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第13話 遥かなる深淵へと

 三原香奈美は耳に添えていた携帯電話を離し、机に置いた。


「今日も出ないかー。ほんっとに強情だねえ……」


 一度だけかかってきた、彼からと思われる見知らぬ不在着信。

 香奈美はそれから毎日のように、その番号へ電話をかけ続けていた。

 しかし、出てもらえたことは一度もない。

 そんな日々が、もう二年近く続いている。


 あの日病院に行っていなければ、いや、予約の時間にあと一時間でも遅刻していれば、彼からのたった一度の電話に出ることができたのに。

 話をすることが、できたのに。

 そんな後悔が彼女を突き動かしていた。


「着信拒否はされてないっぽいんだけどなー」


 だからこそ、いつかは出てもらえるのではないかと電話をかけ続けてしまう。

 未練がましいとは自分でもわかっていたが。


 香奈美はPCを立ち上げる。ネットに繋ぎ、某巨大匿名掲示板から目当てのスレッドを開いた。


【RAOVR】ライオさまの果てしなき戦いを見届けるスレ64【ラー鯖】


 ネットウォッチ板にあるオンラインゲームプレイヤーの晒し系スレッドの一つだ。個人でスレッドが立つのは割と珍しいが、ある意味当然とも言えた。

 異常に高いステータスを持ち、孤独に最凶難易度のダンジョンで戦い続ける謎のプレイヤー。

 彼のその行動は、他のサーバーのプレイヤーからも自然と注目されるようになっていた。


 アスクレプオスダンジョンは並のプレイヤーではろくに進行することもできず、ライオのいるような深い階層にまではとてもたどり着けやしなかった。

 しかし発想の転換と言うべきか、ライオのすぐ後ろについていき、ライオ自身にモンスターを全て倒してもらうという手段を取ることで、ライオと同じ階層に到達するという荒業を思い付いた者達がいた。

 さすがのライオも回復アイテムの補充や装備品の修理、ログアウトなどのためにダンジョンから脱出することはある。そうした時が好機であった。

 ダンジョンに再進入するライオのすぐ後ろにつき、ライオの倒したモンスターがリポップする前にダンジョンの奥へ進む。

 そうすることでようやくモンスターと戦うことなく彼の行動を近くで観察することができたのだ。たまに狩り損ねたモンスターに死亡させられることもあったが。

 そうやって彼らは自分たちが見聞きしたライオの行動をスレッドに逐一報告していたのだ。


 ライオもついてくるプレイヤー達に何かを言ったりすることはなかった。それどころか、ドロップしたアイテムで不要な物は彼らに好きに拾わせたりもしていた。

 そうした圧倒的な強さと気前のよさ、誰かと馴れ合うことをしないその姿には、取り巻きとも揶揄される信奉者がつくようになった。


 スレッドは今日も活動報告とそれを求める者たちで賑やかだった。

 香奈美はライオに再び出会ったり話をすることはできなくとも、そうやって彼の行動を垣間見れることを新しい楽しみにしていた。


「お」


 新しいレスがつく。


>【速報】150層到達


「おお、ついに」


 アスクレプオスダンジョン、百五十層。

 百層の次に区切りの良い数字の階層であり、そここそが真の最終層かと言われている階層であった。


 ここにたどり着くまで、どれだけの時間を費やしただろうか。

 長い戦いだった。全てを攻略し終えた時、彼は何を思うのか。

 スレッドはそんな話題で埋まっている。

 

