊び』だったから、玄人ぶって初心者の面倒を見る余裕もあったのだ。

 しかし今、そんなものはない。

 あったとしても、別のところに使うべき。

 反論のしようがない、反論していいことではない。

 だが、だからこそこの状況で、彼らを切り捨てていいのだろうか。それは是か。もしかしたらそれが原因で死んでしまうかもしれないのに、自分達はその死を背負いきれるのだろうか。

 口をつぐみ葛藤するフェリニを、ずっと黙っていた十六夜が見る。

 見る、と言ってもフルフェイスの甲冑を着込んだ状態では、その変化はわからない。

 部屋の中には今後についての話し合いが飛び交い、少しずつだが荒っぽく、ヒートアップしていくのがわかる。遅かれ早かれ、ケンカのような状態になるのは間違いない雰囲気だ。


 初心者などを切り捨てることを良しとする側。

 そんなことは許されないと反対する側。

 そして、選びきれずに口を閉ざす者。


「――」


 団長の十六夜は小さく手元を動かして、フェリニにメッセージを送る。

 それをみた彼女の表情が一瞬曇り、問いかけるような視線を送信者へと向けた。十六夜は小さく、それでいい、と言うかのように頷く。フェリニは、立ち上がって面々に告げた。

「我がギルド、我が騎士団の人員はおそらく最大級でしょう。全てのプレイヤーが巻き込まれたわけではない現状、この人数を生かさないというのは損失となります。そこで、まずは身軽になり状況把握、並びに解決の糸口を手に入れるべく、我らは行動すべきであると団長が」

 よって、と少しだけ声を震わせて。


「一定レベル以下の初心者、ならびに全ての生産職のメンバーを――退団させます」

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