■第39話:約束の追憶
ウィリアムとエリサは久しぶりの再会を喜び合いながら、露店街で昔話を交わしていた。しかし、その会話は意外な方向に進むことになる。
「ウィリアム、そういえばあなた、約束したじゃない?」エリサが静かに言った。
ウィリアムは少し驚いた表情で首をかしげた。「約束?何のことだろう?」
エリサの目には怒りが宿っていた。
「村に戻ってきて、一緒にあの山脈を越えることを約束したでしょう。一緒に探検しようって。」
ウィリアムは思い返すが、そのような約束をした覚えがなかった。
「エリサ、待って。本当にそんな約束をしたか?僕には記憶にないんだけど。」
エリサは眉を寄せ、思案の表情を浮かべた。
「あれ、でもウィリアム、私たち…スープを作る約束をしてたよね?」エリサが不意に口を開いた。
ウィリアムは驚いた表情で彼女を見つめた。
「スープを作る約束?」
エリサはちょっと照れくさそうにしながらも、
「あ、いや、もしかして違うかもしれないけど…一緒に魚を捕まえに行く約束だったかもしれないわ。」
エリサの眉間にしわが寄る。
「絶対に約束したわ。あなた、いつもそうよ。約束をしておいて、後から忘れたなんて。」
ウィリアムは戸惑った表情でエリサを見つめた。
「ごめん、でも本当に覚えてない。もしかしたら、僕はその時、本当に約束をしたつもりじゃなかったのかもしれない。」
エリサは少し立腹しながらも、深呼吸して落ち着こうとした。
「でも、ウィリアム、あの時私たちは…」
その時、露店街の喧騒が二人の会話を遮った。周囲には色とりどりの料理の香りが漂い、人々がにぎやかに交流している。しかし、ウィリアムとエリサの間には少しの間、沈黙が広がった。
「すまない、エリサ。本当にその約束を忘れていたなら、許してくれ。でも、僕にはその記憶がないんだ。」ウィリアムは誠実な表情で言った。
エリサはしばらく考え込んだ後、深い溜め息をついた。
「わかったわ。でも、ウィリアム、私はあの時、あなたと一緒に…」
彼女の言葉が途切れた。彼女の目には今までに見たことのない深い悲しみが宿っていた。ウィリアムはその表情を見て、何かを悟ったような気がした。
「エリサ、本当にごめん。でも、僕には…」
その時、エリサの視線が何かを捉えたかのように、彼女は顔を上げた。
「あ、ごめんなさい。私、もう行かなきゃ。」
ウィリアムは彼女が去るのを見送りながら、胸の中にぽっかりとした空虚感を感じた。彼は自分の記憶に確信を持てなかった。本当に約束をしていたのか、それともエリサが誤解しているのか、それさえも明確ではなかった。
露店街の喧騒が再び彼を包み込む。彼は今日の疲れを癒すために食事を求めて、再び歩き出した。しかし、心の中で何かが引っかかる感覚が残った。
ウィリアムはその後もしばらくエリサのことを考えながら、王都の街を歩き回った。彼は自分が何を約束したのか、あの時の出来事がどうだったのかを探るべく、思いを巡らせた。彼の心には混乱が広がり、自分が信じるべきものが何なのかを見失いつつあった。




