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ギルド『暇人工房』の割と穏やかで喧しい日常  作者: 若桜モドキ
ごー とぅー だんじょん!
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噂の騎士団

 ハヤイおすすめの店は、ゆったりした雰囲気の食堂。

 内装は喫茶店という感じのきれいなところで、あちこちに鉢植えなどが置かれておしゃれな雰囲気がしている。たぶん、ハヤイじゃなく、姉のアイシャさんが見つけた店だろう。

 ちょうど客の切れ目に入ったからなのか、すんなりと席に通され、注文できた。

 僕とハヤイはひき肉に野菜やスパイスを混ぜて成形して焼いた、ハンバーグっぽい見た目と味の料理。ソースは何種類かあって困ったけど、知ってるらしいハヤイにひとまず任せた。

 この世界の料理はそれなりに食べているし、たぶん大丈夫だと思う。

 テッカイさんはローストした肉と野菜をパンで挟んだもの、ヒロさんも同じやつを。それと飲み物を。紅茶とハーブティといわれたので、とりあえず紅茶にしておいた。


「さすがレーネに並ぶ生産職の街、結構冒険者っぽいの見かけたな」

「そうですね」


 料理が到着するまでの間、道を歩きながら感じた都市の印象を思い出す。

 レーネよりは都会寄りらしいここは、人間以外の種族をとても多く目にする。一番多いのはエルフで、少し垂れ気味の長い耳が特徴的な種族だ。エルフといえば長寿種族だけど、この世界もそういうものなのかは不明。ただプレイヤーがキャラメイクで選択できる種族の一つであることを考えると、寿命としては同じなんじゃないのか、というのがテッカイさんの見解だ。


 次に多いのは妖精。こちらはゲーム中には、会話に出るくらいで該当キャラが存在しなかった種族だ。大きさは幼稚園児くらいで、耳は小さくとんがっている。背中には羽があって、だいたいふわふわと浮かぶように飛んでいた。羽はよくあるトンボのようなものではなく、そういう形になった炎、みたいな感じに、淡く発行してゆらゆらしたきれいなものだ。


 獣人は猫っぽい人から狐っぽい人まで、いろいろだ。ウルリーケとガーネットは兎っぽい獣人で、揃いの耳は髪の毛に交じるように垂れている。髪が短いガーネットはまだ耳とわかるんだけど、ウルリーケは俯いてたりするとどこまでが髪で耳かたまにわからない。

 触ったことはないし尋ねたこともないから痛覚の有無は不明だけど、何人かピアスのようなものをつけている人がいたから、人間の耳と同じような扱いなんだろうなと思う。


「こんにちはーっ」


 からんからん、といい音を立ててドアベルがなる。

 お客さんが入ってきたというよりは、知り合いが訪ねてきたという感じの声だった。それとなく入口の方を見ると少女と少年数人がいて、何かを手に店の主と話をしている。

 彼らは、その格好からしておそらく冒険者だ。

 それだけなら、さほど珍しいとは言えないことだったと思う。

 目を引くのはその『黒』だ。綺麗な黒、漆黒に染め抜かれた揃いの外套。全員が同じ外套を身につけていて、それには丸い円をモチーフにした紋章が、銀糸で刺繍されている。

 それには剣と縦が添えられていて、何かのゲームに出てきそうなデザインだ。

 例えるなら、まるで騎士団につけるような、感じの。


「……あれ、は」


 テッカイさんの横に座っていたヒロさんが、か細い声を出した。

 その顔色はよくなくて、震えているようにすら見える。

「大丈夫か?」

「ハラの薬飲むか? ちゃんと持ってきてるぜ?」

「だ、大丈夫……」

 わたわたとヒロさんを案じている間に、外套集団は店を後にする。窓の向こうに、印象的な黒が揺れて、人並みに溶けるように消えていった。比較的明るい色彩でまとめられた服を来た人が多い中で、あの黒は良くも悪くもすごく目立って見える。僕やハヤイも黒っぽい服を着ることが多いんだけど、あの黒は僕らのそれとはまるで違う用に見えた。

 ちょっと痛いかなと思うけど、僕らのが黒なら、向こうは闇のような。


「……あれ、騎士団の紋章だよ」


 水を飲んで落ち着いたのか、ヒロさんが口を開く。

 騎士団、と聞いて思い出すのはあれだ。 冥刻の新月騎士団。かつてヒロさんが在籍していたけれど追い出されたところで、おそらく生産職や初心者を切ることを、最初にやり始めた大手ギルドの筆頭。なるほど、丸じゃなくてあれは月なんだ、塗りつぶしていないから新月か。

 だけどギルドの紋章なんてあったっけ。

 今までいろんなギルドに所属している人を見かけたけど、そんなもの見たことない。


「騎士団くらい大きくなると、外部にコミュニティを作ったりするんだ。あれは、そこで半分おふざけで作ってた紋章なんだよ。新月と、剣と盾。新月騎士団って名前に合うように」

「へー。じゃあシロネコ運送だったら、そのままシロネコにトラックか」

「さすがにアウトだと思うよ、ハヤイ……」


 と、冗談を言っている場合じゃなくて。

「ってことは、さっきの彼らは騎士団の団員ってことですか?」

「……たぶん」

 聞けば、コミュニティは一定期間ギルドに在籍した人にのみ、アドレスとパスワードが配られるらしい。人の出入りが多かったので、定期的にパスワードは変更されていたのだとか。

 とはいえいつあの紋章ができたのかわからないから、かつてパスワードをもらってコミュニティを見ることができた元メンバーが、これ幸いと勝手に使っている可能性もあるだろう。

 だけど、真偽はともかくヒロさんは気になっているようだった。


「あー、じゃあ気まずいな……早めに準備して、出るか」

「ごめんね……」

 申し訳無さそうにするヒロさんは、まだ顔色がよくない。

 いろいろあったから、複雑な心境なのだろうか。

 ここに残すというのも一瞬考えたけれど、あの様子だと彼女らはここを拠点にしている可能性がある。根拠はない、けどお店の人と親しそうにしていたから。残していけば一人で出会ってしまうかもしれないし、だったらダンジョンに連れ出したほうが気晴らしにもなるかな。

 そこまで考えて、一つ気になる。


「……でも、ここストラからだいぶ遠いけど、どうしてここにいるんだろう」


 例えばここが帝都だったら、買い出しなり帝都周辺のダンジョンなり、足を運ぶだけの理由があると思う。だけどここは第七都市。周辺のダンジョンは、決して多くはない。

 ハヤイも同じ疑問に至ったらしく、不思議そうな顔で首をひねる。


「この辺、特にダンジョンもねぇ場所だし、そもそもゲーム時代にゃなかった地域だからメインクエストも無いはずだろ? なんでどのギルドよりも『攻略組』に属してるあいつらここにいるんだ? うーん、にぃにきいてみっかなー、騎士団にダチがいるって聞いたし……」


 思わず手に入れてしまった『疑問』。

 けれどその答えを持つ人など、ここには当然いなかった。

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