表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

第03話 パーティとソロ

   ◇ ◇ ◇




 目を開けると薄暗い部屋が見えた。

 まるで世界が色褪せたように感じられてしまう。


 ここは、僕の部屋。

 RAOVRからログアウトした僕は、現実世界に戻ってきた。


 省電力のためゲーム中は自動でオフになっていたPCのモニターが、ゲームクライアントの終了に伴い自動でオンになる。

 僕はヘッドギアを外すと、キーボードを叩いてRAOVR公式サイトへアクセスした。パスワードを入力して個人ページにログイン。問い合わせのページへ向かう。


 あの妖精さんが本当に運営側の人間であることを確認するため、EJ94リングに関しての問い合わせメールを送信する。

 ログインした状態で送信すればキャラクターのアカウント情報も送られるので、僕によるメッセージだというのはわかってもらえるはずだ。

 もし本当に罠であった場合に備え、本文にはダンジョン内で変なキャラクターに遭遇し、アイテムを押し付けられた旨だけ書いておく。

 聞きたいことは山ほどあるが、それは事実が確認できてからにしようと思う。


 メールも人間が読んで人間が返信するものだ。すぐには返ってこない。その間に僕は小腹も空いてきたので、カップ麺でも食べることにする。

 これを夕食扱いにしても平気だろうか。時間的には少し早いので今食べると夜中にお腹が鳴るかもしれない。……まあその時はその時かな。


 僕の両親は共働きで、帰りは遅い。兄弟もいないし、夕食はいつもひとりだ。別に寂しいと思ったこともないし、好きな時間に食べられるのは便利だとも思っているけど。


 麺がほぐれ食べ頃になると、すでに返信が来ていた。随分早いな。まさか待ち構えていたのだろうか。

 返信された本文から余計なコピーライトなどを削ると、だいたいこんなことが書かれていた。




 お問い合わせありがとうございます。

 ライオさんが体験なさったことは確かに事実です。

 お話しした通り、アクセサリ装備アイテム『EJ94リング』はご自由にお使いいただいて結構です。

 ご心配されるようなアカウント凍結やその他制裁行為、お客様のコンピュータや周辺機器へのウイルス感染等はございません。ご安心ください。

 今後とも、レヴァイアサンアークオンライン・VRをよろしくお願いします。

 メール返信担当 古早川高彦




 ……古早川高彦。

 僕は検索エンジンにその名前とクアンタム社の名を入力しエンターキーを押した。

 クアンタム社の公式サイト、製品情報ページがヒットした。

 開いてみて、ページをスクロールしていく。

 ……いた。


 レヴァイアサンアークオンライン・VRの特別開発顧問、という役職と共にその名が記されている。写真まで貼ってあるよ。

 スキンヘッドにサングラス。よれよれのTシャツにジーパン。そして笑顔でダブルピース。

 もう見るからにバカ丸出しって感じだった。

 こんなおっさんなら確かに気まぐれでチートとかばらまきそうだ、と納得しそうになる。


 一応、某匿名巨大掲示板でもその名を検索してみる。

 が、個人スレなどは特に引っ掛からなかった。RAOVR本スレの過去ログで、開発顧問に変なおっさんいるwとか時々話題になっているくらいだった。

 現行スレもチェックしてみるが、ここ数時間の書き込みはごく平穏な流れであり、チートアイテムが出回ってるなんて書き込みは欠片もない。


 つまり、あの妖精さんが語ったことは全て本当であり、同じようなチートアイテムを得たのは僕以外にはいない、もしくは掲示板に情報を漏らす人が現れるほど多くない。と考えて大丈夫であるということだ。たぶん。


 僕はあれこれ考えを巡らしながら、いくつかの質問を載せて再びメールを送信する。

 すっかり伸びてしまったカップ麺を食べながら、返信を待った。


 そしてこれが、二度目の僕と古早川高彦によるメールのやり取りの簡単なまとめだ。




 Q なぜこのアイテムを渡したのが僕だった?

 A すでに申し上げました通り、無作為に選出された結果です。


 Q このアイテムを渡した目的は?

 A お客様に通常とは異なる、特別なゲームプレイをお楽しみいただくためです。


 Q このアイテムに関する情報をネット上やフレンドになど、他者に公開しても構わないか?

 A お客様のご自由にしていただいて結構です。


 Q このアイテムは処分できないのか?

 A クエストアイテムと同じ扱いですので、取り引き、地面に落とす、貸倉庫に預けるなどの行為は不可能となっております。ご了承ください。


 Q 他にも同じようなアイテムを与えた、もしくは与える予定のプレイヤーはいるのか?

