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お肉とっ捕まえました

 ハヤイがどんな鍋を作りたいのかわからないけど、とりあえず僕は彼と森へ猟に行くことになってしまった。ほとんど強制執行だ。有無を言うヒマもない。体力に物を言わせた強行軍。

 その道すがらに、早いの目的を幾つか聞かせてもらった。

 今日は、材料集めに終始するのだという。

 調理自体は早ければ明日、遅くなれば明後日当たりを予定しているそうだ。どうやら、鶏肉を使いたいようだから、つまりこの狩りがどれだけ早く成功するかが調理開始のカギらしい。

 早く手に入ったら今日にでも作るぜ、とハヤイ。

 ……といっても、僕は何を作るのかまだわからないわけで。


 森に入って昼食を挟んで数時間、鳥にすら行き当たらない状況が続いていた。まぁ、前回も罠設置だけで午前がほとんど潰れたし、狩りなんてこんなもんだろうとは思うけど。

 僕は少しの食事と防水性の高い袋を背負った、いわゆる荷物持ち。

 ハヤイは素人でもそれなりに扱いやすそうな、小ぶりのボウガンを持っている。たぶんレインさんにでも借りてきたんだろう。狩りをするならそれがいい、とかで。

 僕より少し前を歩く彼は、ごきげんな様子だった。


「朝さー、お前らのこと教えてくれたおじょーさまのさ、部下っぽいおっちゃんにちょこっと話きいたんだよねー。レーネで一番うめーものって、例えばどんなのだって。真っ先にあのおじょーさまがやってる農園の野菜って返答が来たのは、個人的に悪くないと思うぜ」


 いつものように歯を見せるように笑って、ハヤイは続ける。

 野菜はだいたいがあの大農園のものだからいいけど、それ以外はどうなのか。それを工房に食材を運んできたおじさん達に聞いたそうだ。その結果がこの狩猟ということらしい。

 街で売られているものを買う、という選択肢が無いのがハヤイらしいというか。

 自分で集めないと、気が済まないのだろうか。

「お前、その鳥のこと知ってる?」

「一応は。その鳥はラルーっていって、なんていうか……ダチョウ、みたいな? 空を飛ばずに地面を走る丸々しい鳥だよ。見ればすぐわかると思う。明らかに僕らの知る鳥と違うから」

「ふーん。で、それうめぇ?」

「うん、おいしいよ。程よく柔らかくて味が濃厚で……」

 さばく前はなかなか愛嬌がありつつも怖い、キモカワ系とも言える見た目をしているのだけれども、食べればとても美味しい鳥だ。思い出すだけで、少し空腹を感じてしまう。

 単純に串にさして焼き鳥もいいし、ここぞとばかりに用意されたローストチキンもいい。

 どう食べても美味しい、とてもすばらしい鳥だ。


 ……ということを、僕としては少し珍しく語ったところ。

「よーしよし、じゃあ張り切ってとって帰らねーとな」

さらにやる気を滾らせたハヤイは、僕を置いていかない程度に早足で進んでいく。そろそろ僕が知るあの鳥の生息域、もう少し静かにいかないと見つかってしまいそうだ。

あの時は確か、レインさんが先行して仕留めつつ、逃げ出すだろうポイントにガーネットが罠を設置するという、なかなか手の込んだ作戦が行われた。ここには、しかし二人はいない。

いるのは狩りができない僕と、狩りをする気があるのか怪しいハヤイだけだ。

がっさがっさ、と盛大に音を鳴らすハヤイ。

あれじゃ逃げられそうなんだけど、どうするんだろう。


 まぁ、街にも売ってはいるから大丈夫だ、万が一の時も。

 このラルー、時々は魔物のように『討伐依頼』が出される鳥類で、とにかくすぐに数が増えるある種の害鳥なのだという。そして田畑を荒らすのだとか。レーネで肉といえは、だいたいラルーの肉になる程度には庶民的に頻繁に食べられる、狩猟のメインターゲット。

 なので市場に行けば、捌きたてのラルーから、燻製にされたラルーまでよりどりみどり。

 ちなみに卵もおいしいらしい。結構大きめサイズで、二つもあれば六人、いや七人分のたまごやきは余裕だ――とブルーは言っていた。目玉焼きにするには確かに大きい黄身だった。


 ともかく、最悪の場合の備えは万全。

 今日はちゃんと財布も持ってきた、大丈夫だ。

 などと、一人でぐっと手を握っていると。

「そういやその鳥、羽毛とかどうすんの?」

 予想外の質問がハヤイの方からひょいと飛んできた。捨てるとかもったいなくね、と。

 あぁ、でも確かにそれは言えてる。以前の狩りで、運ぶ時に抱えたけど結構もふもふとして柔らかい感じだった。あれを捨ててしまうのはもったいなさそうだけど、利用はしていない。

「特に何かに使ってる感じはなかった、かな……羽毛となるとガーネットの専門になるんだろうけど。何かに使うには量が少ないから、燃やすか捨てるかしちゃうんじゃないかな」

「じゃあ、骨は?」

「それはブルーがご機嫌で出汁にすると思うよ。スープとかにしてるし」

 前に作ってくれた水餃子風の料理は、すごく美味しかった。肉は当然ラルーのひき肉。時々レインさんが魔物狩りするついでに取ってくるので、その度食べられるごちそうだ。

「……ってことは鶏ガラにもなる、と。ほぅほぅ」

 いけるな、とか、これならあれもできるな、とか、ブツブツつぶやいているハヤイ。

 彼なりにいろいろ考えているらしい、いまいち伝わってこないけど。


 ここからはもう、文字通りのサーチアンドデストロイ。見つけたら即跳びかかって何らかの方法で仕留める、というぶっ飛んだ作戦でハヤイだけが突き進んでいく。

 僕は体力の問題で、そっと隠れて成功を祈るのみ。

 名前の通りに早さがケタ違いの彼は、あの脚力にしっかりと付いて行っている。これで僕以外にもう一人、例えばレインさんやガーネットでもいれば、罠なり狙撃なり何でもできた。

 一応、ボウガンは押し付けられるように持たされはしたけど……。

 僕の目の前を、どたばたギャーギャーいいながら走る鳥と、それを静かに追いかける彼の姿を見ていたら、僕は何の役にも立たなさそうだなと改めてしみじみと思う。

 おとなしくひっこんでいよう、と思ったことが、神様か何かにはサボろうとしているようにみえてしまったのだろうか。目の前を右へ左へ行き交っていた一人と一羽が、なぜか一直線にこっちに突っ込んでくるのが見える。あれ、ちょっとおかしくないかな、この状況って。

 そっと見たハヤイの表情は、僕にこう訴える。


 ――捕まえろ、と。


 この状態だとできることは少ない、避けるか、腕を広げて立ち向かうか。だけど逃げるにしたって左右には木、それにせっかくの挟み撃ちという好機を逃すのは、少し心苦しい。

 そんな風に迷っている間にも、敵は僕の目の前へと迫っている。

 こうなったらやるしかない。

 覚悟を決めた僕は、そのまま腕を広げ巨体に抱えついて動きを抑えようとする。が、当然そのままずるずると、何メートルか引きずられてしまった。なんて強い脚力だ。

「そのままでいろよ!」

 どこからかハヤイが刃物を取り出し、こっちに来る。僕はずりずりと引きずられつつ、必死に細い首にしがみついていた。早くしてほしい、さすがにちょっと腕がきつい。

 かくして多少の被害を出しつつも、僕とハヤイは肉を手に入れた。

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