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「これは」
「あ、それはこっちのゴミ袋の中に」
「瓶は」
「ケース…が一杯になったんですね。家の外に置いとけば持って行ってくれるので、玄関前に……持てますか?」
「このぐらい持てる」
もっと与太つくかなと思えば、意外としっかりした足取りで久遠さんは玄関へと向かって行った。細身だけど、力はそれなりにあるらしい。
嫌な予感、は見事的中した。
私は今、久遠さん宅の腐海――基、台所の大片付け中だ。一応、嫌だと意思は示した。けれど、「この酒は…」「あのまんじゅうは…」と言われてしまえば首を立てに振るしかなかった。美味しいものには裏がある、しっかりと覚えておこう。
だけど少し期待もあった。久遠さんは私を家に入れるのを渋るだろうって。そしたらそれを理由に帰り、のんびりごろごろと過ごそうと。だけど、その期待はあっさりと砕け散った。
久遠さんは確かに断った。ただ、お酒とおまんじゅうのお礼を言えば、顔色を変えたのだ。
「おまえ、葉子さんの……」
「…孫、です」
「入れ」
身の翻し様も凄まじかったが、なにが凄かったかって、葉子さん!?まさかのおばあちゃん名前呼びである!そして、孫だとわかった瞬間の入場許可。どんだけ仲良くなってんだ。
そして掃除中は、質問ラッシュ。「葉子さんは元気か」「葉子さんはなにか言っていたか」「葉子さんの好きなものはなんだ」と昨日の不機嫌さはどこ吹く風状態だった。…なんだこれ。
「置いてきたぞ!」
テンションが高いのが見てとれる。なんか漫画とかだと、花とか飛ばしてそうだ。ほんとなんだこれ。
「…ありがとうございま、す。えーと、後は床を拭くだけなんでちょっと待っててください」
こくり、と大きく動く頭。そんなに待ち遠しいのか、おばあちゃん作のお昼ご飯が。どうせ食べる物もないだろうと見越したおばあちゃんは「お昼ご飯に白くん誘ってね」と私に託した。それを伝えた時の喜び様はまだ頭を支配している。「そうか」なんて素っ気ない一言に反して、表情は素直で心情を如実に表していた。眉間の皺は消え、仄かに上気した頬。誰だこの人と思った私は悪くない。
「…おまえが」
「私が?」
「…居な、ければ…ここまで、できなかった。その…た、助かっ…た」
目線を外しつつも告げた、彼なりの精一杯であろうお礼の言葉。…さっきの勢いはどこへ行ったんだ。
「…これで怒られずにすみそうですね」
田中のおばちゃん、怒ると怖いしな……。こんだけ綺麗にしたんだ、怒る所か称賛ものだろう。9時から来た私の労力は報われる筈だ。そうでないと困る。
「お昼ご飯、食べに行きましょうか」
「!」
……この人に尻尾があれば、千切れそうなぐらい振ってそうだな。