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出発準備は念入りに

 工房の地下にある倉庫には、いろいろとおいてある。

 主に各種保存食。漬物やら何やら。木製の棚には酒瓶や調味料、チーズなど。

 階段のそばに吊るしてあるのは肉の塊だ。鳥や牛、豚。それとよくわからない獣と思われる肉、ついでに魚がいろいろ。煮干しのようなものから、干物のようになったものまで。

 この倉庫は、だいたい食料庫でもある。

 僕はブルーに連れられて、そこで在庫チェックを手伝っていた。


「それで、干し肉が足りないわけか」

「うむ。細々としたものに使っていたから、消費は早かろうと思っていたのだが……」


 想像以上なのだ、と腕を組んだブルーはつぶやき。

「また狩りに行くしかないのだ……あぁ、面倒くさい」

「買って済ませたりはしないんだ」

「それでもいいのだが、店で使う大きなものはあまり売られていないのだ。一般家庭向けに作られることが多くて、大きくても子猫くらいの……一回で使い切る大きさばかりなのだ」

「あぁ、なるほど」

 それじゃ確かに足らないな。


 干し肉などは細かくして食べることもあれば、スープとかの具材にもする。何にでも使えてしまうので、結構な早さで消費される。小さいものを買ったところで、焼け石に水だ。

 どうやら久しぶりに、工房を離れる時が来たらしい。



   ■  □  ■



 ギルド『暇人工房』の緊急会議が始まった。

 といっても、昼食ついでにあーでもないこーでもない言い合うだけなのだけど。

「あたしまで参加して、いいのかな」

「そんな真面目な話し合いでもないから、問題ないのだ」

 偶然にも立ち寄っていたエリエナさんも巻き込んでの議題、それはダンジョン探索だ。

 数日ほど工房を休みにして、その間に三つ四つのダンジョンに出かけてみよう、というのが主な内容になる。保存が効くような獣肉などを手に入れる、というのが最大の目標だ。


 この世界、動物と魔物に違いはない。

 襲ってくるのが魔物、襲ってこないのが動物。

 それくらいの区別なのだという。


 まぁ、要するにエリエナさんにいい狩場がないか訪ねているわけだ。一応食堂にも関係が有ることなので、当てずっぽうに出かけるわけにはいかない。最大の成果を挙げなければ。

 そうですねぇ、とエリエナさんは腕を組み。

「四つぐらい、ちょうど良さそうな狩場があるにはあります」

 簡略化されたレーネ近郊を書いた地図を広げつつ、説明が始まる。

 中央にある丸いものはレーネ、その周囲をぐるりと囲んだ白い城壁だ。

 実際は少し歪になっていて、ここまできれいな円形はしていないらしいけど。

 レーネから少し離れたところにある四角い記号、これはエリエナさんが切り盛りする『大農園』の敷地。その間、二重線がそれなりにうねり丸と四角をつないでいる。これが街道だ。


「まず、この山です」


 大農園とレーネを繋ぐ街道から、分岐した道。

 そこから更に分岐する細い道の先の山を、エリエナさんは指さしている。徒歩でも日帰りが可能なこの山は、獣以外にも果物や山菜などの実りが多い場所だそうだ。魔物がいるので普通の人は入らないけれど、よく『冒険者組合』にここを指定した採集依頼がでているのだとか。

 次にエリエナさんが示したのは森の中。

 レーネ郊外の、見るからに遠くない場所だ。


「ここは魔物らしい魔物はいないので、さっきの山の代わりに人が通う場所です。で、絶好の狩場になっているのは森の奥。少し魔物が出るから、あんまり人がいかない場所ですね」


 ここが手前で、と地図をくるくるとなぞり。

「奥がこの辺です。古い街道の通り道だったので一応道は通ってるんですけど、奥に入ると道がだいぶ荒れた感じになっているので、たぶん行けばすぐに奥と前がわかると思いますよ」

「道の具合で場所を探れ、か……だったらいっそ立て札でも作ればいいと思うが」

「そういう話もあったんですけど、どうせ地元の人しか使わないので」

 お役所仕事ってこれだから、とレインに苦笑してみせるエリエナさん。

 なるほど、地元の人間ならわかっているだろう、で放ったらかしになっているわけか。道だけは直さないとややこしいから、それだけは一応ちゃんと整えている、と。

 異世界でも、やっぱりお役所って面倒くさいものなんだな。

 正直、看板を建てる方が楽に思うのだけど。


「魚はやっぱり川ですかねー。海はずっと遠いし」

 ガーネットがパンをちぎりながら言う。

 海は、レーネから見るとかなり遠いところにあった。ここからだと――片道一週間以上は掛かるかもしれない。帝国は広く、移動するだけでかなり手間がかかるから。

 川そのものはすぐ近くにあるから、魚が手にはいらないということはないのだけれど。

「魚かぁ……だったら湖とかどうでしょう。ここにあるんですけど」

 エリエナさんが指差すのは、レーネを挟んで、ちょうど先ほどの森とは反対側。森の中にぽっかりと少しいびつな円が描かれている。見たところ、結構大きい感じだ。

 川がつながっているところからして、湖とはまた違ったものなのかもしれない。

 近くに集落を示すらしい記号があるから、それなりに釣果があるのだろう。


「まぁ、釣りに関することは現地の『親子』に訊けばいいかと」


 親子とは、件の集落に住んでいる漁師の父と子のことだ。

 食堂に魚を卸してくれていて、テッカイさんと同じ豪快系のレーリオさんと、少しばかり怖がりらしいのだが仕掛け作りなら誰にも負けない、という息子のナル。

 ナルは僕やブルーと同い年ぐらいだ。

 そして、エリエナさんとは幼なじみになるらしい。

 確かに釣りに関することなら、この二人に訊けばなんの問題もなさそうだ。


 どこから回るか考え、ひとまず教えてもらった順番に回ることにする。つまり山に行き、森に行ってから湖で釣りをする。旅の日数は、二週間ほどあれば充分かなと思う。

 準備に数日かけ、僕らは冒険者らしく『冒険』に旅だった。

 いつもは三人か四人で出かけて、残りを留守番として残すのだけど、今回は全員で。


「おにぎりと漬物、ゆでたまごに……ふふふ、腕がなるのだ」


 ごきげんな様子でお弁当を作っているブルーの姿を見ていると、思う。

 これ、ただのピクニックなんじゃないのかって。

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