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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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殺してしまった勇者を操るしかなくなったネクロマンサーの話

掲載日:2025/11/26

 ──大変なことになった。


「死んでる……マジで死んでる……」



 僕の目の前には、ついさっきまで偉そうにしていた実力不足な勇者さまの死体が転がっていた。



 その勇者さまは、僕の幼馴染だ。


 ある日。

 森の中にひっそりとある我が家にいきなり訪れ、


「どいつもこいつも怖がって一緒に行かないか、行ってもすぐ死んで使い物にならなくてさ。まったく。だからお前くらいしかアテがなくなったんだよ」


 一気にまくし立てると、嫌がる僕の手を引き、無理やりこんなところまで連れてきたのだ。


 もし断ったら、僧侶のふりをしたネクロマンサーだということをバラしてやると言われては、従うしかない。

 泣く泣く同行せざるをえなかった。



 その、こんなところとは何処かというと。


 一番奥に、悪しき存在を滅ぼすための聖剣が岩に突き立っているといわれている、試練のダンジョン。

 まことの勇者だけが、その剣を引き抜き、扱うことができるとか。

 最近王国を襲っている炎のドラゴンを倒すにはその剣が絶対に必要なのだと、まだ生きていた頃の幼馴染は力説していた。


 ……本当にこの幼馴染に、それが抜けたんだろうか。

 こんな、人を脅して利用する奴が、まことの勇者なはずがないと思うんだけどな……いくら天に選ばれたとはいえ。


 とまあ、疑問はさておき。

 それがある部屋の前に、僕と幼馴染(死体)が今いるのである。



 ──順調に探索が進み、聖剣のあるという部屋の前まできた僕と幼馴染の前に現れた、最後の難関。


 聖剣を守る魔獣──五つの頭がある巨大な蛇。


 幼馴染の攻撃があまりダメージを与えられず、焦った幼馴染に命令されて僕が放った禁忌の魔法。


 即死魔法。


 それが反射されてぶち当たり、幼馴染が死んじゃった。

 間接的に殺してしまった。

 僕にも反射された魔法が飛んできたが、ネクロマンサーだからそんなの効かなかったのである。



 しかし一難去ってまた一難。


 即死魔法は効かずとも、魔獣の牙は効く。

 このままだと、僕はこの魔獣にむごたらしく殺されてしまう。

 他に仲間はいない。


 そこで、死んだ幼馴染を、できるだけ魔力を注ぎまくった動く死者にして、魔獣と戦わせた。

 リミッターが外れ、しかも魔力で強化されまくった勇者(死体)の猛攻に魔獣は太刀打ちできなかった。

 かなり食い下がりはしたが、やがてあっさりと倒れた。

 僕は窮地を脱したのだ。


 しかし──この後どうすべきか。


「どうしよう……」


 幼馴染が聖剣を僕と取りに行ったのは、みんなが知っている。

 なのに僕だけ帰ってきたら絶対に怪しまれる。


「ぐぬぬ……どうしたものか…………」


 腕組み、しばし考える。


「……よし」


 もうこうなったら、幼馴染を操って、やれるとこまでやるしかない。

 それが頓挫したらこの国から逃げよう。


 方針(と呼べるほどのものではないが)は決まった。

 迷いが消え、魔獣が門番をしていた部屋の中へ入る。


 一番奥にあった岩に、剣が突き刺さっていた。

 あれが噂の聖剣だろう。


 その前に、心臓も肺も動いていない、それどころか首がもげちゃってる幼馴染が立つ。

 果たして、いくら勇者とはいえ、死人に聖剣が抜けるのか。

 無理だと思うがやらせてみる。

 駄目なら国外逃亡だ。さよなら祖国。


 デュラハンみたいに首を小脇に抱えてる幼馴染が、剣に、ゆっくりと手をかけていく。

 まあ僕がさせてるんだけど。

 抜く。



 抜けた。



 首無し勇者が聖剣を抜いた。

 これ、いろんな意味で快挙なのではなかろうか。

 ……まことの勇者であるなら、性格どころか、生死すらどうでもいいんだな、この剣……。



 ──聖剣を持ち帰ると、そのまま流れるように王宮へと連れていかれた。僕も。


 初めて見たこの国の王様から、聖剣をみごと持ってきたことへのお褒めの言葉と、それでどうか炎のドラゴンを倒してくれ、そなたたちならできると激励された。

 されたくなかった。


 勇者が死んでいることには、誰も気づかなかった。


 ありったけの魔力をつぎ込んだせいだろう。幼馴染の見た目は生きていた頃とほぼ変わっていない。肌つやも生前と同じだ。

 嬉しい副作用だった。

 首がもげてるのは、どうにか修復した。

 みんなの希望の星が己の首を持ってたら大変な騒ぎになる。治す以外の選択肢はない。

 ゾンビを治すなんてのは僕としても初めてのことだから四苦八苦した。

 


