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それくらいでは死亡判定でません

 この世界の魔物の中には、攻撃力は低いのに『相手を拘束する技術』に関しては誰にも負けないという一点特化したものが少なくない。それを知ったうえでは、ドラゴン系などの種族が持っている攻撃力や防御力の高さも、ある意味では『一点特化』であるといえるだろう。

 この国において、魔物とは比較的身近に存在する脅威という感じだ。

 僕らの感覚だと山を歩くときに注意を促されるクマのようなもの、だろうか。

 よって、その生態の研究も、それなりにはされている。

 例えばその魔物が、特定の条件に置かれるとどういう行動をするのか。その体組織にはどういう性質があり、そこにはヒトにとってどんなメリットとデメリットが存在しているのか。

 基本的に冒険者にしか使われないし、それでも穴の多い資料ではある。

 でも、僕からすると資料という名の『書物』であるのなら、間違いでもいいわけだ。

 召喚術師であるがゆえに比較的恵まれた魔力が、それをカタチにするのだから。


『四肢に絡みつく植物は、蛇のようにうごめいて動きを食い漁る。

 音もなく忍び寄り、狙いを定める。

 確実に捕らえることを目的とした動きは、ばねのようにしなやかで――早い』


 しゅる、ずる、がさ、と蠢き草を踏み越えて身を起こす蔓草。けれど僕が狙った男は、ハヤイの攻撃を防ぐことに気を取られて、足元がすっかりお留守になっている。

 そうでなくても、ブルーが際限なく呼び寄せているもふもふ精霊のおかげで、蔓草は埋もれるし音も掻き消えているしで、もしかするとハヤイすら気づいていないかもしれない。

 まぁ、これだけ『みゅうみゅう』と鳴かれたら、ね。

 ならば僕はそれを、最大限に利用するだけだ。

 相手に直接ダメージを発生させるたぐいではないから、そう。


『動けば動くほどにまとわりつき、しがみつくそれを振り払うことは容易ではない』


 囁くような声音で充分。

 相手に僕はどう見えているのだろうか。

 本を開き、それに目を落としながらぶつぶつと何かをつぶやく姿は。でも間違いなく言えるのは僕の行為を正確に理解して、それ相応の対処を行える人は多分敵側にはいない。


『地中より生えた蔓草には気をつけるといい。

 その中には時折――悪夢が潜んでいるのだから』


 敵を捕食するために、植物に擬態した魔物がいる。

 僕はそれに関して書かれた部分の、一部を読み上げている。

 それは読み上げたとおり、音もなく獲物を見定め一瞬で絡みついてくる。草の蛇、と呼ばれて恐れられている魔物の一種で、ゲーム時代は地中にはおらず、触手をうねらせる玉ねぎのようなビジュアルだったと聞いている。けれどそれは『ゲームだから』見えていただけだ。

 この『世界』では、彼らはしっかりと土の中にいる。

 だから森を歩く時は気をつけなきゃ行けないし、有名なダンジョンには魔物避けを施した道が整備されている。避けている魔物は、当然そういう地中に潜む類の連中だ。

 地上を歩くヤツとかは、まだ『見つけることが容易』だから。

 僕が呼び出すそれは本物の魔物ではないけど、本物をなぞらえて模しているので、同じように土の中に埋もれている。そこから触手、蔓草を外へのばし、獲物を狙うのだ。


「な……っ」


 ハヤイが応戦していたうちの一人が、それに足を取られてバランスを崩す。

 剣が手から離れて落ちる音と、むわりとした土の匂いがした。ハヤイが軽やかに後方へ飛んで回避した直後、まるで引きずり込むかのように無数の蔓草が地中から飛び出してくる。

 そして獲物をぎちぎちに締めあげたまま、現象は終了した。

 うん、流石に殺したりとかはしない、つもりだ。

 捕まえるのも仕事の一つだし、現状冒険者は『死なない』わけだし。これで死者がどこに戻されたのか、とかがわかるというなら話は別だけども、そういうのはわからない仕様だし。

 だったら捕まえて、話を聞くなりした方がいいだろう。

 まぁ、話を聞くのはこの国の司法関係者だけど。


「他のところにも襲撃が始まったらしいのだ」


 一仕事を終えた僕の横で、ふいにブルーがそんなことを言う。

 どうやら時間を合わせて同時に襲撃をかけてきたらしい。こっちが撹乱を狙ったならば、向こうは孤立を狙ったのだろうか。人数的には、僕らの側も決して多いわけではないし。

 それから彼女は大きく生きを吸い込んで、見慣れない綺麗な杖をどこからか取り出すと。


「さん、にぃ、いち――」


 と、カウントダウンを初めて。

 それに合わせて精霊さんたちが一斉に鳴きやんで。


「上位精霊ドリス、来たれや!」


 溶けるように一瞬で姿をけした、かと思えば、代わりに大輪の花が出現した。それはユリのような形状をした花で、僕らより何倍も大きい花だった。背丈もそうだけど、花弁の部分がまず大きい。三人くらいなら余裕であの中に隠れることができそうな、そんな感じだ。

 その花の茎に手を添えたブルーが、ん、ん、と咳き込むようなしぐさをした。

 そして、その口元に嫌な感じの笑みが浮かんでいく。

 どう『嫌な感じ』かというと、あれは良からぬことを思いついた感じだ。ゲス顔とかいうたぐいではないと思うけど、似たような『嫌な感じ』を受け取ってしまう感じの笑み。

 にぃ、と笑うブルーは敵に対して叫ぶ。


「流石にあのユーフォリア程ではないが――これでも『歌姫』ではあるからな、そんなに歌がほしいなら私が存分に聞かせてやろうなのだ。鼓膜が木っ端微塵になるくらいの爆音でな!」


 え。

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