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魔物と会話ができる隊長ヒメ〜私を追放したら迷宮から魔物が溢れて、国が壊滅するけど大丈夫?〜

作者: イヴ

初投稿です!

私は五十嵐ヒメ、18歳。


5年前、国家上級魔法使い20人による大規模な魔法陣から、異世界に召喚された。


当時の私はまだ13歳。突然、見知らぬ世界に放り込まれ、家族とも離れ、周囲には知らない人々ばかり。すべてを失ったような感覚に襲われ、悲しみに打ちひしがれた。数日間泣き続けたが、涙が枯れ果てた頃、「ここで生き抜かなくては」と覚悟を決めたのだ。この異世界でも、自分の存在意義を見つけなければならない。そう自分に言い聞かせ、生きる決意を固めた。


そして、スキルチェックで判明したユニークスキル『会話』――それは魔物と話すことができるスキルだった。


最初、このスキルにがっかりした。魔物と話せる? そんなスキルで生きていけるのだろうか? しかし、その直後に運命が動き出した。国の周囲に迷宮が突如出現し、そこから無数の魔物が溢れ出しそうになったのだ。恐怖を感じながらも、私は勇気を振り絞り、魔物たちと交渉を試みた。


最初は、その恐ろしい姿に怯え、言葉が通じるかどうかさえ分からなかった。しかし、魔物たちは意外にも理性を持っていた。真剣に話しかけると、彼らは迷宮の外に出ないことを約束してくれた。それ以来、私は迷宮攻略部隊の隊長として、国民が安全に暮らせる環境を守り続けた。


交渉を重ねるたびに、魔物たちとの信頼関係は深まり、5年間、迷宮から一体の魔物も外に出させることなく抑え続けた。国民が平和に暮らせたのは、私のスキルのおかげだと信じていた。


しかし、5年後――


「五十嵐ヒメ、そなたの迷宮攻略部隊長をこの場で解任し、王国から追放とする!」


突然の宣告に、私は玉座の間で硬直した。追放? 今までこの国のために尽力してきた私を、どうして追放するの? 頭が混乱し、国王をただ見つめるしかなかった。


「何て言ったの? 私、耳が遠くなっちゃったみたい。もう一度言ってくれる?」


とっさに軽い調子で返してみたが、国王の顔には怒りが浮かんでいた。


「ふざけるな! 魔物と交渉して迷宮に閉じ込めただと? そんな話、誰が信じるものか! よくも長い間ワシを欺いたな!」


国王の言葉は鋭く私の胸に突き刺さった。欺いた? 私が?


「ちょ、ちょっと待って。私、嘘なんてついてない! 魔物は一体も迷宮から出てきてないじゃん!」


必死に反論したが、国王の目は冷たく曇っていた。


「聖女の結界こそがこの国を守っているのだ。お前の虚言など、誰も信じはしない!」


国王が信じていたのは、迷宮が出現した際に聖女が張った結界だった。しかし、その結界は中級の魔物が集まれば容易く壊れてしまう脆弱なものだった。実際にこの国を守っていたのは、私が魔物たちと根気強く交渉を続けてきたからなのに。


そして国王は苛立ちを隠せない様子で、側近に目配せした。側近が持ってきたのは、私が提出していた調査報告書だった。


報告書

第一回調査:私が魔物としっかり話したから大丈夫! これで王国は安泰だよ!

第二回調査:前回と同じく、問題ナッシング!

第三回調査:もっと骨のある冒険者が来てほしいって魔物が言ってたよん。


国王は報告書を床に叩きつけ、声を震わせた。


「ふざけた報告ばかりだ! 部隊長が魔物と話しているところを見た者はいるか? それに、ヒメが本当に魔物を抑えていると信じている者はいるか!?」


国王が兵士たちに問いかけたが、誰一人手を挙げる者はいなかった。


当然だ。魔物たちと会話しているのは頭の中だけ。だから、外から見れば、私はただ迷宮に立っているだけにしか見えない。誰も私を信じないのは仕方がないのかもしれない。でも、それが私を裏切る理由にはならない。


「見ろ! 誰一人としてお前の話を信じていない! 結局、この国を守っていたのは聖女の結界だったのだ。お前などもう用済みだ、さっさと消え失せろ!」


貴族たちも冷たく私を見つめていた。私は深いため息をついた。もう何を言っても無駄だ。私の5年間の努力が、誰にも届かなかった。


それでも、どうしても諦めきれず、もう一度口を開いた。


「ちょっと待って! 私、魔物と念話で意思疎通してたんだよ! だから、外から見えなくてもちゃんと交渉してたの!」


真剣な表情で説明した。これが伝われば、誤解も解けるかもしれない。だが――


「ははは! 何だそれは! 冗談か? 頭の中で魔物と話すだと? そんな寝言が通じるものか!」


国王は嘲笑い、貴族たちも冷たい笑い声をあげた。その笑い声が、私の心に深く突き刺さる。


「本当なんだって! だから魔物は迷宮から一体も出てこなかったんだよ!」


必死に反論するも、国王の目は冷たく、私の言葉をまともに受け取ろうとはしなかった。


「お前の戯言など、誰も信じん。お前の役割は終わった。荷物をまとめてさっさと出ていけ!」


その言葉は、私を完全に切り捨てるものだった。もう、何を言っても届かないのだと悟った。


「はいはい、わかったよん。じゃあね。どうなっても知らないよん、がんば!」


国王に向かって軽く舌を出し、私は玉座の間を後にした。


荷物をまとめながら、心の奥底に静かに寂しさがこみ上げてきた。


5年間、この国を守るために尽力してきたのに、今やその努力は無駄に思えてしまう。誰一人として、私を信じてくれなかった。信頼していた国王すらも、冷酷に私を切り捨てた。この現実が、じわじわと胸の中に広がっていく。


