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今日はお留守番

 レーネからは、最寄りの都市などに向かう定期馬車が一日に数本出ている。

 乗りたい人はここで待つように、と予め指定された広場に、僕とブルー、テッカイさんとレインさんはいる。周囲には数人の人影、彼らも僕らも朝一番の定期馬車を待っていた。


 今日の朝一番は、第六都市フィルフィアへの直行便。

 第六都市はレーネから馬車で数時間ほどの位置にあって、複数の街道が交差する場所にあるから物流の拠点ともなっている。レーネも大きな街道のそばにあるから物流は申し分ないのだけれど、それでも足りないものは主にフィルフィアへ買い出しに行くわけだ。

 様々な産業の工場もあるそうで、レーネはその原材料を育てる場所としても関係が深い。

 布一つ作るのも、原材料となる植物はレーネで作り、それを購入したフィルフィアの各種工場がせっせと織り上げる。……って、前にガーネットが熱く語っていた。


 レーネで布まで作る、というのもできなくはないそうだけど、全体的に土地が肥沃なので工場を立てるよりは畑にする方が、長い目で見ると収入的にも都合がいいのだそうだ。

 一点特化、ということなのだろうと思う。

 まぁ、そんな感じに切っても切れない関係だった。

 そんな街に、ブルー達は行く。近いとはいえ数時間、朝一番で出ても昼前につくかつかないかっていう話だから、まだ空が薄暗いというのに周囲には馬車待ちの人が多い。

 で、当然ながら帰る時もそれ相応に時間がかかるので。


「三日前後となると、結構長くなるね」


 僕の横に立っているブルー、その足元には大きな旅行かばんがある。ガーネットお手製の収納力抜群なヤツだ。大きさは小ぶりで女性でも持ちやすく、可愛らしい装飾付き。

 そこに数日分の着替えなどを入れてあるらしい。

 寝間着から下着類から、その他必要そうなものをいろいろと。

 片道だけで数時間なので、日帰りするのは不可能。かといって一泊しての強行軍は身体に悪いし、いろいろ細々とした雑用もあるので三日ほどを目処に滞在する予定を組んである。


 この世界において、庶民の旅行は日帰りもしくは三日前後が一般的だそうだ。

 貴族なんかは数週間もありうるそうだけど、まぁ、そこはそこ。うちは庶民と冒険者相手の商売だから、とにかく使い勝手が良くて丈夫で、ついでに収納力がある物がいい。

 まだあの旅行用かばんは試作品らしく、どうやら使い勝手調査も兼ねているそうだ。

 だからブルー、レインさん、テッカイさん、それぞれでかばんの形状は違う。

 いかにもな旅行かばんはテッカイさん、トランクっぽい四角い形はレインさん。ブルーはそれを更に進化させたキャリータイプ。車輪などの部品は、メイドインテッカイ、である。

 キャリーは試しに作ってみたとのことで、実用品にするかどうかは不明だそうだ。

 そのせいか、ブルーの好みをガンガンに聞かせた模様になっている。青い、紫陽花のような花のプリント――もといイラストを、大小ぺたぺたと書きまくった涼し気なものだ。

 取っ手のところには、ストラップ風の飾りつき。

 なお、絵を書いたのはブルー本人だとか。自分だけのかばん、って感じかな。

 そんな感じに準備も整えたのに、ブルーはパっといってパっと帰ってきたそうにしているから大変だ。工房も畑も、そしてみゅうみゅう賑やかな精霊達も心配でしかたないらしい。


「畑の方は任せて、少しゆっくりしてもいいんだからね?」

「だけど」

「帰ってきて寝込んだら、余計に畑も食堂も触れないんだから」


 さり気なく釘を指しておく。というのも、そう言っておかないとブルーのことだから、弾丸ツアーの如きむちゃくちゃなスケジュールで、行って帰ってきそうだから……。

 う、と小さく唸ったのは、はてさてどういう意味なのやら。

 まぁ、でもレインさんがいるし、テッカイさんもいるわけだから、徒歩で帰るとか言い出すようなことはないと思う。年中無休ペースで開店してるし、少しのんびりしてもいいのにな。