 炎のドラゴンは、今は西の山にいるという。

 できれば、すぐに向かいたいが……先に、やることがある。


 死者というのは、基本形に、動く動かないにかかわらず、火に弱い。

 そして、これから倒さねばならないドラゴンは炎を吐く。

 相性は最悪だ。

 なんで雷や氷のドラゴンじゃないんだよと悪態をついても事態は変わらない。


 なので幼馴染を火に強くする。


 具体的にどうしたかというと、火の魔法を使えなくなる代わりに、火によるダメージを受けない──嫌炎の呪いをかけたのだ。

 自分もその呪いのかかったローブを着込む。

 人間も火に弱いからね。生き物は大抵そうだけど。


 準備、これでよし。

 いざ西の山。





「うっわ……」


 特にこれといった障害もなく、炎のドラゴンの寝床まで到着したのだが。


 でかい。


 つま先立ちしようが肩車しようが、頭まで武器が届かない。

 舐めていた。

 聖剣の部屋を守っていたあの魔獣よりは強くてデカいだろうとは思っていたが、まさかここまでとは……やはり最強の生物か……。


 どうしたらいいのか途方にくれ──てる暇はない。

 炎のドラゴンは、もう目の前にいるのだ。

 やるしかない。やらないと死ぬ。


 とりあえず何かやらせてみようと、幼馴染を、ドラゴンのほうに向かって聖剣素振りさせてみた。

 聖剣ってくらいなんだから、なんか不思議なこと起きるだろ。起きてくれ。



 なんか出た。



 三日月みたいな形の光が飛び出てドラゴンに命中すると、当たった部分ががっつり斬れた。

 なるほど。

 ドラゴン退治に必要なわけだ。

 こんなことができるなら、そりゃ取りに行くべきだよね。


『グアア…………!』


 ドラゴンが、怒りと苦痛に叫ぶ。


 さあ。

 ここからが本番だ。





 ……戦いは、長期戦となった。


 詳しいことははしょるが、勝ったのは僕と勇者さま(故人)だった。

 まあ僕がこうして生きてるんだから、そんなの当たり前ではある。


 途中、生前の幼馴染とよく張り合っていたという貴族の坊っちゃんが配下の騎士たちを連れて参戦したが、美味しいところを頂いてやるぞとかほざいていたものの、炎の息をまともに喰らい配下もろともバーベキューになったりもした。アホか。

 ちなみにそのバーベキューたちだが、僕を守る肉壁として、ありがたく使わせていただいた。


 そうして、傷を無数に負い、動きも次第に鈍り、弱っていく炎のドラゴンの首を──激しい動きをしたせいでまたもげた首を戦いの邪魔にならないように僕が抱えてあげてる──死人勇者がついに、



ズシャアアアッ!!!



 断ち切ったのだった。


 ぐらり、ぐらりと、揺れ、

 やがて、横倒しになり……倒れる巨体。


 首の無い勇者と、首を切断されたドラゴン。

 肉壁の役割を果たし、ズタズタにされたバーベキューたち。

 勇者の首を抱えるネクロマンサー。



 酷い絵面だが、なんにせよ、全ては終わった。

 ドラゴン退治は完了したのだ。



 しかし、

 また近いうちに、今回と似たようなことが起きないとは言えない。


 凶悪なドラゴンが一匹だけのはずもないし、この大陸の西にある国々では、魔族との戦いがだんだん激化してるとか。

 聖女によって封印された最高クラスの吸血鬼が、長き眠りからさめたなんて話も、流れてきている。

 世界が、きな臭くなってきた。


 今はまだ深刻な事態ではない。

 でも、いつか来るかもしれないその時のために、僕は幼馴染を埋葬ではなく、保存しておくことにする。

 勇者の力を、また必要とされる日が来る予感がするのだ。


 僕が、死霊魔術に使う材料などを保管するための地下室。

 そこに、肉体が腐敗や劣化しないよう、封印魔法をいくつもかけて、幼馴染をベッドの上に寝かせておいた。

 その横の台座に、聖剣と頭部を置いて。


 幼馴染は、眠っているように死んでいる。

 口の悪さに反して整ったその容貌は、胴体から離れていてもなお、生きているかのような血色を有している。



 こうして。



 この国を救った女勇者は、炎のドラゴンを退治したのち、表舞台から姿を消して──僕の家で死の眠りについている。

 新たな脅威が現れる、その日まで。

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