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第三勢力の暴動

 近くを通っていた荷馬車移動の別働隊の人と合流し、捕まえた人たちを連れて数時間ぶりに戻ったストラは、まるでお祭り騒ぎのような人混みと賑わい状態だった。

 ダンジョン帰りらしい風貌の人から、今日は休養日にしていたのか軽装の人。そして冒険者の大集合に何事だという目をしている普通の人。ともかくたくさん、たくさんの人がいた。


「ハヤイ!」


 入り口近くで、前にも進めない人の多さに唖然としていた僕ら三人のところに、街の方から慌てた様子で走ってくるのはアイシャさんだ。その後ろにはトキさんと宴さんも見える。

 三人は僕らより後に出発しただけあって先に戻っていたらしく、出発前に身につけていた武具の類は外しているようだった。着替えまではしていないのか、かすかに土で汚れている。

 聞けばストラを出てすぐのところで襲撃されたそうで、周囲にいた冒険者も巻き込んでの大捕り物になったらしい。どうやらユーフォリアさんは上二人と知己の関係というのもあって三人と一緒に行動していたようで、戦場にはとても荘厳で美しい歌声が響き渡ったのだとか。

 なお歌詞の内容は、基本的に敵への殺意に満ち溢れた罵詈雑言を美しく、神々しく、柔らかめに言い換えただけだったらしい。それはそれで、ちょっと聞いてみたかったかもしれない。

 そして一端ストラに戻って来たら、例のアレだった……とのことだ。


「さっきのあれ、何だったんでしょう」

「そこら辺も説明してくださるそうですよ、件の『宰相』様が」


 ほら、とアイシャさんが指差す方向に、見慣れないものがある。いや、似たようなものを見たことはあるのだけど、それは元の世界の――もっというと、学校の校庭でのことだ。

 運動会などで先生が立っているあの台。

 それと似た形状の、それよりずっと高い位置にあるその上に、人影がある。


『あー、冒険者の諸君。早速集まっていただいて、行動が早く大変喜ばしいことである。先ほどのメッセージ、魔法を使った簡易の全体チャットのようなものであるが、そこでも名乗ったがもう一度名を告げておこう。私はこの帝国で宰相を仰せつかっているアオイ、元冒険者だ』


 ここからは『人』であることしかわからないそれは、大きく声を発する。

 これもまた、彼の言う『全体チャット』の一種なのか、彼の声は四方八方から反響するように聞こえてきて、位置に関係なく音が届いている様は映画館にいるような感覚になる。

 それにしても魔法って、こういう使い方もできるのか。


『先ほども話した通り、冒険者の中には悪事を働く輩が存在する。帝国、そして皇帝はそれを見逃すことはできないという判断にいたり、大規模な掃討作戦を立ち上げた次第だ。ただし参加はギルド単位のみ。ソロは後方支援に入っていただくことになる。理由としては単純に、全体チャットが本当に『全体』を対象にしているため、複数の個人をまとめるツールとしての運用ができないことだ。それならば、ギルド単位で動いてもらった方がよいのだよ』

「じゃあ、アレは敵側にも聞こえてたと……」


 横でぶつぶつ呟くブルー。

 僕らはだいたい敵を制圧していたからわからなかったけど、やっぱりあれは本当に『全冒険者』を対象にしたものなんだなということがわかった。

 あれ、でも冒険者は冒険者組合に登録しているから冒険者なんじゃないだろうか。

 それともこの世界に来てしまったゲームのプレイヤーが、そのまま冒険者というカテゴリに入っているのだろうか。そう、例えるなら冒険者という種族、みたいな。

 組合から抜けて閉まっている人も少なくない以上、後者の方が敵にも聞こえてしまう理由に説明がつくような気がするけれど、そもそもどういう仕組みかわからないからわからないな。

 わからないことが、やっぱり多い。

 直接訪ねにいけないことが歯がゆいと思う。


『通知通り作戦決行は三日後。古城の見張りはこちらで任せてもらおう。どのみち、向こうも迎え撃つ様子、というよりこれは一種の暴動なのかもしれないな。なおさら見逃せないが。ともかくこのクエストを受領するものは、これより組合の受付へ行きたまえ! 本クエストの詳しいところは、組合を通じ追って連絡を入れていこう。それでは、解散!』


 くる、と布を翻して人影は背を向け、台を降りていく。

 周囲は未だに慌ただしいが、何人かは組合の建物がある方へ向かっていった。

 それにしても、こんな参加人数が相当な数になるだろうクエストなのに、肝心の敵の数がそう多くなさそうなんだけど……大丈夫なんだろうか。


 妙な胸騒ぎというか、違和感のようなものがどうしても消えなかった。



   ■  □  ■



「うーん、少しやり過ぎてしまったかもしれないな」

『どうだろう。君らしい言い方だったと思うよ』

「まぁ、そうだな。私はそういう役どころなのだから、少し暗い大仰に喚くくらいでちょうどよいのかもしれない。……それより、そちらはどういう塩梅かね、エクス」

『報酬のことかい? 準備は上々だよ。彼らがそれを魅力的だと思うかはわからないが、この世界で生きていくという観点では、破格の報酬ではあると思う』

「あぁ……限定的な、ギルド単位の爵位か」

『男爵よりも下ではあるが、少なくとも一般人ではなくなる。この世界で生きていくなら使いがいのある報酬ではあるだろう。多少の金銭など、どうせすぐに消えてしまうものだしね』

「かといって便利アイテムがあるわけでもない、となれば残るは地位しかないか」

『そういうことさ』


「しかし、議会をよく説得できたものだな」

『良くも悪くも冒険者が回す経済がこの国の要であることは、あのじじぃ共も理解しているということさ。有名ギルドと裏で懇意にしているものも、少なからずいるようだしね』

「おぉコワイコワイ。若き皇帝の情報網は恐ろしいな」

『君程ではないさ、アオイ。――君のその『言葉』で、この世界を動かしておくれ』

「我が王の命ずるままに」

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