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フィーカスのショートショートストーリー

早すぎる予約開始

作者: フィーカス

「最近、なんか先取りしすぎな感じ、多いよね」

 近所のファミレスでケーキとドリンクバーで時間を潰していたアヤネは、同じく一緒に来ていたタカヒロにつぶやいた。

「先取り?」

 タカヒロはドリンクバーのコーラをちびちびと飲みながら、話半分にアヤネの言ったことを聞いた。

「つい一週間前にお正月終わったばっかりなのに、スーパーじゃもう節分やらバレンタインデーやらの商品が並んでるじゃない」

「ああ、そういえばそうだな。七草とか鏡開きとかは、肩身が狭いよな」

 タカヒロが言っている間に、アヤネはタカヒロのレアチーズケーキを奪おうとする。が、間一髪皿を回避させてフォークが刺さるのを防いだ。

「そうそう、バレンタインデーが終わった次の日にはホワイトデーでしょ? どれだけ焦ってるのよっていう感じ」

「まあ、商売だしな。乗り遅れたらその分売り損ねるわけだし」

 タカヒロは取られかけたレアチーズケーキを一口食べ、残っていたコーラを一気に飲み干す。

「世の中っていうのは、常に先手先手を取っていかないとおいて行かれるんだ。だから、商売の世界では常に次のイベントを見据えて準備するものさ」

「それもどうなのかしらね」

 ドリンクバーのおかわりをしようとタカヒロは立ち上がろうとしたが、アヤネが残ったケーキを狙っているのを見て中止する。

 途中でチッと舌打ちの音が聞こえたような気がする。

「まあ、先取りしたはいいけど、そのまま忘れて放置っていう場合もあるけど」

「ん、どういうこと?」

 タカヒロのケーキをあきらめたのか、アヤネは自分のチョコレートケーキに手をつけた。

「ほら、例えば正月はもう終わったのに、『正月用オードブル予約受付中!』みたいな」

「ああ、たまにあるわよね。もう来年の正月の話してるのか! みたいな」

「あ、でもさっき来るときに見たお総菜屋さん、いまだ『クリスマスの料理ご予約受付中』ってなってたよ。もっとも、2012年12月20日までって書いてたけど」

「多分、忙しいとか、年末年始休みだからとかで外してないんだろうなぁ」

「個人でやっているところだったら、そういうこともあるのかのね」

 そういうと、アヤネは空になったグラスをもって立ち上がる。自分のケーキが狙われることがないと安心すると、タカヒロもついでにグラスをもって立ち上がった。


「あれ、タカヒロにアヤネ、こんなところでさぼりか?」

 二人がドリンクバーの機械でジュースを注いでいると、友人のアツシが制服姿のままこちらにやってきた。

「お、アツシ、珍しいな、ファミレスで会うなんて」

「ちょっと寄ってみただけだ」

 と言いながらグラスを取ってジュースを注ごうとしたが、「先に注文しろよ」とタカヒロが制止した。


「で、何の話してたんだ? ひょっとしてお邪魔だったか?」

「いや、邪魔も何も、大した話じゃないんだけど」

 タカヒロたちが座っていたテーブルにアツシも座ると、ドリンクバーと大盛りポテトを注文した。

「最近はスーパーとかのお店が先取りしすぎっていう話をしてたの」

「そうそう、もうスーパーじゃ、バレンタインデーの準備が始まってるっていう」

 タカヒロとアヤネの話を聞きながら、アツシは何故か注文前に注いでいたコーヒーを口にする。

「ああ、なるほど、そういう話か」

 アツシが言いかけた時、店員が注文していた大盛りポテトを持ってきた。いくらなんでも早すぎないかと思いながらも、まずはアヤネが一足先にポテトを手に取る。

「俺の知り合いの店も、早い段階から準備しておかないと客を取られるって、結構早めに予約をうけつけてたからな。早い時は三か月前も。おととしのクリスマスだったかな、九月から予約受付してた」

「へ? さすがに三か月前は早すぎだろう」

「いや、これくらい差別化しないと売り上げが伸びないって嘆いてたくらいだからね。それでも、なかなか予約が入らないんだって」

「そりゃ、三か月も前じゃ予定立ってないだろ。早くても一か月前くらいじゃないか?」

 タカヒロはアツシの話を聞きながら、勝手にポテトに手を伸ばす。が、何故かアヤネに阻止された。

「まあ、そういうことも話したんだけどな。それでも、ある意味ユニークなサービスだって、一部の客からは人気だそうだ。ただ、逆に取りに行くのを忘れることもあるそうだけど」

「そりゃそうだろ。三か月も前じゃな」

 はぁ、と言いながらタカヒロは残ったチーズケーキを口にほおばる。

「あ、でも忙しい主婦とかは助かるかもね。予約受付期間が長いと、空いた時間に予約に行けるから」

 今まで話を聞いていただけのアヤネが、途中で話に入った。右手にはしっかりポテトを握りしめている。

「まあ、そういう理由もあるけどね。で、今も早めの予約受付のポスターを店頭に貼っているんだ」

「なんだ? 冬から秋の行楽シーズンのオードブルの予約受付か?」

「いや、そうじゃなくて」

 アツシが言いかけてポテトを取ろうとするが、すでに半分くらい減っていて驚いた。

「クリスマスのオードブル受付だ」

 コーラを飲んでいたタカヒロは、思わず吹き出しそうになった。

「いやいや、それは早すぎだろ。いくら早めの予約受付ったって、今年のクリスマスって」

「いや、今年のクリスマスじゃなくて」

 タカヒロがのどに詰まったコーラを何とかしようと、ナプキンで口元を吹いて再びコーラを飲み始めた時である。


「来年のクリスマスのオードブルの受付だってさ。店長に聞いたら、2014年12月20日まで受け付けているらしい」


 今度こそタカヒロはコーラを吹き出した。

今日ガストに行ったら、「正月のオードブル予約受付中」って書いてました。

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