 香奈美も考える。けれど、浮かぶ答えは少々不安を抱かせるものであった。


 ライオが戦い続けるのは目的があるからではない。

 あるのは、力だけ。

 香奈美はそう考えていた。


 結局あの力の正体はわからずじまいだったが、とりあえず今のライオはその力を振るうことに抵抗を持っていないようだ。

 持っていないどころか、力の限界を試しているようにも思える。自分がどこまで戦えるのか。と。

 そう。もはやかつての自分のような、ちんけなストレス発散が目的などではないのだ。


「男の子ってのはそういうもんなのかね……」


 飽くなき戦いの執念、とでも言うのだろうか。

 戦うために戦い、強さに限界を決めない。


 だからこそ、不安だった。

 全ての敵を倒し、自分より強い敵がいなくなった時、戦う理由がなくなった時、ライオは一体どうなってしまうのだろうかと。


 ……それともひょっとして、その時にこそいよいよ自分の電話を受けてくれると決めていたりするのだろうか。


「……まさかね」


 さすがに自分に都合の良すぎる妄想を、香奈美は自分で笑った。

 とりあえず、今はもう行くことのできないあの世界で孤独に戦う彼のために、ここは一つお祈りでも捧げてあげようかと思うのだった。




   ◇ ◇ ◇




 ボスモンスター、星天神ゾディアーク。


 アスクレプオスダンジョン、百五十層に出現したボスモンスターであった。

 宙に浮かぶ手も足も無い体から伸びる、長い尻尾を持つモンスター。その尻尾がうねうねと、意思を持つように動いているのが印象的だ。

 最後の敵にしては、少々シンプルなデザインに思える。

 まあ見た目なんかどうだっていい。


 僕は愛剣を構える。フル改造済みの両手剣、ドラグスラッシャー。

 アスクレプオスダンジョン百層以降で算出される数々の強武器と比べれば正直大したことのない代物であるが、それでも僕はこれを使い続けていた。

 ただしそれ以外の装備は最高級品である。


 胴体装備『プトレマイオスアーマー』、頭装備『プトレマイオスヘルム』、足装備『プトレマイオスグリープ』、腕装備『プトレマイオスガントレット』。

 そしてアクセサリ装備『EJ94リング』。

 ステータスは常に9999で止まったままだったが、これらプトレマイオスシリーズ装備には数々の補助魔法効果が自動で発生する。もっと貴重な装備はあったが、補助魔法はステータスとは別に効果が乗るのでそれを考慮して僕はこれらの装備を選んでいた。


