第01話 普通の少年とチートな腕輪
VRゲームというゲーム媒体が当たり前になってから、もう何年もが過ぎた。
僕もまた世間一般の高校生の殆どがそうであるように、仮想世界の中でもう一人の自分を演じている。
数多のゲームメーカーが試行錯誤を繰り返し、他社よりも良いものを。と、しのぎを削っているこの時代に僕が選んだのは、クアンタム社(株)がリリースした、『レヴァイアサンアークオンライン・VR』だ。
VR技術がゲームに転用される前から存在する作品のシリーズであり、その世界観を同じくしていることが売りのVRMMORPGだ。僕も何作か遊んだことがあるので、自然とこれに手を出していた。
学校の授業が終わると僕は早々に帰宅し、着替えもそこそこにPCを立ち上げゲームプレイの準備を始める。
学校は退屈だった。
授業もついていけない程ではないが簡単に理解できるほどでもない。部活も運動は苦手だし、文化部は面白そうに思えないのでやっていない。一緒に遊ぶような友達もいないし。
だから僕は、極力学校にいる時間を減らす。始業時間ギリギリに登校し、終業時間になったらすぐ下校する。いる必要がないからだ。
ある意味僕の一日は、PCに向き合うこの時間から始まるとも言えた。
肉体に仮想世界の信号を送受信させるための脳波式コントローラ、通称ヘッドギアと、同じく指先から信号を送受信させるグローブを装着して、PC上でレヴァイアサンアークオンライン・VR、略称RAOVRのクライアントを起動させる。
するとすぐにも僕の意識はゲームの中の世界、イムダリアへと飛ばされていく。
もうかなり慣れ親しんだ感覚の中、この世界こそが僕が本当に生きるべき世界なのかもしれないと、最近はよく思うのだった。
◇ ◇ ◇
気がつくとそこはベッドの上。辺りを見渡せば木造の安っぽい部屋。窓の外にはコテコテの中世ヨーロッパ風ファンタジー世界の街並み。
現実世界よりも色鮮やかに見える、ゲームの中の世界だ。
RAOVRの世界では、ログイン時は必ずここからスタートする。全てのプレイヤーに割り当てられた、自分だけのパーソナルルーム。
フルダイブというシステムの都合上、ログイン直後は他のプレイヤーとは隔離された場所に自キャラクターを置く必要があるそうなのだ。詳しい仕組みは知らない。大多数のプレイヤーも興味ないだろう。
僕はベッドから起き上がり、部屋に置かれた姿見の前に立った。
男にしては少し長めな銀色の直毛、きりりと開かれた紫の瞳、現実での年齢よりは少し幼く見える顔立ち、透き通るような白い肌、身長設定175cm、体重設定60kg。ほどほどに逞しい体つき。
それが僕のこの世界での姿である。
名前は、ライオ。
念じることで、アイテムインベントリを開く。ログイン直後はシステム保護のため装備品は一度全て外されるのだ。改善要望の多い点である。『倉庫』タブを選んで、愛用の装備品を取り出す。
黒と紫で染色されたお気に入りの衣装、胴体装備『エルミナムカジュアルスーツ』、足装備『エルミナムカジュアルシューズ』、腕装備『エルミナムカジュアルグローブ』を取り出して装備する。頭部装備は何もなし。
名前の通りカジュアルでありながら上品さの漂う衣装が僕のアバター、ライオに装備される。
我ながら銀色の髪によく似合っていると思う。ちょっと厨二臭いとたまに馬鹿にされるが、気にしない。
身なりを整えた僕は部屋の扉を開けた。
ここは集合住宅のような形になっており、扉を開くと広いロビーに出る。周囲を見渡せば他にも自室から出てたむろしているプレイヤーの姿もあった。
随分と精巧なポリゴンモデルだが、彼らも同じ人間だ。現実とはきっと似ても似つかない姿なのだろうと思うと、MMORPGをやっているなあと実感する。
チェスボードのように白黒升目が配されたちょっとおしゃれな床を踏みしめながら、現実世界よりも軽やかな足取りで僕はロビーの中央へ向かう。
そこには青色に輝く、身の丈よりも大きなクリスタルが鎮座していた。
ワープクリスタルだ。
一度でも行ったことのある街、もしくはダンジョンへ一気にワープすることができる魔法の大石である。
僕は慣れた感覚で念じ、まずは交易都市ダントールへと移動した。