「ま、まぁ、あの二人がいるなら問題ないのだ」

 ふふん、とブルーは自信ありげに笑う。

 どうやら僕は戦力外らしいけど、つっこむのも何なのでスルーしておいた。

 ……実際、スキル的にまだまだ役立たずだから、何も言えないし。



    ■  □  ■



 帰り道、僕は朝食の材料を幾つか買って帰る。

 そろそろ馬車は、レーネの近くにある山に登っても見れないほど遠くだろうか。


 工房に残るのは僕と、そしてウルリーケとガーネットの三人。

 それと、まだ寝てるだろうライラが一匹。

 ハヤイは兄姉に戦力として呼び出されたとかで、第三都市までいってくらー、と言い残して昨日出発済みだ。そのまま早朝に到着したとの連絡が、起きたらこっちに届いていた。


 今はたぶん寝てるんだろうけど、起きて準備を整えたらダンジョンだかに出かけてるんじゃないだろうか。他にも知り合いの冒険者を集めての、結構大規模な仕事なんだと聞いている。

 どうやらゲームのアカウントを持った全員がこうなったわけではないようで、どこのギルドも人手不足なんだそうだ。シロネコ運送も、ゲーム時代の三分の二ほどしかいないという。


 これはまだマシな方というから、怖い話だ。

 頻繁にログインしていた、していない、などの法則なんてないようで、サービス開始直後にちょっとキャラ作って少し遊んで、あとは放置してたような人も巻き込まれているとか。

 だからギルド未加入の冒険者の争奪戦は激しく、戦闘系だと引っ張りだこ。その一方でゲーム時代のように便利アイテムでドーピング、なんてできない生産職はあいも変わらず放ったらかしで、そんな彼らが作った生産系ギルドも以前に比べるとずいぶんと増えたと聞いている。


 ほとんどが第三都市で冒険者相手の、ナンチャッテジャパン的な商売を。飲食店などが中心で、なんか聞いた話では大人向けのいかがわしい系のお店も、いくつかあるとかないとか。

 あとはうちの工房みたいに道具などを取り扱う商店。

 冒険者に限らない商いは、第一都市や第二、第四都市に集まっているとか。


 個人の『自営業』も増えているらしく、例えば職業歌姫のある冒険者は各地を練り歩いて美声を披露していたり、リアルでの特技を生かして画家――なんてパターンもあるという。

 ……貴族に取り入って左うちわ、という女傑もいらっしゃるそうだ。

 人間って、タフなんだなぁと僕は思う。

 まぁ、そんな感じに各々なりにこの世界で生活し、人々に馴染みつつある。

 元の世界への帰還だけを目的にする、通称『攻略組』の人達さえ、手練の冒険者としての評価が高くて、依頼を張り出す掲示板の賑わいなど、ゲーム時代の比ではないという。

 だからこそ冒険者という『産業』は、とても盛んなものとなっている。

 ギルドからの勧誘、そして報酬を提示しての引き抜き。

 少しでもいい人材を手に入れようと、みんな熱心に動きまわっている。


 勧誘、と言えば先日の騒動、あれからどうなったのか僕は詳しく知らない。

 僕が自警団の人達とレーネに戻った時には、彼らはすでに連行された後だったから。

 罪状は明らかなので、この世界――この帝国の法律に従い、しっかり処罰されるとエリエナさんは言っていた。とはいえ冒険者は立場が立場なので、普通の刑では中途半端。

 エリエナさんや、彼女の話を聞いたレインさんの予想では、数週間から数ヶ月……もしかするとそれ以上にもなるかもしれないけど、たぶん『禁固刑』あたりだろう、とのこと。

 冒険者用の牢獄もしっかり存在しているそうで、中に神殿があるので自ら命を経っても意味が無いという仕様なんだそうだ。用意周到すぎて安心する反面、おそろしい話だと思う。

 するつもりもないけど、絶対悪いことはしないようにしよう……。


 そんなわけで、数日ほど工房はお休みということになった。

 なんだかんだで、人数がいないと回らない工房だなと、改めて思う。

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