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ギルド『暇人工房』の割と穏やかで喧しい日常  作者: 若桜モドキ
ごー とぅー だんじょん!
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神様仏様ハヤイ様

「あー、よく寝たぁ……」


 ふわぁ、とあくびと伸びを一緒にするハヤイ。

 僕を散々枕かクッションにしてくださった彼は、一寝入りしてとても元気だ。一方、身じろぎ一つできなかった僕は、帰りたいというワードが脳内をめぐる程度に疲れている。

 僕ほどではないにしろ動けなかった、残り二人もこきこきと首を回しつつ、まるで一日働き終わったような顔をしていた。エコノミー症候群とか、大丈夫かな、ならないかな……。

 レーネから揺られること数時間、第七都市メ・レネに到着した。

 時間的にはお昼ごろ、お腹はちょっと減っている。


 僕ら以外、冒険者らしい身なりの乗客は降りてこない。

 他は全員、次の都市へ向かうらしい。物資のやりとりや馬の休息などが終わったら出発するらしく、あと一時間ほど留まる馬車の回りは慌ただしく人が行き交って賑やかになっている。

 帝国内で、都市と都市を繋いで物流を生むのはキャラバンだ。

 異国からの物資すら余裕で持ち込んでくるあの波は、凄まじい物があった。

 しかしそのキャラバンはそう頻繁に行き来するものではないから、普段はこういう定期馬車が荷物を街から街へ巡らせるのが一般的らしい。防犯を兼ねて十台ほどが隊列を組んで動くのもあって、いろんなものを、それなりにたくさん都市から都市へと運んでいく。

 街の方では物資が手に入るのと、ものを売れるというのもあって、定期馬車の停留所には即席の露店がたくさんある。屋台を引っ張ってきて、食べ物を売っているところも多い。

 お客さんは馬車の乗客など。サンドイッチやホットドックみたいな、食器がいらない食べ物が中心だけど、たぶん冒険者なんだろう獣耳の少女が切り盛りする屋台の商品はうどんだ。


「いらはいアルヨー、おうどんアルヨー」

「おいねーちゃん、蕎麦はねーのか」

「ナイヨ。欲しいならそば粉持ってこいヨ、ウチには小麦粉しかナイヨ」


 現物でよこすヨ、と続く声。

 お玉を両手に装備して振り回す姿は、なかなか目立つ。毛束の太い金髪を長く伸ばしているからすごく目立つし、彼女の屋台には結構な人数のお客さんが立ち寄っているようだった。

 狐っぽい耳としっぽだからきつねうどんかな。

 だしの良い匂いが漂ってきては、程よく隙間のある僕の胃袋を刺激していく。

 しかしとても賑わっている。さながらお祭りでもしてるようだ。

 僕らはレーネからここに移動しただけだけど、馬車がくるとどこの都市もこんなもんなんだろうか。そういえばここまでじゃないけど、レーネでも露店が出ていたのを見かけたし。

 あれだな、キャラバンが来た時のレーネみたいだ。


「メシは落ち着いたとこで食うか」


 荷物をひょいと背負ったテッカイさんが、うどんの屋台を見て笑う。

 その顔には食べたいと書いてあるように見えたけれど、諦めたようだ。

 確かに立ち食いそばならぬ立ち食いうどんだし、落ち着いて食べられる状況じゃない。それなりに賑わっている都市だから、レストランとかそういう店もあるだろうし。

 お金は少し余分に持ってきているから、大丈夫かな。


「メ・レネはなー、食いもんがうめーんだよなー」

「一度来たことがあるの?」

「おぅ、キャラバンの行きの時にな。お勧めの店があるんだぜ」

「じゃあそこにすっか。いいよな?」

「うん、ぼくはそれでいいよ」

「じゃあ、まずは腹ごしらえしますか。ハヤイ、お店まで案内できる?」

「任せとけー!」


 ぐっと拳を握り歩き出すハヤイに、僕らはぞろぞろついて歩く。

 大きな門扉を超えた先は、森――のような形の町並みが広がっていた。

 事前に聞いた話では、ここ第七都市メ・レネは森の都市と呼ばれているという。それは見たままの状況を騙る言葉でもあるけど、森に住む種族が多く暮らしていることにも所以する。

 森の民、というのは例えばエルフだとか、妖精だとか。

 獣人も多いらしく、ぱっと見た感じだと人間が少ない感じだ。いなくはない、けど見るからに旅装束で、都市の住民ではなさそうだ。ここは植物を模したデザインの、民族衣装とも言える服装を着るのが当たり前で、住民と旅人の見分けはびっくりするくらいはっきりしている。

 あと、都市そのものが森の中にあるから、それも呼び名につながっているのかな。

 そんな立地条件なので、ここは植物系の素材がとても多い。錬金術師を筆頭に、レーネと同じく生産系の冒険者が多く暮らしているという話だ。レインさんの知り合いもいるんだとか。


 そして一つ、特筆すべきところは――ここは、ゲーム時代には存在しなかったことだ。

 ゲーム時代では都市は第六都市フィルフィアまでしかなく、エルフや妖精が住む森の中の都市がある、というのはエルフなどのNPCの会話で匂わされる程度だったらしい。

 当然のようにゲームとの違いを晒す都市は、どことなくレーネに似た雰囲気があった。

 穏やかなのもあるけど、これはそう。

 植物の香りが、とてもいい。

 さて、僕らの目的地はここの近くにあるダンジョンだけど、距離そのものは充分日帰り可能なものだけど、攻略ではなく収拾が目的なので、日帰りできるとは限らない、たぶん無理。

 なので荷車を貸し付ける商いをしている人から荷車を借りて、そこに数日分の食料、ランプなどの物資を詰め込む。水は、ちょうど川が近くにあるらしいから、そこで調達予定だ。


 あと、冒険者組合の事務所で、ダンジョンと周辺、並びに通過する地域の情報なんかも仕入れた方がいいらしい。ゲーム時代のようにわかりやすく魔物の生息域が分かれている、なんてことがなくなっているから、初心者向けだと思ったらとんでもないのがいたりするという。

 食料は干し肉など保存の効くものを中心に、あとは森の中で探す感じだ。

 できれば長く現地に滞在したいから、料理や食材なんかも節約気味にいきたい。

 少ない素材でお腹いっぱい、それが理想だ。

 そこで。


「オレの出番ってわけだな」

「うん、頼りにしてるね」


 このメンバーで唯一、野宿仕様の料理が作れる『主夫』ハヤイ。

 とても期待しているし頼りにしてる、とても。

 彼がいなければ間違いなく、干し肉をかじるだけの食事だっただろう。ヒロさんは普通の食材から普通の食事は作れる人だけど、ありあわせのものから作るというのは難しいらしい。

 ハヤイは――というかシロネコ運送は、よくダンジョンに長期滞在してたようで、現地調達しながらの料理計画の経験がある。とても頼りにしている、とても頼もしいと思っている。

 あ、そうだ、後で食料調達用の資金を渡しておこう。たぶん僕が一緒に行ってもわけがわからないし邪魔になるだろうから、せっかくなら他の買い物を同時進行で済ませておきたいし。


 うーん、計画が一つ一つ決まっていく感じがして、ちょっと楽しい。

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