そこはプレイヤー達が自由にアイテムを出品し、好きな値段で売買ができる露店街だ。僕はログインしてからまずここで何かお目当ての装備品やアイテムが無いかを探すのがいつもの流れだった。
フレンドが欲しがっているアイテムがあれば購入を代行しても良いし、相場より安いアイテムがあれば買い占めて転売するのも悪くない。そういう楽しみがあるからよくここへは来るのだ。
そんな中で、オリオンダンジョン深層通行証というアイテムを発見する。
モンスターが出現し、狩りの定番となる場所のダンジョンだが、無条件で入ることのできる上層のモンスターはあまり強くない。報酬のアイテムも貴重な物は無い。
中級レベル以上のプレイヤーはもっぱら、もっと強力で有用なアイテムを手に入れられる下位層へ入っていくことになるのだ。
そのために必要になるのが通行証というアイテムで、難易度の高い階層の通行証ほど入手が難しい。
上層、中層、下層、深層、最深層の順番で難易度が高くなる。つまりこの通行証で行ける深層は、かなり難しい方だ。自然と通行証も高値で取引される。
僕一人での攻略は難しいがギルメンを誘って行くならばちょうど良いはずだ。実際何度か行ってみたこともある。
……買ってみようかな。
値段は……、げ、10000ゴールド? えらく安いな。相場の十分の一だ。
恐らく値段掲示の際にゼロを一つ入力し忘れたのだろう。よくあるミスながら、しかし致命的だ。
僕は容赦なくそれを購入した。店主にとっては実質90000ゴールドの損失である。
まあ、深層の通行証を入手できるくらいの腕ならすぐに稼げる額だよね。悪く思わないでおくれよ。
通行証を手土産にギルドホームに向かうと、そこには誰もいなかった。フレンドリストを見る限りログインしているギルメンは多いのだが。ひょっとして入れ違いってやつだろうか。ちょっとショックだ。
帰ってくるまで待とうかな、と思いインベントリ内を確認する。
通行証には使用期限があるのだ。基本的にはドロップから二十四時間。露店に並べてからずっと売れずにいたら、その間も当然減っていく。
まさかと思って確認したら、残り九分と表示されていた。
……迂闊。あまりの安さに即買いしてしまったのがいけなかった。入力間違いではなく、残り時間がギリギリだったからこその値段だったのだ。
やられた。これもまたよくあるミスである。
どうしよう、これ。
残り九分ではこの後すぐにギルメン達が帰ってきたとしても、誘って雑談してそれからダンジョンへ移動しようとしている内に過ぎ去ってしまうだろう。
うちのギルメンはみんなしてマイペースなのだ。通行証の期限があと少しなんて言っても、それならまた今度で良いんじゃね? となるのがオチだ。高値で買った通行証ならともかく、10000ゴールドではな。
仕方ない、ソロで行くか……。
最初の数部屋くらいなら僕のレベルでもなんとか対処できる強さのモンスターしか現れないし、経験値も多い。ソロだから分配もされないし、少しはうま味もあるだろう。
そもそもそうさ。たった10000ゴールドで買った物だし、どうってことはない……。
再びギルドホーム入り口にあるワープクリスタルを使って、オリオンダンジョン前へとワープする。
近くに置かれた碑石にはオリオン座のマークが刻まれ、そこが間違いなくオリオンダンジョンであると告げていた。
ダンジョンの門をくぐり、薄暗い洞穴を少し進んだ場所にある石造りの祭壇に通行証をそっと捧げる。
残り時間は三分にまで減っていたが、それでも問題なく効果は発動する。僕の体はワープクリスタルを使った時と同じように光に包まれ、ダンジョン内へ転送されていった。
通行証の期限は残りわずかだったが、中に入ってしまえば制限時間などは特にない。
僕は改めてゆっくりと戦闘用装備をインベントリから取り出し装備する。
頭部装備『ディグニスメタルヘルム』、胴体装備『ベイランシルバーアーマー』、足装備『ベイランシルバーグリープ』、腕装備『ベイランシルバーガントレット』。僕の持つ装備の中で最も防御力の高い代物だ。
武器には普段はあまり使わない、最大ダメージ重視の両手剣『クレイモア』のAランク鍛冶品。サブスロットに片手メイス『アイアンメイス』と水属性に中耐性のある盾『ブルーシールド』を装備する。
