大手ギルド揃い踏み
僕らはあれから『シロネコ運送』の客室に一泊しつつ、テッカイさんたちに今後についての話をした。このクエストに参加するかしないか、というのが議題になったわけだけども、すぐには決められないから一晩考えてみるということになって、これという結論は出ていない。
まさかこんなことになるとは思わなかったので、どう動けばいいかわからない。
シロネコ運送、そしてユーフォリアさんは参加する方向で話を詰めているという。ユーフォリアさんに至っては、殺られる前に殺ろうを実践するつもりらしく、いろいろ装備やら荷物やらを取りに行くといったきり、結局僕らが起きている間に戻ってこなかったようだった。
朝、リビングでトキさん宴さん他数名とコーヒーを飲んでいたので、夜遅くになって戻ってきたのかもしれない。一応そういう飲み物を用意するスペースはあるけど、大勢を満たせるほどの食材も調理スペースもないとのことで、僕らはそのまま食料調達に出たわけだけど。
「うわぁ、ここから見えている範囲でもランキング上位のギルドがごろっごろしてやがる」
とは、早朝にもかかわらず人が多い通りを見たハヤイが漏らした言葉だ。
有名かどうかはわからないけれど、相当レベルの高そうな冒険者が、あんなにも団体で組合の建物がある方向へ向かっていく光景というのは、なかなかお目にかかれるものではない。
少し前もレーネでドラゴン、いやトカゲ騒動があったけど、あれとは規模が違う。
あの時もすごい人が集まったように思ったけど、まだまだ少なかったようだ。
「そんなに有名なところが多い?」
「上位陣はだいたい集まってるんじゃねーのかな。例えばそこの女連れのにいちゃんは、騎士団と同程度の人数が揃ってて、ランキングも同じくらいだったギルドにいたはずだし」
「知ってるんだ」
「うん。だってトキにぃのダチだもん。っていうかにぃを引きずり込んだ元凶」
「あぁ……リアルでの知り合い」
「そーそー。中学からの付き合いで、おとなになってからは飲み会しょっちゅうしてた」
それってよくいう『幼馴染』ってヤツなんじゃないかなぁ、と思ったけど、どこからの付き合いから幼馴染なのかわからないから言わないでおく。でも大人になっても一緒に飲み食いするのなら、もはやそういうカテゴリを超えた友人関係なんだろう。
当然ハヤイとも知り合いではあるし、顔を見ればすぐにわかってくれるとのことだが、互いに連れがいるのと、道の向こうの方に見えただけなので声をかける気はないらしい。
何かあれば自分ではなく兄が連絡を入れるだろう、とのことだ。
「まぁそれよりメシだろ。早いとこ探さねーと」
「そうだね、屋台がいくら出まくってるっていっても、材料には限りがあるわけだし」
冒険者による大量消費の気配を感じ取ったのか、あちこちの飲食店がテイクアウトにちょうどいい軽食の屋台を並べている。いそいそと開店準備に勤しんでいるところもあれば、すでに列をなしているところもあり、その人数は次第に増えていくのは僕でなくともわかるだろう。
留守番をしてレーネのみんなと連絡と相談を続けているブルーのぶんも買わなければいけないし、飲食以外にもアイテム類を並べている屋台もあるからそっちも見たいし。
だから、僕らの任務は若干慌ただしく、それなりに重要な感じだ。
今回の一件に参加するにしろ、しないにしろ、それぞれに準備が必要なのだから。
例えば参加するならそれ相応にアイテムを準備して、何があっても対応できるようにしておかないと危ない。というか、足手まといになる可能性がある、それだけは避けておきたい。
我関せずでレーネに帰るとしても、多少の準備は必要だろう。
……いや、この状況で我関せずというのは、流石に心苦しいものがある。
後方支援くらいはできるのではないだろうか。
その程度の力は備わっているのではないか。
無謀なのか、勇気なのか、正義感なのかわからない感情が、ぐるぐるしていた。
「むずかしーこと考えなさんな、お前にゃーにあわねーし」
へらり、と笑うハヤイに背中を叩かれる。
「たぶん新月騎士団とかみたいな、大規模な部隊編成できるとこが中心だしよ、オレらが出ても残党処理とかそんなもんだ。一応、そういうポジでも報酬出るみてーだし、参加もアリなんじゃね? いざとなればオレだけにぃたちのとこで前線に出て、二人は後ろってのもいける」
「そういうのもアリ、か……」
うぅん、やっぱり踏んだ場数の違いなのか、僕よりハヤイの方がいろいろ広く考えられている気がする。いや、これはもうリアル経験の差なのかもしれない……。
だけどそういう形で、僕ら三人だけでも関われるなら。
そして、些細な参加でもそれなりの報酬がもらえるのなら、三人だけでも参加するというのは確かにアリかもしれない。どの程度もらえるのかはさておき、帰り賃くらいにはなりそう。
一応ユーフォリアさんから報酬はもらっているし、無理して稼ぎに行かなきゃいけないほど逼迫してもいないけど、それでも参加を迷うのはやっぱり正義感的なもののせいだろうか。
向こうは悪者で、それを退治しなきゃいけなくて。
僕らも、たぶん彼らの被害を受けている。
……僕ら、というかブルーが、だけど。
「仮に不参加なら、早めに出た方がいいかもだぜ」
ふいに、ハヤイが低い声でつぶやく。
その視線の先には、明らかに異なるギルドに所属している風貌の団体二つが、睨み合うような距離を開けて並び立っている異様な光景が広がっていた。
ほんの些細な刺激で、すぐさま武器を手に乱闘が始まりそうなヤバい感じがする。
「多くのギルドが集まるっていうのは、気に入らない連中と出逢う可能性もグっと高くなるってことだからな。あれは睨み合ってるだけですんでるけど……」
「それでは済まない場合もある、よね」
そして、僕らがそれに巻き込まれない保証なんてないのだ。
決断は早めにしないと、行けないのかもしれない。