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険悪な空気

 ところで、この世界はどれだけゲーム時代の面影を残しているのだろう。

 元のゲームは、僕が知る限り典型的なRPGだ。街があり、王政で、二十代ぐらいの若くて見目のいい皇帝がいて、たくさんの貴族と勇猛果敢な騎士団が周囲に仕えていて。

 それから街と街、他国をぐるりと街道が繋いで。


 そんなこの国――ヴェラ・ニ・ア帝国には、当然ながら魔物がいる。

 街の外、時に街中。ダンジョンなんかには標準装備。


 魔物が自然とそこらに生息している世界、それがこの国がある異世界だ。

 冒険者と呼ばれるプレイヤーは、その魔物を倒して金を稼ぐ存在、という設定。

 魔物の増殖に手を焼いた帝国が組織した『冒険者組合』に所属して、そこから依頼を受けたりしてお金などを稼いで生きている。主な目的は魔物の増殖、その謎を明らかにすること。

 これはメインクエストで、特定のキャラクターから直接受けるものだ。

 サブクエストは、『冒険者組合』に届く依頼の中に含まれている。

 ちなみに依頼にはメインとサブといったストーリー性のあるものと、一定時間ごとにランダムで入れ替わる一般クエスト。あと、他の冒険者のアイテム募集の依頼なんかもある。

 それらを受けるには、『冒険者組合』支部の掲示板を見るしか無い。

 だからプレイヤーが一番多いのは、『組合』の本部と支部の中。

 そして、その周辺地帯だった。


 各種資料もそこで閲覧できることもあって、僕はひとまずそこに向かう。明らかにショックを受けて崩れ落ちた人々や、半狂乱で喚く人――それらを見て怯える市民を眺めながら。

 そして僕がたどり着いたそこは、まさに阿鼻叫喚に包まれていた。

 椅子に、ベンチに、地べたに。

 人々が崩れ落ちてうなだれたまま、ひたすら嘆く光景があった。

 ここレーネは農業を中心とした田舎で、周辺にこれというダンジョンがない。さらにメインクエストやサブクエストとの接点もないので、いくつかある都市でも特に人がいない場所だ。


 そんなレーネでさえ、こんな悲惨な状態なんだ。

 第一都市ヴェラ・ニ・ア――つまり帝都に当たるところなんて、もっと悲惨だろう。


 暴動とかが起きているかもしれない。

 その帝都に行くと言っていた友人らは大丈夫だろうか、見捨てられたけど、あんなのでも友人は友人、幼馴染。何かあったら悲しむ人がいることを知っているから、心配になる。

 だけど今は、我が身のことを何とかしなきゃ。

 ひとまず受付に行こうと、僕は建物に向かって足を踏み出し。


「ギルドの方針に従えないっていうのか!」


 そこに響く鋭い声に、びくりと身体を震わせて停止した。

 声がしたのはすぐ近く。

 見れば数人連れの――おそらくはギルドだと思う。

 軽装の男が、小柄な少女を怒鳴り散らしている光景があった。


 少女は見るからにして後衛職担当、例えば『魔法使い』辺りだろうか。

 青い髪を長く伸ばす彼女は、一方的に言われ放題だった。

 何も言わず、何も言い返さず、静かにそこに佇んでいるだけ。

 まるで人形みたいだなと、そんなことを僕は思った。

 服装もそんな感じで、スカート部分の裾などにフリルが多めの、どこかロリータっぽいデザインをしている青いエプロンドレスを着ている。実際に見たことはないのだけれど。

 腰の後ろには、白くて大きなリボン。

 それを結んだ端は長くて、少し膝を曲げるだけで地面につきそうだ。

 ブラウスの少し長い袖からは、ちょこんと指先が覗いている。彼女が着るには少しだけ服のサイズが大きいのか、あるいは元からそういうデザインなのかもしれない。


 一言にするなら、かわいらしい。

 斜め前にいるから顔はよく見えないけど、美少女なんじゃないかなと思う。


 そんな彼女は見るからに武器を手に戦いそうな、強く見える男性女性に少年少女。

 それらで構成された数人組と、睨み合うように立っていた。

 ギルド、という言葉からしておそらく、彼らは仲間なのだろうけど。

 それにしては……ずいぶんと、険悪そうな。

 こちらから表情が見える男達の表情は険しさに満ちて、組んだ腕はいつ振り上げられてもおかしくない雰囲気がしている。特に怒鳴る男なんて、見るからに前衛職といった出で立ちだ。

 だけど、僕がいるところから見える背中は、確固たる意志を放っている。

 途中から聞いたので、彼女が何を言われたのかわからない。

 だけどそれを、絶対に了承しないのだろうと思う。

 絶対に嫌だと言いたげな雰囲気が、見ているだけで伝わってきた。

 相手の男にもそれがわかったのだろう、と思う。


「お前は除名処分だ!」


 びしぃ、と少女に人差し指を突きつけて、大声で叫ぶ。

 他にもいろいろ叫んでいたけど、興奮しすぎていて言葉の意味が不明瞭だった。

 彼は仲間の一人になだめられ、そして集団は去っていく。

 残された少女はそれを静かに見送って、少ししてからため息を一つこぼした。

 さら、と軽く俯いた時に髪が揺れている。悲しそうであり、疲れた様子でもあり、こんな光景があちこちであるのかなと思ってしまうと、何とも苦しい物が胸に満ちる。

 その青い目がふと、僕の方を見た。

 じっと見ていたことに気づかれてしまったらしい。周囲がうろたえる人ばかりだから、その中で他者に気を向けていた僕は余計に目立っていただろうなと思いつつ。


「や、やぁ」


 とりあえず、近寄って挨拶をしてみた。

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