もうこの国を守る理由は、どこにもなくなってしまった。


荷物をまとめ、リュックを背負った私は、兵士たちに見送られながら王宮を後にした。


外に出ると、待っていたかのように街の人々が集まり、私に罵声を浴びせかけてきた。手には「ヒメ追放」のビラが握られており、それが一枚、風に乗って私の足元に落ちた。そこには、こう書かれていた。「ヒメは嘘をついていた――魔物と話す力など最初からなかったのだ」と書かれていた。


その文字は、私の5年間の努力を全て否定するかのようだった。誰も私の言葉を信じていない冷酷な現実が、改めて突きつけられる。新たに聖女が迷宮攻略部隊長に任命されたと書かれていたが、彼女に本当にこの国を守れるのだろうか?


……そのうちわかることよね。私は小さくため息をつき、足元に落ちたビラを無視して、そのまま歩き続けた。


それから2ヶ月後――


王国は平和を失い、混乱の極みに陥っていた。迷宮から溢れ出た魔物たちが次々に街を襲い、各地で火の手が上がり、民衆はパニックに陥った。聖女が張った結界は、魔物の勢いに耐えられず、あっという間に崩壊。騎士団も力及ばず、次々と倒れていった。人々は逃げ惑い、街は破壊され、王国全体が混乱に包まれた。


玉座の間では、国王が蒼白な顔で震えていた。彼の周りには、もはや希望の影すらなかった。国王は焦りと怒りを露わにし、叫んだ。


「聖女は何をしている! なぜこうなった! 結界を張っておったのだろう!?」


震える声で国王が問いただすと、側近は不安げな表情で答えた。


「……はい、聖女様は結界を張っていました。しかし、魔物の勢いに耐えきれず、結界は崩壊してしまいました。そして……」


「そして? どうしたというのだ!?」


「聖女様は……結界が無力だと悟り、国外へ逃亡されました……」


その言葉が響いた瞬間、玉座の間に重い沈黙が広がった。国王は呆然とし、震える手を握り締めた。信じていた聖女に裏切られたという現実が、彼をさらに追い詰めていった。


「く、くそ……! あの聖女め……!」


国王は怒りに震えながらも、発散する場所はなかった。重苦しい空気が玉座の間を包んでいた。


その時、一人の若い兵士がためらいがちに声を発した。


「陛下、恐れながら申し上げますが……やはり、ヒメ隊長のお力で魔物が抑えられていたのではないでしょうか?」


その言葉に、玉座の間の空気が張り詰めた。国王は若い兵士を睨みつけたが、反論する言葉が出てこなかった。兵士の言葉があまりに的を射ていたからだ。


「……何を言っている?」国王の声は震え、動揺がにじみ出ていた。


「ヒメ隊長が在任していた5年間、一度も魔物が迷宮から出てくることはありませんでした。しかし、彼女が追放されてからわずか2ヶ月で、このような事態に……彼女の言っていたことが本当だったのかもしれません……」


兵士は苦しそうに言葉を続けた。国王は無言で考え込んだ。追放したヒメの言葉が頭の中に蘇る。「魔物と念話で交渉していた」という彼女の話が、今になって妙に真実味を帯びてきた。しかし、国王のプライドがそれをすぐには認められなかった。


「……まさか……あんな虚言が……だが……」


国王は自らの過ちに気づき始めたが、時すでに遅かった。


その時、遠くから地響きが響き渡り、巨大な影が玉座の間に迫った。轟音と共に扉が開かれ、漆黒の毛に覆われた巨大なミノタウロスが現れた。血のように赤く輝く瞳で国王を睨みつけ、恐ろしい咆哮を上げた。


「グォォォォォォォォォォォオオオオオオオッ!!」


その咆哮が響き渡ると、側近たちは恐怖に駆られ、一斉に逃げ出した。誰一人として国王を守ろうとする者はいなかった。国王はその場に取り残され、顔を引きつらせ、腰を抜かして震えながら必死に叫んだ。


「ひ、ひぃ……助けてくれ! 話し合おう! お、おまえ……言葉が通じるだろう……? ヒメ! ヒメぇぇぇ!」


しかし、ヒメのいない今、国王に救いはなかった。


国王の懇願も虚しく、ミノタウロスは無情に巨大な斧を振り下ろした。斧が空気を切り裂き、国王の最後の叫び声はかき消された。国王の体は一瞬で両断され、無残にも崩れ落ちた。


その頃、私は――隣の街で、のんびり魔物たちと交渉を続けていた。遠くからミノタウロスの咆哮が聞こえた気がしたが、軽く肩をすくめた。


「ミノちゃん、ちょっと暴れてるみたいね。まぁ、そのうち見に行こうかな!」


この広い世界で、また私を必要としてくれる場所があるだろう。今は自由になった気がする。これからの旅が、少し楽しみだ。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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