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近所に棲む変わった人の話。  作者: 椎名
変わった人と田中のおばちゃん
4/17

4

「これは」

「あ、それはこっちのゴミ袋の中に」

「瓶は」

「ケース…が一杯になったんですね。家の外に置いとけば持って行ってくれるので、玄関前に……持てますか?」

「このぐらい持てる」


もっと与太つくかなと思えば、意外としっかりした足取りで久遠さんは玄関へと向かって行った。細身だけど、力はそれなりにあるらしい。


嫌な予感、は見事的中した。


私は今、久遠さん宅の腐海――基、台所の大片付け中だ。一応、嫌だと意思は示した。けれど、「この酒は…」「あのまんじゅうは…」と言われてしまえば首を立てに振るしかなかった。美味しいものには裏がある、しっかりと覚えておこう。


だけど少し期待もあった。久遠さんは私を家に入れるのを渋るだろうって。そしたらそれを理由に帰り、のんびりごろごろと過ごそうと。だけど、その期待はあっさりと砕け散った。

久遠さんは確かに断った。ただ、お酒とおまんじゅうのお礼を言えば、顔色を変えたのだ。


「おまえ、葉子さんの……」

「…孫、です」

「入れ」


身の翻し様も凄まじかったが、なにが凄かったかって、葉子さん!?まさかのおばあちゃん名前呼びである!そして、孫だとわかった瞬間の入場許可。どんだけ仲良くなってんだ。

そして掃除中は、質問ラッシュ。「葉子さんは元気か」「葉子さんはなにか言っていたか」「葉子さんの好きなものはなんだ」と昨日の不機嫌さはどこ吹く風状態だった。…なんだこれ。


「置いてきたぞ!」


テンションが高いのが見てとれる。なんか漫画とかだと、花とか飛ばしてそうだ。ほんとなんだこれ。


「…ありがとうございま、す。えーと、後は床を拭くだけなんでちょっと待っててください」


こくり、と大きく動く頭。そんなに待ち遠しいのか、おばあちゃん作のお昼ご飯が。どうせ食べる物もないだろうと見越したおばあちゃんは「お昼ご飯に白くん誘ってね」と私に託した。それを伝えた時の喜び様はまだ頭を支配している。「そうか」なんて素っ気ない一言に反して、表情は素直で心情を如実に表していた。眉間の皺は消え、仄かに上気した頬。誰だこの人と思った私は悪くない。


「…おまえが」

「私が?」

「…居な、ければ…ここまで、できなかった。その…た、助かっ…た」


目線を外しつつも告げた、彼なりの精一杯であろうお礼の言葉。…さっきの勢いはどこへ行ったんだ。


「…これで怒られずにすみそうですね」


田中のおばちゃん、怒ると怖いしな……。こんだけ綺麗にしたんだ、怒る所か称賛ものだろう。9時から来た私の労力は報われる筈だ。そうでないと困る。


「お昼ご飯、食べに行きましょうか」

「!」


……この人に尻尾があれば、千切れそうなぐらい振ってそうだな。

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