 A 他のお客様の個人情報に関わることはお教えできません。ご了承ください。


 Q EJ94とはどういう意味? 何らかの略称? また、文字化けしているアイテム情報には本来何と書いてある?

 A EJ94はアイテム情報管理コードです。何らかの略称というわけではありません。また、文字化けしているアイテム情報も、仮の文字列が入力してあっただけで何か意味を持つ文章ではありません。


 Q 本当に運営から僕に対する制裁はないのか? もしあなたが現職を辞した後方針が変わったとしても?

 A ありません。ご安心してお楽しみください。




 まあ、だいたいこんなところだった。

 もっと聞いておくべきことはあったかも知れないが、今思い付いたのはこれだけだった。

 別に今回しか聞く機会がないというわけでもないだろうし、構わないだろう。


 少し気になったのは、この情報を誰かに教えても良いというところだ。

 適当に選んだプレイヤーにこんな物を押し付ける運営がいたと知れたら、炎上ものではないだろうか。

 ……いや、違うな。

 たぶん僕ひとりが騒いだところでどうにもならない。そう考えているのだろう。


 EJ94リングは他のプレイヤーに渡すことができないし、他に持っているプレイヤーも恐らくだがいない。いてもほんの数人だろう。

 そんな中、僕ひとりだけがこのアイテムの力を誇示しまくったところでこのゲーム世界はほとんど何も変わらないだろう。

 このゲームは競争要素も少ないし、精々フィールドボスのフィニッシュ権を独占できるくらいだ。

 難しいダンジョンを高速周回することもできるだろうが、レアアイテムの入手率は変わらないので、流通が大幅に増え価値が暴落するなんてこともほとんどないだろう。


 そう。

 僕ができることなんて、強さをひけらかしてお山の大将を気取れるようになるくらいなんだ。


 ……やっぱりむなしいだけだな。

 うん。僕は普通のゲームプレイを続けよう。

 みんなとわいわい駄弁っている方が、よっぽど楽しいに決まっている。


 僕は空になったカップ麺の容器をゴミ袋に突っ込むと、再びRAOVRを起動させた。

 もう後ろめたさはなかった。


 少なくとも、今この時は。




   ◇ ◇ ◇




「おーライライ帰ってきた! ほれ行くぞすぐ行くぞ!」


 ログインして早々にギルドホームへ戻ってきた僕を、みつるくんがやたら高いテンションで出迎えた。

 見れば、さっきログアウトした時と変わらないメンバーがそこにいた。


「行くって、どこに」

「ヴァルゴ深層だよ!」


 確かに先程通行証を手に入れたという話をしていたが。

 行ってて良いと言ったはずなのに。


「……待ってたの?」

「おう! さー行くぞ行くぞ!」

「行くぞ行くぞ」

「行くぞー」


 みつるくん以外のメンバーものりのりであった。

 その場で僕、みつるくん、イノさん、シズさん、カイくんの五人パーティが組まれ、一行はぞろぞろとギルドホームからワープクリスタルでバルゴダンジョンへと向かった。




 ヴァルゴダンジョンは、オリオンダンジョンと比べると全体的に難易度が高い。しかしその分、入手できるアイテムのレア度も高くなる。

 イノさんが深層のボスが稀にドロップするアイテム、バルディッシュソードを欲しがっているとかで、ここには最近よく来ているのだった。


「うぉーうぉーうぉーうぉー!」

「うぉーうぉー」


 みつるくんが犬の遠吠えのような声をあげ、イノさんもそれを真似ていた。


「今度は一度も死なずにクリアしたいな」


 彼らの後ろで、カイくんが小さく決意していた。

 死亡……つまりHP0状態からは、HP、MP、スタミナを全回復してくれるリヴァイブクリスタルというアイテムを使って復帰することが可能だ。ただ入手するためには月額課金サービスを購入しなければならない。

 便利なアイテムではあるが一日に使える個数に制限があるので、基本的には死なないように立ち回るに越したことはない。

 ゲーム内で買えるフェニックスの尾的な復活アイテムもあるが、効果がショボいし他人に使ってもらう必要があるので、リヴァイブクリスタルはソロ活動時のために温存したいのもあるだろう。


 この面子の中だと、みつるくんとシズさんがかなり以前からゲームをプレイしていてレベルも高いし経験も多い。

 イノさんは僕より少しだけ早く始めているが、ログイン時間が多いのでレベルには結構差がある。

 そしてちょうど僕のプレイ歴が一年くらいになった頃、つまり今から二ヶ月ほど前に、カイくんが始めた。まだ脱初心者したくらいのレベルと経験である。

 VRゲームである以上、レベルもさることながらゲーム内で武器を振るうという経験はとても大切である。そのあたりはRPGではなく、アクションゲームなどが近い感覚だろう。