 これだけ揃えても、百四十台の階層はかなり厳しい戦いだった。

 そもそもパーティを組んでの攻略を前提としているんだろうから当たり前なのだが、たとえステータスがカンストしていてもここの敵はボスに限らず相当苦しませてくれた。


 そしてこの恐らく最後となるであろう戦いには、正直勝てないかもしれないとすら思わされていた。

 けれど、僕はもうこれ以外に目標といえるものが無かった。

 だから、挑むことしかできないのだ。




 ゾディアークの頭部に当たる部分に存在する宝石が赤く輝いた。戦闘開始である。

 瞬間、辺り一帯に灼熱の炎が激しく吹き上がった。

 僕は横方向に大きく跳んでそれを回避。

 だが回避に成功した僕に向かって、尻尾がうねりながら迫った。


 初撃は陽動、本命がこれ。


 僕はこれまで培った経験から瞬時に推察する。

 この敵は強大な広範囲攻撃魔法と、それが回避されたところへ放つこの尻尾の二段構えの攻撃で、確実に殺しに来るのだ。見た目もながら戦い方もシンプルだった。

 だが、それゆえに凶悪。

 当然初撃の魔法も陽動のレベルではない威力である。広範囲への攻撃はそれだけで回避が難しいし、威力も尋常ではない。

 そして仮にそれを避けられたとしても、尻尾の一撃。これが来る。


 うねりながら迫るそれは、正確な狙いを定めさせない。確実に先端を迎撃しなければ、しなる体で刀身に絡みついてくるだろう。そうなれば戦闘力を失ってしまうも同然だ。


 僕は意識を限界まで集中させ、AGIの補正を最大限に発揮させる。それでもまだ敵の動きは速かった。

 ならば、僕自身の集中力を高めることでこれに対抗する必要がある。わずかな気の緩みだって持っちゃいけない。


 ぐねぐねと踊る尻尾は全てフェイント。ならば逆に敵が狙いたいと思わせるような隙をあえてこちらから作りそこへ攻撃を誘導させるまで。

 僕は脇の締めをあえて緩め、隙を作る。

 狙い通り、空いた脇腹に目掛けて尻尾が迫った。

 剣を降り下ろす。正面に直撃。

 ……そう思った瞬間、尻尾の先端が突如二股に裂けた。

 剣で斬ったわけではない。これは……。

 蛇。

 蛇の口だった。

 裂けた尻尾の先端が、鋭い牙でもって剣の刀身に噛み付いた。


 その時再び頭部の宝石が輝いた。今度は青。

 僕の周囲に、八つの氷柱が浮かび上がった。

 それらはすぐにも僕に突き刺さらんと、自ら飛翔する。


 僕は魔法スキル、『サイクロンフレイム』を僕自身に向けて発動させた。カンストしたINTのおかげで詠唱時間はほとんど皆無。燃え盛る炎の渦が僕の周囲に現れて、迫る氷柱を溶かし尽くしていく。


 炎が消えると僕は何とか力ずくで蛇の口から剣を引き剥がした。柔軟にたわむ尻尾のせいで上手く力を込められなかったが、成功した。次も上手くできるとは限らないが。

 そこへまた宝石が輝き魔法が放たれる。今度は黄色。

 降りしきる雷の雨。

 僕はダメージを受けながらも、今度はあえてその雷の雨の中を突き進んだ。

 現状蛇のような尻尾は対策が思い付かない。斬り払おうにもしなやかな体のせいで斬撃の威力はほとんど消されるし、頭を潰そうとしても牙に防がれる。

 それならいっそ、魔法の方をあえて食らっておく方がまだましに思えたのだ。


 僕は全回復ポーションを惜しげもなく使う。高価なアイテムだが金なら散々稼いだ。問題ない。

 第一、こいつより恐ろしい相手はもういないだろうから惜しむ必要がそもそもない。


 雷の雨を抜け、頭部の宝石に向けて思いきり剣を突き立てる。

 アップデートでスキルランク上限が解放されたハイスラッシュを発動させる。ランクは30。倍率は1200パーセント。

 二十万近いダメージが表示され、HPゲージが一割ほど減った。防御力も相当高いらしい。

 ……それでも、やるだけだ。


 再び頭部の宝石が赤く輝いた。炎が迫る。今度は避けずに身構えて防ぐ。攻撃終了と同時にポーション。全回復。

 今度はスキル『アークスラッシュ』を発動させる。剣の刀身に、激しい光が集まっていく。

 MPとスタミナを大量に消費して、STR、DEX、INT、LUC、DEF、AGIの六つのステータス合計値でダメージ計算する、まさに僕のためにあるような必殺スキルだ。

 唯一の弱点は発動前後の大きな隙だが、それでも試す価値は十分あった。

 伸ばされる尻尾。しかし真っ直ぐには飛んでこない。フェイントのためにうねっているせいで余計な時間がかかっていたのだ。その隙にチャージが完了する。

 巨大な光の剣が、降り下ろされた。


 轟音と共に光がおさまっていき、やがて敵の姿が見えてくる。当然一発で倒しきれるとは思っていなかった。

 ダメージ表示は眩しくて見えなかったので、改めてHPゲージの残量で確認する。削れているのは、二割ほどだけだった。

 まあ、驚きはしない。


 HPゲージが一本だけだったなんて、初めから思っていなかったから。


 敵のHPゲージの色は、赤からオレンジに変わっていた。見間違いではない。

 これまでの戦いでも何度かあったことだ。

 百二十層のボスとの戦いで、HPゲージが無くなったと思ったら一気にそれが全回復した。そしてよく見れば、ゲージの色が変わっていた。

 つまり複数のHPゲージで現在HPを表示しているのだ。あの色が色素表に添って変化していき、最終的にまた最初の色である赤に戻った時が、最後のHPゲージとなるわけだ。

 やつのそれは赤からオレンジへと変化した。ほとんど変わっていない。となるとHPゲージは何本あるんだか。想像もしたくない。

 それでもやる。

 僕は気を引き締め直し、剣を握る指に力を込めた。




 そしてまた更に延々と、真正面からのぶつかり合いとポーションでの全回復。時折死亡してはリヴァイブクリスタル。そんな戦いを何時間か続け、ようやくHPゲージが再び赤になったのを確認した。どこか懐かしさすら感じる色であった。

