素晴らしき廃人達(ただし生産職)
しばらくしてやってきたのは、小柄で赤毛の二人組だった。
一人はうさぎのような耳がたらんとしている、おそらく獣人の少年。
もう一人は彼の後ろに隠れて、こっちを見て怯えている。
……僕、知らないうちに何かしてしまったのかな。
彼女はブルーのものとはまた違うデザインの、フリルがたくさんのお姫様のようなドレスを着ている。足元は見えないほど長く、頭にはセットなのだろう三角巾のようなものがあった。
ふいに目が合う――と言っても、ドレスの少女は前髪が長く目元が見えないけど、目があったかなと思った瞬間に、彼女は少年を盾にするかのようにして、さっと隠れてしまった。
ドレスがふんわりと広がっていることもあって、隠れきれてないけれど。
うぅむ、そんな怖い顔をしていたのかな。
「ブルーさん、どもー」
淡い緑色の衣服に、アクセントで黒を使ったニコニコ笑顔の少年。
彼が少年だとわかったのは、同じくらいの背格好のブルーと比べたら、出るところが平たい体格というのもあるけど、喋れば声が少し高いけれど普通に少年のものだったからだ。
あと、ブルーが『彼』という呼称を使って少年を紹介したから。
「彼はガーネット。知り合いの『裁縫師』なのだ」
「よろしくです」
ぽん、とガーネットは腰のポーチを叩く。ぽっこりとまんまるに膨らんだ形状は、裁縫に付きモノな、あのまち針とかを突き刺すクッションに似ている。刺さっている編み物の編み棒のようなあれは針なのか。でも『裁縫師』って戦闘スキルもっていたかな、思い出せない。
「それにしてもお久しぶりですよー。いやぁ、災難ですよねぇ。お連れさんも、とんでもないことになっちゃって。僕らはソロってたので良かったけど、知り合いは軒並みクビですよ」
あはは、とガーネットは笑ってから。
「散々、みんなに特注のいい装備作ってもらったくせに、何様なんだか」
ぞわっとする、黒い笑みがちらりと覗いた。
とはいえ、今の言葉を聞けばそういいたくなるのも仕方ないかもしれない。散々利用するだけしておいて、こんな状態で叩き出すんだ。恨まれたりしても当然のことだろうし。
後々、面倒なことになりそうだという危惧が僕の中に生まれる。
だからといって、何ができるわけでもないんだけど。
「こちらの方は?」
「さっき知り合った初心者なのだ。ほら、例の掌編企画のシリアルコード。あれをバカ正直に入力した『語り部』なのだ。サブは『召喚術師』だから……まぁ、だいぶ詰んでるのだ」
「うわぁ、凄い詰みっぷりだぁ」
ご愁傷様、成仏を、と手を合わされる。
ま、まだ死んでないんだけどな、と思いつつも、冗談じゃすまないから悲しい。一人では絶対に生きていけない。ゲームではなく現実になったから、逃げ場所なんてどこにもないし。
「で、ガーネットに隠れているのがウリ。見ての通りの後衛職で『錬金術士』、サブが『魔法使い』なのだ。二人はリアルでも双子の兄と妹……姉と弟? 忘れたが、きょうだいなのだ」
「双子じゃなく年子なんですけどねー、あと僕が弟です」
「ウリが姉でガーネットが弟というのは、未だに信じがたいのだ。だから間違える」
「……ブルー、違う、ウリは、ウルリーケなの、ウリじゃない」
震える声でぼそぼそと何かを言い返しているウリ、もといウルリーケ。
弟に隠れながら、という姿は小動物みたいだ。弟よりも赤みが薄い茶色い髪は、内側にくるりと巻くようなクセのついたロング。わりとまっすぐ気味のブルー、外側に跳ねるガーネットと比べるとだいぶ違ってみる。ちなみに僕は少し長めの黒髪に、青い目を選んだ……はず。
鏡を見ないと、詳しいところは忘れてしまった。
ただ、色はあっていると思う。
昔から黒に青を合わせるのが好きだから。
「えっと、よ、よろしく」
「……よろしく、なの」
ぼそぼそ、と帰る声。
ウルリーケがついている『錬金術師』というのは、文字通り錬金術を扱う後衛魔法職だ。
同時に生産職としても優秀で、薬草などを使って薬を作成できる。回復に攻撃に、両方をこなせるので便利そうに見え、実は肝心の薬――魔法のポーションがなければ何もできない。
彼らはそのポーションを使って、少ないMPで魔法を発動させるから。
なので、必然的に荷物がいっぱいいっぱいで、更に戦うためには薬の調合が欠かせないなど手間暇があり、なかなか扱いが面倒な上級者向けの職業だと書いてあったと思う。
ガーネットの『裁縫師』なんかは、わざわざ説明するまでもない。
彼が言った通り、防具関係を作るスキルに長けた生産職だ。布や皮といった素材を使って軽装に属する装備などを作る。ローブだとか帽子だとか。と、これもヘルプに書いてあった。
ここまで紹介を受けて、僕ははたと気づく。
ブルーは『精霊術師』だけど、ポイント関係はどうも料理――それと栽培スキルにつぎ込んでいるみたいだ。ガーネットは『裁縫師』だし、ウルリーケは『錬金術師』、となれば。
嫌な予感がしつつ訪ねてみれば、ブルーはにっと笑って。
「うむ、みんな生産職なのだ」
当然この私も、と少し自慢気に胸を張るブルー。あぁ、あの飛び抜けて高い料理スキルはつまりそういうことなのか。確かにそういうことを目的にプレイしている人もいる、とは聞いていたし、チュートリアルの時にそういう生き方をしようかなとは思ったけど、思ったけど。
いざこうして、各々ギルドから追い出されたりしている『生産職』な皆さんの、ダメダメだらけの僕なんかじゃ足元にも及ばない鍛えあげられたステータスなんかを眺めていると、ね。
……大丈夫なのかなぁ、と不安になった。