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世界を支える裏方さん

 朝の忙しさを乗り越え、昼前。

 僕は俗にいうリヤカーのようなものを自力で引きつつ、道をてくてくと進んでいた。レーリオさん達が言った通り、街はお祭り騒ぎの少し前、といった感じに騒がしい。


 この状況になり、僕はふと気づいた。

 もしかしてレーネの道、特にこの大通りがやけに広く取られているのは、もしかしてキャラバンに対処した結果なのではないか、と。当然それだけではないとは思うけど、大通りなんかは左右に露店などが出ても、更に通行が確保されるほどに広い。

 すでに幾つかテントのようなものが設置されつつあるけど、僕は特に足を止めることもなくスムーズに通行できていた。街路樹などの類も、計算されて配置されているのかもしれない。

 こういう準備風景を見ていると、レーリオさんの言う通りに僕らも何かするべきなんじゃないかって気がしてくる。せっかく工房の前が広いんだから、みたいな感じに。


 うーん、ブルーと相談かな。

 おそらく飲食系になるだろうから。


 そんなことをギルドマスターらしく考えつつ、僕が向かったのは『冒険者組合』。

 前から頼まれていたものを、今のうちに纏めて納品してしまおう、という判断がついさっき下されたからだ。ひとまず指名されて受けていた依頼用の品が揃った、というのもある。

 だけど一番の理由はキャラバンだ。

 キャラバンが来ると冒険者が増えて、おそらくてんてこ舞いになる。

 色んな意味でヒマなうちに、ということだ。

 荷物の内訳は、半分はウルリーケが作った薬関係。これが意外と評判らしく、彼女を指名しての依頼も少なくないし、直接工房まで買いに来る人も多い。次がテッカイさんが作る日用的な刃物類――カミソリとかああいうので、並んでレインさんの各種細工物。


 こうすると残り二人があまり人気がないように見えるけど、違う。

 食堂は毎日が満員御礼だし、ガーネットのところには日々女性客が詰めかける。今、彼は普段使いのドレスを仕立てるのに大忙しだ。レーネに別荘を持つ貴族令嬢からのご依頼である。

 このように、依頼向きとそうでないのと、いろいろあるわけだ。

 僕は今日もおとなしく雑用係。

 もう少し、役に立てるようになりたいと夢だけは見ている。



   ■  □  ■



 ゲームでは、画面をぽちぽちっとするだけで片付いた依頼の手続き。

 この世界だと品物を納品用の窓口まで運び、そこで受渡したという証明証をもらう。この窓口は荷馬車などで運び込む場合も考えて、組合支部の裏側に大きな出入口が用意されている。

 特にレーネは何かしらの品物、アイテムを持ってきてほしい、という依頼が大半なこともあってか、他所では見ることも少ないこんな専用の場所が設けられているのだという。


 普通サイズの――だいたい軽トラックぐらいの大きさの荷馬車、荷車が並んで三台も入るような広いスペース。今日も、たくさん荷降ろしをする荷馬車が何台もあって忙しそうだ。

 僕は持ってきたものを、これはこれ、あれはこれ、と説明しつつ渡していく。そうして品物の種類と中身、数を依頼と照らしあわせて大丈夫なら証明証をいただけるという流れだ。


 そうして証明証を手に、今度は表側から入って右手の受付へ。

 木目を彩りに使った木造建築。壁には冒険者に関する各種資料と、それから地図。レーネ近郊の小さい集落やダンジョンなどが、細かく記されていた。そこに書き添えられた各ダンジョンの難易度は、ゲームではなくなった今となってはあまり意味が無いかもしれない。

 今も神殿に還ってくる冒険者は日に十数人はいるというし、その多くが俗にいう『適正レベルを無視』したがゆえのアレなわけで。……あぁ、嫌なことを思い出してしまった。


 話を戻そう、戻してしまおう。

 受付は三つあって、ひとつは冒険者自身に関する手続きをするためのもの。これが中央で左側にあるのが依頼の受領用の受付だ。三人ほどの職員が常駐していて、今も人が大勢いる。

 その受付の側には今出ている依頼の一覧が貼りだされ、見慣れない冒険者がそれを熱心に見ている後ろ姿があった。格好からして前衛二人後衛三人の、バランスの良い五人組。


 そして僕が向かったのが、報酬受取り用の受付。

 もらった証明証を渡し、依頼内容を確認してからお金をいただく。

 今回は量も多く、それなりの額のお金が手に入った。これを使って露店でも出そうかな、などと考える。賑わっている街を見ていると、やっぱり参加してみたくなるから仕方ない。

 さすがに荷物を引っ張ってきて疲れたから、少し休憩していこう。

 壁際にある背もたれのあるソファーに腰掛け、僕はふと考える。


 僕ら『冒険者』についての情報は、どうやって管理されているんだろう。

 今も新しい『冒険者』は生み出されているのか。それともあれは、プレイヤーだけの特権だったのか。だから今いる冒険者とは元プレイヤーのことで、増えていないのか違うのか。


 もし僕らだけの特権でないなら、数百人は増えていそうだなと思う。

 危険はあるけど、何だかんだで旨味の多い生業だからだ。

 もっとも、この冒険者組合がなければ、何の立場も得られないようなものではあるけど。

 この世界においての冒険者は、だいたい『何でも屋』と『傭兵』を兼ねた、一言にすると雑用係のような立場にある。依頼を請け負って、何でもするような存在だ。

 当然、その『何でも』というものには限度がある。

 とはいえこんなことにになった今は、そんなものはきっと建前でしかないのだろう。僕の知らないところでは、非合法な手段をとっているような人もいるのだろうと思う。


 以前は、依頼ぐらいしか張り出されなかった掲示板。

 そこに『指名手配』なんていう、物騒なワードが追加されたのはいつだっただろう。名前からしてそれは明らかに冒険者――かつてのプレイヤーで、数は増えたり減ったりと忙しい。

 同じ名前が出たり消えたりを何度も見たし、なんというか、大変な生活を送っている人も少なくはないようだ。やり過ぎると普通に首を飛ばされそうだけど、大丈夫なんだろうか。


 まぁ、心配したところで仕方がない。

 それが友人知人であるなら気にもなるのだが、そうでもないからどうしようもない。



 僕らは僕らなりに、生きていくしかないのだから。

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