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ギルド『暇人工房』の割と穏やかで喧しい日常  作者: 若桜モドキ
ごー とぅー だんじょん!
85/136

冒険者組合のダンジョン日報

 都市、と呼ばれる場所には必ず『冒険者組合』はある。

 彼らの業務は、まず冒険者の管理だ。冒険者に関することは、警察的な組織に持って行くよりも、組合に任せるほうが早くて的確だと言われているし、実際そうなのだという。

 ギルドの登録や管理も組合で纏められていて、僕も最初の頃はお世話になった。

 なにせゲーム時代は数クリックでできたらしいことを、やたら細かい書類に書き込んでいかなければいけなかったから。レインさんがいてくれてよかった、本当に、本当によかった。


 さらに冒険者に付随する要素、わかりやすいところだとダンジョンや魔物などの情報収集と提供も仕事の一つだそうだ。冒険者から情報を買い取って提供する、という形だという。

 ちなみに情報は有料買い取りだけど、提供は無料。

 まぁ、情報はそれほど高い値段がつくものじゃないから、小遣い稼ぎ程度らしい。とはいえ一泊の宿代ぐらいにはなるから、たいていの冒険者が手に入れた情報はその場でメモし、組合に売っているという。当然このへんは、ゲーム時代には一切なかったところだ。


 次に彼らの代表的な役割は、おなじみの依頼制度。

 市民、あるいは時として国から依頼を承り、それを冒険者に斡旋する。

 これが各種クエストだったもので、内容は多種多様。

 店の手伝いから、草むしり。素材集めから、強大な魔物などの討伐まで。それなりに時間が経って落ち着いた冒険者は、その名の通りに依頼を受けて冒険をして日々を過ごしている。

 だから、第七都市やレーネのような田舎でも、組合の事務所はいつも人だらけ。

 からんころん、とおなじみのドアベルを鳴らしながら僕はそこを尋ねた。


「ようこそ、冒険者組合メ・レネ支部へ!」


 いかにもな制服を身につけたエルフの女性が、立ち上がって一礼する。

 いくつかある受付のうち、開いているのは彼女のところだった。


「あの、近隣のダンジョンについての情報を頂きたいのですが」

「承りました。……あの、お一人での冒険ですか?」

「いいえ、四人です。僕を入れて」

「ギルドに所属なさっていますか?」

「はい。えっと、レーネ支部登録の『暇人工房』です」

「少々お待ちください」


 女性はにこやかな笑顔を浮かべ、手元で何かを操作する。原理はわからないけど、どうやら魔法を使ったパソコンのようなものらしい。どこかのサーバーのようなものにギルドや冒険者の情報をまとめてあって、彼女が操作する端末から情報を参照する感じなのだろう。

 ちなみにわざわざそんなことをするのは、単に冒険者は嘘をつくからだ。

 弱いのにそれを隠したり、難易度が吊り合わないダンジョンに向かおうとしたり。いくら神殿で復活するとはいえ、何度も死なれてはいけないから、その冒険者ならびにギルドに釣り合うダンジョンでなければ情報閲覧すらできない。僕らの目的地は、レベルが高いハヤイとテッカイさんがいるから大丈夫だとは思う。現地の人も入ってる地域だと聞いているし……。


「……はい、確認しました。近隣のダンジョンはこの三つです」


 差し出されたのは三枚の紙切れ。

 それを受け取り、軽く折りたたんでポケットに入れる。それから、特に注意するべき魔物の有無を尋ね、ないという彼女の言葉にほっと胸をなでおろす。最後に軽く依頼を確認し。


「よい冒険を!」


 明るい声を背に、僕は事務所を後にした。



   ■  □  ■



 紙にはそれぞれ一つ、最寄りのダンジョンについての情報が記されていた。見たところ手書きした感じじゃないから印刷……なのかな。これまでは深く考える余裕なかったけど、微妙に技術レベルがおかしくなかな、この世界。とはいえ便利だから、ありがたいくらいだけど。

 組合の情報によれば、僕らが向かうダンジョンの難易度は最低ランクよりは、少し危ないくらいのもの。その危なさだって、魔物が出ます、ぐらいだからそこらの森と変わらない。

 出る魔物もスライムっぽいものを筆頭に、めちゃくちゃ弱いものばかり。

 それこそ、そこらの子供が棒切れで叩いても倒せるような。

 これなら素材集めに集中しても良さそうだ。


 ただ、磨き粉の原材料となる魔物は、結構奥まったところに生息していて、件のダンジョンのボス的な扱いを受けているらしい。こいつだけひときわ強いから要注意、と書いてある。

 まぁ、倒せない程ではないから大丈夫だろう。

 受付で尋ねたような危険な魔物、大型のドラゴンだとか、巨人だとか、そういうやつじゃないならなんとかなる。少しだけ希望が見えた、何とか生き残ることができそう的な意味で。


 ダンジョンといえば特別な個体、つまりボスだけど、そういうのは無いらしい。複数の魔物の群れが互いに干渉しないように生息している、というだけの場所だから仕方がないか。

 冒険者の中には、そのボスが落とす素材を目当てに狩りに行く人もいるという。

 当然ボスは別格の強さがあるから危ないけれど、リターンも大きいんだろう。

 ……あぁ、そういうのがいるから冒険者やギルドによって、情報を出したり出さなかったりするのかもしれないな。絶対無茶する人はいるだろうし、組合の方もいろいろ大変そうだ。


 紙にはダンジョンで手に入る素材についても書いてある。

 これを目当てにする冒険者もいるからだ。まぁ、僕らのことだけど。

 鉱山のような形をしているダンジョンなだけあって、手に入るのは石とか鉱石とかそういうものが大半だ。岩塩がそこに含まれる謎は、この紙にはまったく書かれていない。

 出現する魔物も岩っぽいものが多く、総じて硬い。

 一番弱いだろうスライムっぽいヤツは、むしろドロの塊みたいなものらしい。あまり触りなくない気がする。汚れることに抵抗はないつもりだけど、泥まみれになりたいわけじゃない。


 注意するべきなのは、岩石が組み合わさって動く魔物――ゴーレムだ。

 こいつには普通の物理系攻撃は通じにくい。

 余程のパワータイプが、大ぶりの武器で叩き崩すぐらいしなければ。

 基本的に、魔法使い系の人が大活躍する場所だ。


「……僕しかいないんだよなぁ」


 待ち合わせの場所で、まだ来ない買い出し組を待ちながらため息をこぼす。ヒロさんはひとまず大剣装備、ハヤイは愛用のクナイっぽい短刀類。テッカイさんはそんなに大きくない片刃の両手剣。絵に描いたような物理アタッカーばかりのパーティだ、なんということでしょう。

 唯一、僕だけが後衛担当なんだけど、あんまり攻撃は得意じゃない。

 どちらかというと敵の足止めをしたりとかの方がやりやすくて、そもそもめったに戦いになんか行かないから戦闘そのものにまだ不慣れ。使えそうな本は持ってきたけど不安が強い。


 これは……ヒロさんを心配するまえに、自分が頑張らなきゃいけないような。

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