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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

おぼっちゃまはいずこへ

作者: 沖田 楽十

 あたしはリリア。たった一人で、魔物の軍勢から国を守り切った過去を持つ女性の元で、ひょんな事からメイドとしてつかえている。

 仕えてから5年。ご主人様が、何処からか拾ってきたという少年も御屋敷で暮らす様になってから15年。

 少年…から、青年へと成長を遂げた彼の護衛も兼ねて、一緒に散歩をしていたある日。あたしの目の前で、彼が突然に姿を消した。

 えっ?と思って隣へ視線を向けると、彼の消えた地面には大人1人分ぐらいが通れそうな穴が空いていた。

 彼が消える直前に、ボコっと、音が聞こえていた気が…。

 サーっと血の気が引く様な感覚を覚える。



「ご主人様に……いや。コレは、あたしのミスだ。彼女に、心配を掛けさせるわけにはいかない…」



 死に掛けのあたしを救けてくれた女性ひとに、これ以上の仇を返すわけにはいかない。

 ご主人様にバレずに行方を晦ましたおぼっちゃまを見つけ出し、無事に送り届けなきゃ…っ!!そうと決まれば…!と、あたしはその穴の中へと飛び込んだ。




 *




 ザワザワ



「……」



 一言でいえば、騒がしかった。

 穴の中だから、暗闇に覆われていると思ったが…。まさかの逆である。

 日光は沢山の大きな壁に覆われていて見えないが、青空により視認が出来る状態であった。

 ……ん?青空??



「……穴の中って、洞窟みたいに暗いものじゃないの?」



 それとも地底人が地上の生活に憧れて、擬似の青空をつくったとでもいうのだろうか?

 だとしたら、地底人はかなりの技術が進歩しているという事になる。



「ご主人様に、地底人との交流を提案してみよっかなア」

「地底人!?!何処ッ!?何処オっ?!」



 独り言を聞かれたらしく、あたしの言葉に反応して地底人の一人が話し掛けてきた。相手にするのも面倒くさい為、聞こえないフリをして、声の持ち主に背を向けた侭、歩き出そうとしたら、馴れ馴れしく肩を掴まれる。



「その汚い手をサッサと肩から退かせ。さもなくば、如何なるか思い知らせてやろうかア?」


「女の子が、そんな物騒な事を言わないでさァ、地底人が何処にいるのか教えてよ?」


「……そうか。そんなに、痛い目にいたいらしいなアっっ!?!!!」



 未だに肩を掴んでる地底人のその手を、上から押さえ付ける様に捕まえて、今から最期を迎えるそいつの顔を拝もうと振り返る。



「……ぼっ、ちゃま…?」



 地底人は、あたしのよく知る青年に似て…いや。彼で間違いなかった。


 *


 ぼっちゃまと話してて気付いたのは、如何やら彼は、あたしやご主人様との記憶がゴッソリと抜けているっぽかった。その代わりに、“とうきょう?”とかいう名の場所で、地底人達が築き上げた社会の中で生きてきたーーという記憶に差し替えられている。

 そして……



「へい、其処の彼女っ!俺と今夜、ドッキングしない?」



 社交界などで女性と話す際、いつもドギマギな奥手さは何処どこへやら。通りすがりの女性へ、手当たり次第に声を掛けまくるという、よくいえば積極的、悪くいえば助平すけべえへと豹変ひょうへんしていた。



「ぼっちゃま。先程も話した通り、貴方には帰りを待つ者がいます。あたしと一緒に、帰りましょう?」

「俺もさっき言った筈だぜ?俺には、将来を誓った女がいて、そいつの傍から離れたくない、って」

「なら、如何して道行く女性へと声を掛けるのです?将来を誓った女性がいるのでしょ?なら、彼女を悲しませる様な行いをして、二人の仲を拗らせる様な事をしないのでは?」

「っ……うっ…うっせえな!?男っつうのは、一人の女だけじゃ満足出来ねえんだよッ!だから、どっかの国では、一夫多妻とかっつう、旦那一人に対して、沢山の妻を持てる結婚制度もあるんだ」

「でも、“とうきょう”…でしたっけ?は、その制度がないのでしょ?」

「ッ…」



 ぼっちゃまは、バツが悪そうにそっぽを向く。彼が、都合の悪い時に出る癖だ。記憶がくとも彼で間違いないのだと、確信する。



「ぼっちゃまが何故ここに其処まで執着するのかは解りませんが、先程も言った様に、貴方の帰りを待つ者がいます。あたしと帰りましょう?」



言って、彼の腕を掴んだら、それを払い除けられた。


「……わかった。俺が離れたくねえ女を紹介する。そうしたら、諦めてくれるよな?」

「………えっ?」


此方に背を向けたぼっちゃまは、何処かへと向かって歩き出す。あたしはそれを追い掛けるしかなかった。

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