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「ほんと華ちゃんはいい子ねー、誰かさんとは大違いだわ!」
「ほーんと!誰かと違って素直だし、可愛げあるし〜!」
「それが姑に対する態度かねぇ」
「いつもは呼びかけても返事なんてないのに……。こんな時だけ都合がいいお耳をお持ちなんですね、お義母さん?」
……火花爆裂である。いや、うん、仲悪いのはわかってたよ?わかってたけど……悪化してない?
二人に挟まれるような位置に座る私は、先程から苦笑いしか浮かべることができない。涼やかに佇み、お団子を頬張る久遠さんが怨めしい。我感せず、と顔に大きく書いてある通り、彼は何も発しずそこに座り、黙々と皿上と口の間を行き来している。
「あそうだ、二人とも夕飯食べて行きなさいね」
「え、やそんな悪いし……」
「……」
「私が作るんだから大丈夫よ!ね、食べてってちょうだい!」
「えっと……」
ちらり、となにも発しない彼を見やる。流石に団子を持つ手は止まっているが、無表情で無言を貫いている。正直私はとっとと帰りたい。おばちゃんのご飯は食べたいけど、この険悪なムードに数時間も耐えれる自信がないのだ。本当に、昔はここまで悪くなかったんだけどなあ……。
「…えーと、今回は遠慮し「頂いて帰ろう」
「!?」
私の申し出を遮り、淡々と告げた彼。えええ、ちょっと待ってよと彼を見れば「別に構わないだろう…?」と言われてしまった。この空気に耐えろ、と?
「そうじゃないとねぇ!腕によりをかけるから楽しみにしてなさい」
おばちゃんにそう言われてしまえば、「…は、はい」と返事するしかない。おばちゃんは頑固だし、一度決まったことは早々覆ることがないのはわかってる。嫌というほどに。
「…そうと決まれば未希子さん、買い出しお願い」
「………わかりました」
渋々と言った様子で了承する未希子さん。…未希子さんもこんな、おばちゃんに対して嫌悪感丸出しではなかったのに……。そりゃ嫁姑だし以前から衝突もあったけど、ここまでギスギスした雰囲気ではなかった。やっぱり同居となると、多少なりとも変わってしまうものなのだろうか……?
買い出しへと向う未希子さんの背中を追っていれば、眼前から「…田中さんの、ご飯も…うまい」なんて呑気な言葉が聞こえた。避難めいた目で見上げれば「…茶碗蒸し、がおすす…め」と返ってきた。違う、そんなことが聞きたかった訳じゃない。
「あの、おばちゃん……?」
夕飯まで、まだたっぷりと時間はある。この辺は久しぶりだし、気分転換に少し散策しよう――そう思いおばちゃんに断りを入れようと声をかけてみるも、おばちゃんは黙ったまま未希子さんが出てったドアを見つめるだけ。
「…久遠君、申し訳ないけど近々あの家へ戻るわね」
「おばちゃん、」
「一緒に生活してみたけど……だめね。どんどん仲悪くなっちゃったわ」
「……未希子さんのこと、嫌い………?」
「あの子が私を嫌ってるのよ」
かぶりを振るおばちゃん。力無く笑うおばちゃんは、とても小さく見えた。
「まあ、私もあの子のきっちりとしてる所は肩凝るんどけど!勝手に私の机の上も片付けちゃうし」
「…未希子さん、綺麗好きだもんね」
「だからって勝手にしなくてもいいでしょー?そのせいで、なくなったものもいくつかあるし……」
ほんとやんなっちゃう!と続けたおばちゃんには、さっきの気弱さなんてどこにも見当らなかった。
「……久遠さん、そろそろ食べるの止めたらどうですか」
「……桜餅」
「は?」
「ああ!よく覚えてたわね!そうそうあの時話したお店ここからならすぐよ」
「え、なんの話……?」
なんでも、家のことで何度かあった際、おばちゃんはとある桜餅の話をしたそうだ。とても美味しいその桜餅は、この家の近くにある老舗屋さんのものらしい。それをお団子を食べたことで思い出した久遠さんは、つい口に出てしまったらしい。
「まだ食べる気ですか……」
「まだまだ入るぞ」
なんでこの人はこんなにも、食への欲求が忠実なんだろうか。