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近所に棲む変わった人の話。  作者: 椎名
変わった人とファーストコンタクト
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「んー!こっちの暑さはやっぱりマシだねー」

「田舎だからねぇ」


 おばあちゃんとともに縁側に腰かける。その手には瑞々しいスイカ。いいねぇ、夏だねぇ。手に持ったそれを、シャクシャクと食べながらする他愛ない話。そんなのんびりとした時間が、私は大好きで堪らない。


「もうはなちゃんも、来年からは来れないんじゃないかい?」


そんなおばあちゃんの一言に、過敏な程反応する私の体。「…来るよ?」と応えてみれば、「社会人一年目は忙しいじゃろうねぇ」と笑って返された。これは確実に来れないって思われてるな……。


ここは私のオアシスなのに。


周りにあるのは山と川。歴史を感じさせる家々、大きな田んぼに畑、コンビニまでは車で一時間弱。そんな、典型的な田舎。そこに、私のおばあちゃん達の家はある。

ここら一帯には、私の住んでいる所とは違う時間の流れがあると思う。勝手に思ってるだけなんだけど。とにかくゆったりしてるのだ、ここは。そんな空気は私の荒んだ心も、疲弊した体も包み込んで癒してくれる。

嫌なことがあっても、疲れ果てても、ここに来れば治る。私が私で居られる。


だから、私はこの場所が好きで、通い続けたいと思っている。というかこれからも通う!絶対!


「あ、そうだ華ちゃん」と私が心改に思っていると、おばあちゃんからお声がかかった。その手にはさっきまではなかった、大きなスイカが一玉収まっている。あれ、何時の間に持ってきてたの?


「もう2個も食べたし、流石に入んないよ?」

「うふふ、違うの。これはね、人にあげるのよ」

「ああ、田中のおばちゃん家?」


そう私が納得顔で言えば、うふふと洩らし首を立てに振る。相変わらず仲、いいんだなあ。田中のおばちゃんとは、おばあちゃんの友達の人のことである。おばあちゃんとは同い年だが、おばあちゃんと呼ぶと怒るので、私は田中のおばちゃんと呼んでいる。幾つになっても女心を忘れないおばちゃんは、可愛いらしい人だ。


「届ければいいんだよね?」

「お願いできるかい?」

「任せて!今から行ってくるよ」


そう放ち、大きなスイカを抱えこんだ。…自転車?そんなのは使わない。というか使えないのだ。なぜなら田中のおばちゃん家は、坂の上にあるから。まあ私の年齢なら気力で登れるだろうけど、そもそもおばあちゃん家に自転車は、ない。誰も使わないんだから当たり前だよね。


「おばちゃんに会うのも久しぶりだなー」


少し大きめな独り言を発しても恥ずかしくはない。だって周りには誰も居ないし。

おばちゃん家は、おばあちゃん家の横道を5分程歩いた所にある。家の形容を表すなら「でかい」この一言に尽きる。

とにかくでかいのだ、おばちゃん家は。二階建ての、大きくて広い家。おばちゃん家は旧家で、この辺でも有力視されている。云わば地元の名士だ。この話を聞いた時、ああだからか、と思った。それぐらい、おばちゃん家はでかいのだ。


坂を登り切ったら、拓けた空間。


「相変わらずでっかいなー」


何十回と訪れてはいるけど、私は毎回そう口にしてしまう。仕方ない、ほんとに大きいんだもの。

そう思いつつ鳴らすインターホン。うん、インターホンの音は普通だ。ピンポーン、ピンポーンとその音が辺に響く。……ん?なんで誰も出ないんだ?おばちゃんが居なくても、誰かしら何時も居るのに。お手伝いさんとか。んー?にしてもこのインターホンの音、やけに大きくないか?ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。反応は、ない。

この音に反応しないってことは、本当に誰も居ないっぽいな。買い物にでも行ってるのかも。


うん、帰ろう。そう思って踵を返した瞬間、後ろでガラッ!と大きな音を立て、戸が開かれた。


「え、」


ああ、よかった居たんだ、と思いながら振り返れば居たのは長身の男の人。え、誰。


「何用だ」


固まる私に降り注ぐのは、低い、刺々しい声。その顔には、不機嫌さを隠そうともしない眉間の皺が刻まれている。目も鋭く、どうやら睨まれているようだ。えっと、なんかごめんなさい。


「あ、あの…田中のおばちゃんは……」


言葉が尻すぼみなのは許して欲しい。


「居ない」

「え?…ああ、買い物ですか?」

「違う」

「す、すいません。え、っと…じゃあこれ帰って来たら渡して置いてください」

「…」


そう言って、スイカを差し出しても受け取ろうとはしない。寧ろより一層、目付きが鋭くなった気がする。…困ったな。


「あ、の」

「帰れ」

「あ、はい。スイカを渡しに来ただけなので、受け取って貰えたら帰りガガガガ!…え?」


私がそう言っている途中に聞こえた変な音。まだ鳴るその音は、ガッガッ!ドゴッ!と辺に響く。な、なんの音……?


「…あの、この音、」


男の人に話しかけたら、少しだけ体をびくつかせ直ぐ様身を翻し部屋の中へと戻っていった。


「えーと、」


どうしよう?……手元に残る大きなスイカ。開け放たれた戸。未だ聞こえる不穏な音。


よし、


小さな声で「お邪魔しまーす」と発し、家に入る。うん、仕方ない。だって、重いスイカを持って帰るのはしんどいし、玄関の戸は空いてるし。うん、仕方ない。


足早に廊下を抜け、勝手知ったる家の中を進む。家の真ん中に位置する台所まで、足を進め、ようとしたができなかった。台所まで後一歩、だけどその一歩は左から伸びる廊下一体に立ち込める泡によって塞がれた。って、泡!?な、なにこれ……。


呆然と立ち尽くしていると、ドカドカと大きな足音が聞こえた。次いで聞こえたのは舌打ち。私に向かって鳴らされたと思いたい訳じゃないけど、多分、私にだろう。だって彼の双眼は、私に向けられより一層歪んだのだから。


「…」

「勝手に入ってごめんなさい」

「…」

「あの、これ置いたら直ぐに帰ります」

「…」

「えっと、だ、大丈夫です…か……?」


泡が…、そう呟いた瞬間、沈黙を貫いていた彼は盛大に舌打ちをかました。す、すいません。

もうこれ以上、不機嫌にさせるのも申し訳ないので、廊下の、泡が届いてない安全な場所にスイカを置いて帰ろう。

スイカをゆっくりと置き「…お邪魔しました」と消えいるような声で告げ、玄関へと向う。…いや、向かおうとした、だ。だけどそれは、泡の付いた大きな手によって、それは止められてしまった。な、なんだろう。


「…」

「あ、あの……?」

「……て」

「て?」

「手伝え」


え?もしかしなくても、この泡をなくすのを?



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