表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近所に棲む変わった人の話。  作者: 椎名
変わった人と田中のおばちゃん
5/17

5

ひょい、ぱく

ひょい、ぱく

ひょい、ぱく


……食卓一杯に並べられた料理は、次々と彼の中へと収まっていく。細身の癖によく入るな。私なんか年々食べた分だけ身についてるぞ……。乙女は食べることにも気を使わないといけない、とは私の名言である。大学の友達にも賛同を貰えたので間違いない。


「気持ちいいくらいよく食べるねぇ」

「ほんとにね……。見てるだけでお腹いっぱいだわ」


本当に?という目を向けないでほしい。私は別に大食らいじゃないよおばあちゃん……。痛い視線から逃れていれば、手を合わせる彼が目に入る。やっと胃袋が満たされたらしい。


「葉子さんの料理は、やはりう、うまいな」

「ふふ、ありがとう」


…なんだか空気がほわほわする。険悪なムードよりはそりゃ断然いいんだけど、なんか、なんか……。


「久遠さんは、よく食べるんですねー」

「……」


縦に振られる頭。……この差である。私が話かければ視線は下、眉間に皺。泣いていいかな。なんて思っていると、おばあちゃんに手を握られた。え、私そんなにやさぐれてるように見えたの?


「華ちゃん」

「な、なに?」

「白くんのこと、お願いね」

「え?」


なにが?どういうこと?首を傾げて見れば「かよちゃんの所」と言われた。え、もしかして「久遠さんも、行くの……?」そう問えば、笑みを深くしておばあちゃんはこくりと頷いた。……まじか。


「なんの話だ?」

「えー、と……今日これから、田中のおばちゃん家へ行く予定なんです。届けるものがあって……」

「…私は行かないぞ」


久遠さんが行く気ないのなら、この話は無しの方向でーと言えば、「かよちゃんが白くんに会いたいらしくてねぇ。白くんが気に入ってたお団子用意してるー言うてたし、行ってらっしゃいな」とおばあちゃんが背中を押した。いや、そんなお団子に釣られるって、子どもじゃないんだし……。


「……仕方ないな」

「え?」

「ほら、さっさと用意しろ」

「え、行くんですか……?」

「…田中さんには世話になってるからな」


違うでしょ、お団子が食べたいだけなんでしょ?さっきまで行かないって言ってたじゃない……。


「ふふ、気をつけて行ってらっしゃいね」なんていい笑顔で言われてしまえば、頷くしかない。まあ、行って帰ってくるだけだしいっか。


「……おまえが運転するのか」

「はい」

「……だ、大丈夫か?」


私の愛車の前で、泣きそうな顔をする久遠さん。可愛いけど、失礼極まりない。こう見えても安全運転をポリシーに掲げているんですけど。


「華ちゃんは運転巧いよねぇ」


玄関前に立つおばあちゃんがフォローしてくれると、「葉子さんが言うなら大丈夫そうだな」と溜息を漏らした。うん、もうなにも言うまい。


手を振るおばあちゃんに、ミラー越に手を振り返しゆっくりとアクセルを踏んだ。

ここからおばちゃん家まで車で30分。少しでも会話して、友好度を高めよう。


目指せ!頷き以外の返答!


「久遠さんは、どうしてこんな田舎に住もうと思ったんですか?」

「……」

「…そう言えば、久遠さんてお幾つなんですか?私より2、3歳上かなって勝手に思ってたんですけど」

「……」

「えー、と…酔ったりしたら言ってくださいね?すぐ止めますから」


こくり。目標達成の道のりは遠いな……。でも無言よりはマシだと身に沁みたよ。よく耐えた、私の精神!次話かけて応答がなければもう静かにしておこう。


「おばあちゃんの料理、美味しかったですか?」

「…葉子さんの料理は、舌に…合う」

「それはよかったです」

「揚げ豆腐は絶品」

「あーあれ、美味しいですよねー。お豆腐好きなんですか?」

「まあな。一番はいなり寿司だが」


か、会話が続いた……!言葉のキャッチボールが!できてる!早くも目標達成かもしれない!食べ物の話題限定だけど。最初から高望みはいけないよね。うん。その内食べ物以外の話題でも、盛り上がってみせる!


決意改に燃えていると「でも、葉子さんの料理は全部美味しい」と隣から聞こえた。目を細め、口角を上げ、うれしそうな表情を見せながら。


……久遠さんとの距離を詰めるには、彼の胃袋をゲットするのが一番手っ取り早い気がしてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