防御重視の装備で戦闘不能を予防し、それでいてできる限りの最大火力で極力早く敵を倒すことを目的としたスタイルだ。
準備完了。
……よし、行くか。
ダンジョンの中は赤茶けた石壁の所々に松明の掲げられた味気ない通路がしばらく続く。敵の姿も無いまま、一人孤独に進む。
やがて鉄格子の扉が目の前に見えてくる。格子の向こうの部屋には、剣と盾を構えた人間の体に蜘蛛の顔をしたモンスター『スパイダーウォーリア』が二匹うろうろしていた。こちらには気づいていない。
格子を上げて部屋の中に侵入すれば敵は僕の存在に気づいて戦闘が開始されるだろう。
敵は強い。ちょっと油断すれば圧倒的攻撃力で瞬殺されるはずだ。そして僕は少なくない経験値とお金をむなしく失う。
それは嫌だ。気合いを入れて挑まなければ。
ふう、と一息ついてから、僕は一気に部屋の中へ突入する。
走り出したままの勢いを乗せて、まず近くにいたスパイダーウォーリアにクレイモアを突き立てる。そのまま念じ、スキル『ハイスラッシュ』を発動させる。
刀身に力が宿り、そのまま剣を振り払うことでスパイダーウォーリアの体が吹っ飛んでいった。
僕のハイスラッシュのスキルランクは15ランク。現状では最高ランクに当たる。
ステータスのSTR値を500パーセントに換算してダメージを与える攻撃スキルだ。隙が大きいため状況を選ばないと使えないが、先制攻撃ならほぼ確実に決まる。そのため近接タイプの必須スキルとなっている。
ダメージ表示は三千ほど。見事に命中こそしたものの、しかしHPゲージは四分の一も減っていない。あと四発決まれば倒せるが、まあそう簡単にはいかないだろう。
転倒から起き上がったスパイダーウォーリアが剣を構え直す。もう一体のスパイダーウォーリアは、こちらに気付くことなく部屋をうろうろしている。
ゲームシステム上、このモンスターのAIパターンではプレイヤー一人に対し一体ずつしか襲ってこないのだ。僕が攻撃を誤爆させない限りは落ち着いて、目の前で剣を構えてこちらを見ているこのスパイダーウォーリアとだけ戦える。
しかし落ち着いて考えるとシュールな状況だ。まあ、とっくに見慣れてしまったが。
僕は誤爆しないように、こちらをターゲットしていない方のスパイダーウォーリアから距離を取りつつ、ターゲットしている方のスパイダーウォーリアを部屋の隅へと誘導する。
武器を持ち換えて、ブルーシールドで敵の攻撃をスキル『ディフェンス』で防御する。スキルランクは9なので、敵のATK値が200ポイント減った状態でダメージ計算が行われる。
それでもダメージは充分大きい。だがびびってはいけない。
クレイモアに持ち換えて、敵の背後に回り込む。通常アタックで一閃、更にスキル『スピニングスラッシュ』で連携攻撃。スキル効果によって、再びスパイダーウォーリアは転倒する。
続けてそこへ再びハイスラッシュを叩き込むと、残りライフがおよそ半分まで減った。
……よし、いける。
立ち上がったスパイダーウォーリアの攻撃をディフェンス、そして回り込んでアタックからスピニングスラッシュ、続けてハイスラッシュへの連携。
定番の攻略パターンだ。タイミングが合わないと上手く繋がらず手痛い反撃を食らうのが危険だが、大ダメージも狙うこともできる。
僕は慎重、かつ大胆にパターンを繰り返し、時折HPとスタミナをポーションで回復しながら二体のスパイダーウォーリアをなんとか撃退した。
合計経験値は8400ポイント。かかった時間で割っても普段よく行く狩り場よりはずっと効率が良い。
だが、かったるい。
硬い敵は、相手にしていてあまり楽しくない。
ハイスラッシュ一発でずばずば沈んでいくくらいが僕にとっては爽快なのだけれど、そういう弱い敵は経験値も少ない。悩み所である。もっと強くなれればいいのだが。
部屋の中のモンスターが全滅すると、鉄格子が勝手に上がって次の部屋への通路へ進めるようになる。この先に進むほど敵はもっと硬くなるだろうし、攻撃も強力になるだろう。果たしてどこまでいけることやら。
しかし僕の無茶なダンジョン挑戦は、すぐに大きな転機を迎えるのだった。
変わり映えのしない通路を進み二つ目の部屋の前にたどり着く。格子の隙間から部屋の中を覗いてみる。
あれ?