 何度も何度も見ていく内に、尻尾の蛇の攻撃パターンはだいたい読めるようになってきた。今ではほとんどの攻撃を捌ける。パーティで戦ってたらこうはいかなかっただろう。

 問題は魔法。HPが減るにつれて、強力な魔法を断続的に使うようになっていった。広範囲魔法を連続で放ち、回避しきれなくなった所へ蛇が牙を剥いて襲ってくる。

 そうなればたとえ動きを読めていたとしても、回避することは難しくなる。


 僕は段々とジリ貧になりつつあった。

 回復ポーションも残り少ない。リヴァイブクリスタルに至ってはもうゼロだ。ドラグスラッシャーはとっくに壊れ、泣く泣く予備に持っていた武器に変更した。そちらの方が性能は上だったが。防具はまだかろうじて耐久が残っている。こっちは大丈夫だ。

 しかし何よりもそれ以上に、精神的な疲れが大きかった。何時間も戦い続けているんだから当然だ。たとえゲームの中だからって限度というものがある。


 だから……これで、最後だ。

 迫り来る魔法の猛攻を回避し続ける。次に尻尾が来る時がチャンスだ。

 炎の渦。氷の柱。雷の雨。風の大鎌。岩の牢獄。闇の奔流。

 立て続けに放たれる広範囲魔法を、僕は部屋の中を縦横無尽に飛び回って回避し続ける。ギャラリーが巻き込まれていたが、知ったことじゃない。

 そしてようやく、尻尾の攻撃が来た。

 僕はアークスラッシュを構える。発動までに尻尾は届かない。これを決めれば終わりだ。


 だがしかしここに来て、HPが極限まで減った状態で初めて、行動パターンに変化があった。

 尻尾が真っ直ぐ、一直線に伸びてくる。

 蛇の口が開き、牙がぎらりと光った。


 速い。

 避けられない。


 僕は光を溜めつつある剣に、そいつをわざと噛ませた。

 これならスキルはまだキャンセルされない。それでも時間の問題だが。

 このまま剣を奪われるか、噛まれたまま強引に降り下ろして、とどめをさすか。


 根比べだった。


「……うおおおおおッ!!」


 そして、光が放たれる。




 ざらざらとした粒子になって消滅していくボス、星天神ゾディアークの姿がそこにあった。

 僕はそれを、荒い息遣いとかすれる目で見つめていた。


 僕は、勝ったんだ。


 ゾディアークが消滅しきった瞬間、辺りにとんでもない量のゴールドが撒き散らされていく。

 じゃらじゃらと金属のぶつかり合うけたたましい音が耳に響く。

 ギリギリで保っていた意識がそのやかましさで飛びそうになる。


 けれど、もう少し。

 金貨の山の頂に、何かがあったのが見えた。

 ボスモンスターのレアドロップアイテムだろう。


 お金はいらない。

 せめて、あれだけは……。


 僕は金貨の積み重なるその上をよろよろと進んでいく。

 踏み出す度に足元の金貨が崩れ、バランスも崩しかける。


 もう、少し……。




 それは、黒い槍だった。

 長い柄にはヒレを持った蛇が巻き付いているような美しい彫刻が刻まれ、刀身には嘆き苦しむ竜の頭が同じように刻まれていた。


 ああそうか。これが……レヴァイアサンなんだ。




 僕はそれに手を伸ばした。

 しかし、足元のバランスが崩れた拍子に転倒してしまう。


 そしてそのまま、起き上がれなかった。


「意識レベルが低下しています。これより安全確保のため、仮想世界からの接続を切断します。ご了承ください」


 僕の頭の中に無機質な声が響いた。

 ヘッドギアからの警告メッセージだった。


 待って。

 待ってくれ。

 もう、少しだけ……。


 しかし思いはむなしく、僕の意識は真っ暗な世界に落ちていくのだった。




   ◆ ◆ ◆




>【速報】勝った


「おっ?」


 香奈美は新たに書き込まれたレスに反応する。

 勝った、というのは、百五十層のボスをライオが倒した、ということだろう。


>きたああああああ

>キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

>うわあああああ


 スレッドを見ていた人たちの歓喜の書き込みと共に、香奈美は他人のことながら嬉しさがこみ上げてくる。


>やばいライオさまアイテム拾わないで落ちちゃった


 しかし新たに書き込まれたレスに、思わず息を呑む。


>落ちたってどういうこった?

>拾わなかったっていらないってこと?

>なわけねーだろハゲ

>は?誰がハゲだ氏ねよ


 といった外野の書き込みが溢れていく。


>ドロップしたアイテムと老として手伸ばしたらぶっ倒れてそのまま落ちた

>え?

>いみふ

>とりあえずみんなでアイテムとゴールド回収してる ログアウトしちゃたみたいだから所有権ないぽ


「……」


 香奈美はしばしその文面から考え、キーボードを叩いた。

 レスを送信。


>気絶しちゃったんじゃね?


>それだ

>それで強制切断か。そりゃあんだけ戦ってりゃあな。

>そんな機能あるのか

>知らなかったそんなの……


 香奈美の書き込みに同意する内容が続いていく。


>とりあえず現地で相談してアイテムと金はライオさま復活したら渡すことになったわ


 新しいレスがつく。

 現場ではどうやらボスを倒した後にドロップアイテムを回収する前にライオが気絶落ちしたらしい、と香奈美は状況を理解する。


>ネコババすんなよ?

>しねーって! てかお金がヤバイちょと大杉る

>なんぼ?

>500Mはあるんじゃ ちょっとわかんにあ

>やべえなにそれwwwww

>それより下の階層は? まだあんの?

>見てくゆ


>【速報】なかった


>まじか

>ついにか……

>オワタ……


 新たな書き込みで、アスクレプオスダンジョンの最終層、それが百五十層であることが確認された。

 やはり、これが彼の戦いの果てだったのだ。


「そっか……」


 香奈美は息を吐く。

 これで、終わり。


 ならば、とわずかに期待して携帯電話を手に取った。発信履歴から彼の番号を選んで、

 ……押せなかった。


 今は、本当に気絶しているところなのかもしれないんだ。

 そんな時にかけるわけにはいかなかった。ごく常識的に考えて。


 PCのモニターに向き直る。

 また新しいレスが書き込まれていた。


>レヴァイアサン

>星の世界からやって来た侵略者たちは

>海蛇の神が自ら侵略者たちの神に食われることによって

>ダンジョンの奥へと封じ込めることに成功した

>だが今この時

>勇者たちの力によって侵略者たちの神は討たれ

>この世界に再び神は解放されたのだった


「……ああ、そういう設定なんだ」


>なにこれ

>急にポエムが来た?

>ちげえw ドロップしたアイテムの名前と説明文だよw

>で、効果は?

>なにもない。装備もできないし

>え、ショボ……

>オメガの勲章みたいなもんだろ

>なるほど

>報酬はこのお金ってことで……的な?


 RAOVRのメインストーリーを気にしているプレイヤーはさほど多くもない。

 旧作のレヴァイアサンアークシリーズを逐一プレイして知っていれば、かなり世界観の根幹に関わるようなネタだったのだが、それも理解できたプレイヤーはあまりいないのだった。


 勝利の果てに得たものとしては、あまり大層なものとは言い難かった。

 それでも、これは彼が多くのことを放り捨てて得たものだった。

 香奈美はそれを、馬鹿にしようとは決して思えない。


「……おつかれさま」


 広いこの世界のどこかにいるであろう、名前も知らない彼に、香奈美は小さく言葉を送った。


 届いているとは、思えないけれど。

 それでも。

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