「じゃあ俺も死なないように頑張ろうかな」


 僕はカイくんの言葉に続いて、先輩風を吹かせてみる。

 僕やイノさんでもノーミスでクリアは難しいのだから、カイくんができなくてもおかしくないよ、という意味も込めてそう言ってみた。


 僕はふとインベントリを確認する。

 そこにあったEJ94リングには、手をつけない。

 普通にゲームを楽しむんだから。




「きいええええ!!」

「おぎゃあああ!!」

「……」


 異様なテンションで奇声をあげながら、みつるくんとイノさんが次々とモンスターをぶちのめしていく。完全に悪ふざけしてるなあれ。

 そして彼らが取りこぼしたモンスターを、シズさんが華麗に黙々と仕留めていた。

 こと戦闘に関しては本当に頼りになる面々だ。


 僕とカイくんはというと、


「はい!」

「ほい!」


 モンスターをハイスラッシュで強制ダウンさせてから、起き上がったところに魔法スキル『ファイアーボール』を続けて撃ち込み、強制的によろけさせる。

 その隙にもう一人がハイスラッシュ、同じくファイアーボールでよろけさせ、またもう一人がハイスラッシュ、ファイアーボール。

 僕とカイくんは時おり掛け声を掛け合いつつ、二人がかりでモンスター一体に対し連携攻撃を続けていく。

 他のメンバーに比べると与ダメージの低い僕たちはこうして、二人で協力することで少しでも効率よくモンスターを倒していかなければいけないのだ。

 カイくんも攻撃力はまだ低いので、ダメージのほとんどは僕が与えていたのだが。


「よしとどめ!」

「おう!」


 僕が合図してモンスターをダウンさせ、最後の一撃をカイくんが決める。


「ナイス連携だった」

「ふふふ見事であったぞよ」


 すでに部屋中のモンスターを倒し尽くして僕たちを観戦していたみつるくんとイノさんが、師匠的な態度で感想を寄せた。

 高ダメージを連発して次々とモンスターをなぎ倒すのも良いが、こういう連携プレイも何よりの楽しみだとも思う。

 とても充実感のある、楽しい時間だった。


 うん。僕は今楽しんでいるんだ。


「カイくん」


 僕はカイくんに近付いて手を軽く掲げる。

 カイくんは意図にすぐ気付いて、同じように掲げた手で僕の手をパシンと叩いた。


「ぎゃーハイタッチだあああ俺もやりたいいいい!!」


 突然興奮するリア充。両手を掲げて僕らの方に走り出してくる。


「うおー! うおあー! うひょおああああ!!」

「う、うおー……」

「あ、うん……」


 軽く引きながら、僕たちは手を差し出した。

 バチーンとかいう音が響く。手が痛い。


「あーいいよねハイタッチ。青春のかほりがするよ……」


 なぜかやたらと感激するみつるくん。リア充なら何度もしてるだろ、と思わず突っ込みそうになる。


「おっさん、寂しい青春を送ってたんだね……」

「おっさんはお前だろ!」

「そうだった、俺は三十路で痔持ちのうすらハゲデブおっさんだった……」

「泣けるね……」


 また変な寸劇を始めるみつるくんとイノさんであった。


 そんな調子で、何かある度にテンションを上げる二人に頬を緩ませたり、シズさんの華麗な戦いに見惚れたり、カイくんと協力プレイを楽しんだりしながら、僕たちはダンジョンを進んでいくのだった。




「はい出ないー!」


 ボスモンスター、星女王ヴァルゴを撃破するも、ドロップアイテムは何もなかった。

 イノさんが過剰表現ぎみにがっくりとうなだれる。


「まあそうほいほいとはでないよね……」

「はは……」


 ぶつぶつ言いながら、僕たちはそれぞれクリア報酬の宝箱を開けていく。

 僕のは……、げ、またヴァルゴ深層通行証。


「なんか出たー?」


 ワープクリスタルの近くに集まって軽い報告会を開く。

 ボスや道中のモンスターが落とすレアドロップは露店で売り払ってから売り上げのゴールドを等分配するのがうちのギルドのルールだが、報酬宝箱の中身は基本的に開けた人の総取りだ。

 だが誰かが欲しいと言うアイテムが出れば優先的に売ってあげることになっている。そういうのが無くても良い物が出れば一緒に喜ぶし、ろくな物が無ければ一緒にがっくりする。