敵がいない。
透明化能力を持つモンスターはこのダンジョンにはいないはずだが、はて。鯖落ちかな。
格子を上げて部屋の中に侵入するも、やはり敵の姿はない。
モンスターの行動を管理するサーバーに通信障害が発生すると、モンスターが一時的に出現しなくなることがあるのだ。たぶんそのせいだろう。
こうなるともう待つしかない。肩を回したり屈伸運動をしたりしながら時が過ぎるのを待つ。
およそ一分ほどで、変化が起こった。
「でっででーん! おめでとーございまぁーす!」
馬鹿っぽい大声が響いた。
突然のことに僕は肩を大きく震わせる。
慌てて辺りを見渡すが、部屋の様子に変わりはない。
しかし、
「はーい! どーぉもー!!」
僕の目の前に突如、小人が出現した。
僕の顔ほどの大きさをした、羽の生えた小人。
いわゆる妖精と呼ばれていそうな可愛らしい姿であった。
だがあいにく、このゲームに妖精的な存在はいない。いないのだ。
じゃあ……何これ。
「はい! 良いねその顔! 世界観あってないし無意味にテンション高いし、ウザッ! 何こいつ! って言いたげなその顔! サイコー! さすがですねライオさんッ!」
やかましい妖精さんが僕の名前を呼んだ。
ゲームだから目の前のキャラクターの名前がわかるのは当たり前なのだが、なぜかこの妖精さんに名前を呼ばれるのは不自然に感じられた。
それに、僕からはこの妖精さんの名前が見えないし。本当に何なんだこれ。
「実はですねえー、今日はライオさんに特別なプレゼントがあるんですよ! 素晴らしいアイテムですよ! どうしてあなたに? って言いますとぉー、ま、ただのきまぐれでえーす! 単に運が良かったと思ってくださいねー!」
……プレゼント?
僕に?
運が良かった?
「はいどーぞー! インベントリを見てくださいねー!」
僕は頭の処理が追い付かず、つい言われるままにインベントリを開いてしまう。
見慣れないアイテムが、いつの間にかそこにあった。
アイテム名は『EJ94リング』。
ポップアップして表示された説明文は、文字化けしていて読むことができない。だがその文末に書かれている赤い数字には、覚えがあった。
アイテムを装備した時、何らかのステータスが上昇する場合はその数値が赤く表示され、下降する時は青く表示されるのだ。
つまりこのEJ94リングなるアイテムを装備すると、いくつかのステータスが上昇するというわけだ。
何の数値が?
