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深緑に舞う怪鳥・ラルー

 深緑に舞う怪鳥・ラルーとは、その森に住む大きな鳥の名前である。鳥と言われつつ飛ぶことをしない、けたたましい声で鳴く、若干やかましく――丸々して大変美味な食用鳥だ。

 成鳥であるとかなりの大きさになるので、狩りの狙いとするのにちょうどいい。

 足が速いので、それなりの難易度があるのもよいことだ。


 そんなラルーを、一人の女が狙っている。

 金色の髪を三つ編みにした、すらりとした身体つきの若い女だ。少し大ぶりのボウガンを構えたまま、彼女は茂みに身を潜めていた。呼吸は小さく、静かに深く繰り返している。

 彼女が狙っている先には、三羽のラルーがいた。

 ひときわ大きいオスと、小さいメス。所謂ハーレムである。彼らは水辺で喉を潤すために偶然集まっていた。基本的にラルーは番や家族で行動し、群れは形成しないのだ。


 偶然居合わせたその三羽を、女は静かに狙う。

 油断しきった、安心に満たされた時間。

 構えられたボウガンの矢が、ラルーの胸元をめがけて放たれた。

 それによりメスの片方が地面へ崩れ落ち、残りは逃げ出そうとする。だが間髪入れずに放たれた矢はオスの足、その付け根に突き刺さった。自慢の脚力も、これでは発揮できない。

 仲間を見捨てるように走り去る最後の一羽。

 だがその巨体が、舞い上がるように空へと飛んだ。

 足を空に上げるように、跳ね上がった。


「よっと」


 がさがさがさ、と枝がきしむように揺れる。茂みから飛び出してきたのは茶髪の少年だ。その手には太いロープが握られている。その先は上へと伸びていて、辿った先には宙吊りの鳥。

「そう簡単に逃すわけ、ないじゃないですかー」

 やだなぁ、と少年は笑い、手を離す。

 宙吊りになったラルーは地面に落ちたが、動けなかった。足を戒められ、立ち上がることさえもできないのだ。ざく、と草を踏んでゆっくりと近寄ってくる、それは金髪の女だ。

 女は獲物の傍らまでくると、膝をつき。


「恵みと満たしに感謝を――」


 狩人が口ずさむ祈りの言葉。

 直後、どすん、と音がしてすべてが終わった。



   ■  □  ■



 森の中に、赤が撒き散らされている。

 少し目に痛いし、匂いも結構すごい感じだ。

 こういう光景を見ることに慣れてきたのはいいのか、悪いのか。だけど僕が口にしていたものはこうやって処理され、綺麗になったものなのだと思えば知るべきなのかもしれない。


「ほれほれ、遠い目をしてないで早く羽をむしりとるのだ」


 感慨深く物思いに耽る間もなく、僕の前に哀れな鳥が置かれる。

 レインさんとガーネットにより仕留められた鳥は、これから綺麗に捌かれて保存食として確保される。数匹は切り分けてこれから食べる予定だった。バーベキュー、というわけだ。

 みゅうみゅう、と僕らの周囲ではブルーが呼んだ――もとい連れてきた精霊数匹が、楽しそうに合唱中。この森は魔物が出るけど、精霊は接近を察知してくれるという。

 楽しい歌が消えたら危ない、ということらしい。


 幸い、今のところはかわいらしい声は絶え間なく響いている。

 その声の合間に入り込むのは、じゅうじゅう、という美味しそうな音だ。少し離れたところに即席のコンロが作られ、鉄の串に刺さった鶏肉がこんがりといい感じに焼けている。

 一応、ここには鶏肉確保に来たはずなのだけど、バーベキューがメインじゃないかっていう気がしないでもない。野菜などをしっかりと持参した辺り、どうしてもそんな気が……。


「何を言うか、野菜を取るのは大事なのだ」

「いや、まぁそうだけど」

「バーベキューには野菜が必須なのだ。ちゃんとおにぎりも持ってきたのだ」


 鳥を手早く解体しながら、ブルーがふふんと笑っている。この森に来るなり、誰よりテンションが上ったのは当然彼女だった。それこそ『狩人』がサブで付いているというレインさんはともかくとして、畑違いのガーネットにまで狩猟を任せるほどに。

 しかし、どうしてレインさんはサブに『狩人』をつけていたんだろうか。

 共通で弓などのスキルがあって、相性がいいとされているからなのか。比較的、後衛に立つことが多い『吟遊詩人』は、何らかの後衛職をサブにつけることが多いという話も聞いたし。


 まぁ、お陰で今回は助かったと思う。

 ガーネットが仕掛けた罠だって、彼女との協力で成功したものだ。

 うまい具合に追い込んで、一気に仕掛ける、という感じに。

 そんな功労者であるレインさんは、静かに鶏肉を串に刺しているところ。となりではわくわくした様子の姉弟、そして火の番をしているテッカイさん。さすが『鍛冶師』って感じだ。

 金属と肉ではだいぶ違うようだけど、火の扱いがとてもうまい……らしい。

 ブルーが褒め称えていたから、たぶんすごいことなんだろうと思う。


「山菜なんかも見つかったし、よかったね」

「うむ。木の実はパイにでも使おうかと思うのだ。数がないから、せいぜい私達のおやつにしかならないのだが、まぁ、それはそれで別に構わないのだ。それよりお肉……」

 うっとりした様子で鳥を捌くブルーは、少し怖い感じがする。

 僕はそっと目をそらし、残りの作業を片付けた。その頃にはお肉も焼けて、再びカーペットを広げた上での昼食となる。少し焦げた感じの皮がぱりぱりで、すごく美味しかった。

 塩と胡椒しか振っていないのに、こんなに美味しくなるなんて。


 学校の同級生の中では少食の部類に入っていた僕だけど、つい食べ過ぎそうになる。恐ろしいことだ。だけど美味しいから困る。美味しいのがよくないんだ。甘みを感じる肉汁が一口噛むだけで溢れてきて、おにぎりが進む進む。野菜も火が通って甘くて格別だ。

 個人的には醤油がほしいところだけど、さすがに瓶ごとは無理だから残念なことだ。

 お弁当とかについてる、あれがあったら便利なんだろうな……。


「ふー、食った食った、だけど食い足んねぇなぁ」


 十本目の串を皿の上に乗せ、テッカイさんが笑う。この人、一人で半分以上平らげているんだけど大丈夫なんだろうか。お腹とか、胃とか。大食いなのはもう思い知っているけど。

 横に座っているウルリーケが、いそいそと薬を渡しているから、たぶん何事もないのだろうとは思う。彼女の薬はとにかくよく効くから。あえて欠点を上げるなら、そうだな。

 良薬の法則が発揮された、その味だけは……さすがに、時々つらいかな。

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