 そういう流れが定番だった。


「赤ぽだった」


 赤ぽ、つまりHP回復ポーションが出たと報告したのはシズさん。

 要はハズレだ。


「たかいシルクでした」

「あ、俺も」


 裁縫スキルで使う高級シルクが出たと報告したのはイノさんとみつるくん。

 これはまあ小当たりといったところ。


「真っ赤なバッソが出たよ」

「それは50kくらいで売れるかも」

「わーやったー」


 レアカラーのバスタードソードが出たと報告したのはカイくん。

 価値を聞いて微妙な顔になったが。


「俺は……おかわりが」

「え……」


 そして僕はおかわり……つまり同じダンジョン、同じ階層の通行証が再び手に入ったことを報告した。


「もう一周はさすがにちょっちしんどいなー」

「うむ……」


 さすがに高難易度のヴァルゴダンジョン深層を一日に三度も連続で行くのは辛いのか、みつるくんとイノさんが疲れたような顔を見せた。


「いやまあどうしてもってんなら行っちゃうけど?」

「そうそう。俺はまだ本気を出していないだけだし?」


 しかしせっかく出した通行証を無駄にさせてしまうと気を使ったのか、二人はやせ我慢のようなことを言いだす。


「いや、俺も疲れたし……。いいよ、露店で売って小遣いにするから」

「そうか。そうすると良い」

「んむ」


 僕がそう言うと二人はあっさり引き下がった。


「……シズさんとカイくんは行きたいとか……」

「言わない」

「同じく」

「……だよね」


 こうして僕が入手した通行証は、お金に化けることになったのだった。




 報酬報告会も終わり、僕たちはギルドホームに帰ってくる。


「そう言えばカイくん死ななかったね」

「あー、そう言えば……」


 そこで僕はふと思ったことをカイくんに伝えてみる。

 カイくんと僕でうまいこと最後まで連携を失敗せずに行えたため、カイくんとついでに僕も、共に一度も死亡することはなかった。

 アホみたいな勢いで敵に突っ込んでいったみつるくんは二回ぐらい死んでだけど。


「ライくんのおかげだね」


 カイくんが爽やかな笑みを浮かべる。

 ……僕だって君のお陰で死ななかったよ。


「……じゃあ俺は露店出してくるよ」

「おー」


 照れ臭くなった僕はそう告げてギルドホームを後にした。




 露店街をうろつく。出店する前に適当に散策しようと思ったのだ。

 しかしいくつか見て回っていると、すでに何軒かの露店で同じようにヴァルゴ深層通行証が売られているのが目についた。希少なアイテムでも、たまにこういうことがあるものなのだ。

 この調子では相場より少し安めに価格設定しないと売れ残ってしまうかもしれない。


 ……それともいっそ、またソロで行くか。


 すっかり頭から消え去っていたと思ったのに、あのEJ94リングのことを思い出してしまった。

 売れ残るくらいなら、自分で使った方が良い。期限が切れればこの通行証はゴミと化す。およそ150000ゴールドがパーだ。

 もったいない。

 でもソロでは攻略なんてできない。

 ならあのチートアイテムを使えば……。




 気が付いたら僕は、ヴァルゴダンジョンの前にいた。

 なんて、なんて心が弱いんだ。


 また気が付いたら、すでにダンジョンの中にいた。

 通行証はそのまま売ればだいたい150000ゴールドくらいが相場だ。

 けれど、ここで入手できるかもしれないレアアイテムは、高い物だと5000000ゴールドくらいする物もある。

 中レアくらいの物でも1000000ゴールドくらいにはなる。

 出れば、の話とは言え、大儲けのチャンスだ。


 このEJ94リングを装備しても、ゴールドはカンストしない。いちいち稼ぐ必要がある。

 自分の力で頑張らなければいけないのだ。




 そして。


「出ちゃった……」


 僕はボスを討伐し、そいつが倒れる瞬間にポロリとこぼれ落ちて地面に突き立ったその金色の剣を眺めていた。


 バルディッシュソード。

 露店に出せば、5000000ゴールドでも買う人がいるであろう武器だった。


 レアアイテムが出やすくなる効果はEJ94リングにはなかったはずだ。

 だからこれはチートではない。

 僕の運によるものだ。


 けれど、ここまでソロで来れたのはチートのおかげだ。


 ならばこのアイテムは、正当な手段で手に入れたと言えるのか。それとも不当な手段で手に入れたと言えるのか。


 ああ、もう。

 どうしようこれ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