たぶん、全部が。
赤い文字列は読めないが、それが九行あることはわかる。
恐らくHP、MP、スタミナ、STR、DEX、INT、LUC、DEF、AGIの九つを表している。このゲームに上昇するようなステータスはその九つしかないのだ。
そしてそれらの文字列の右端には、それぞれ9999の数字が並んでいる。
九つのステータスが、それぞれ9999ポイント上昇する装備アイテム、というわけだ。
狂ってる、としか言えない。
僕の現在ステータスで最も高いのがSTRの278ポイントであることから、そのおかしさは察してほしい。
最強クラスの廃プレイヤーによるネット掲示板や個人ブログなどでのステータス自慢でも、700に届くか届かないくらいであるのに。
……て言うか上限は999だと思ってた。
文字通り、桁違いの性能というやつである。
「見ましたかー? 見ましたねー! そのアイテムをですねー、あなたにプレゼントしちゃいまーす! おめでとーございまーす!」
相変わらずバカっぽい調子で妖精さんはそう言った。
いや、て言うか……。
「なんで?」
僕は妖精さんに対し、この時初めて口を開いた。
そしてそれに対し妖精さんは、生きたリアクションを返してくる。
「はいよくぞ聞いてくれましたぁー! それはぁー……特に意味なんてないんですよー!!」
……?
「これはですねえ、私達からの気まぐれ。思いつき。その場のノリ! そんな感じのあれで、全てのプレイヤーから無作為に選んだあなたにこのアイテムをプレゼントしちゃおうと思っただけでーす! 何度も言いますがあなたは運が良かっただけでーす!」
態度や言動もさることながら、僕の前に現れた理由までもバカっぽかった。
思いつき? 無作為に選んだ?
なんだそれ。
「このアイテムをどう使うかは、あなたの自由でーす。あなたがこれを使って何をやっても別にアカウント凍結したりとかはしませんし、ウイルスとかも仕込んでませんので、アイテムを使ったからってクライアントやPCが壊れたりとかもしません! お気軽に、ご自由にどうぞー!」
……おかしなことを言う。
アカウント凍結しない?
と言うかそれができるということはつまり……
「君は、運営の人なの?」
「そうですよー! 胡散臭いなら公式サイトにログインしてからお問い合わせフォームに『EJ94リングについて』とでも書いて送信してくださーい。ちゃんと返信しますからー! そしたら証拠になりますでしょー?」
どうやら本当に運営側の人で、この狂ったアイテムを作ったのも本当らしい。それが僕の手に渡ったのも。
……ならば、今の内にいくつか聞いておくべきだろう。
いまだ混乱している頭を頑張って働かせ質問をひねり出す。
「……これ、説明文バグってるんだけど」
「正規のアイテムじゃないですからしょうがないですねー! でもちゃんと効果はありますよー! 装備したらステータスを見てくださいねー! びっくりしますから!」
「いや効果は大体想像つくけど」
「そうですか! ああそれと、別に一度装備したら二度と外せない呪いのアイテムとかそういうこともないですので、安心してくださいね! さっきも言った通り不具合も起きないはずです!」
ステータスが異常上昇する非正規アイテム。それを運営の人間が問題はないと強調しながら、適当に選んだプレイヤーへ押し付ける。
その流れにおかしさを感じないほど、僕はお気楽ではなかった。
「……僕にこれを持たせて、どうしたいわけ?」
僕は問いつめた。
そこには必ず意図があるはずだと思ったから。
「さっきも言いました通り、ご自由にしてくださーい」
しかし返ってきた言葉は、さっきと同じものであった。
「それじゃそろそろ私は消えますね、さよーならー。今後とも、レヴァイアサンアークオンライン・VRをよろしくお願いしまーす!」
「え、あ、ちょっ……!」
公式サイトの運営からのお知らせメッセージの末尾に必ず載っている定型文を言い残して、その妖精さんはあっさりとワープ時のエフェクトを残し消え去ってしまった。
残された僕は呆然とする。しかしその内に気を取り直し、じっとインベントリに現れたそのアイテムを見つめた。
不安を抱きつつもつい誘惑に負け、EJ94リングをアクセサリ枠に装備してしまった。あくまで、検証としてだ。
すると本当に、九つ全てのステータスが9999の値に変更された。
元のステータスが加味されない辺り、これが上限値らしい。
装備を外すとステータスは見慣れた数値に戻る。
もう何度か装備し直しても、それは変わらなかった。
効果は、本物らしい。
こうして僕は、この世界で最強になれるアイテムを入手してしまったんだ。




