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49話 目的

仕事が繁忙期なので、暫く不定期連載となります。すいません!!!!!!!

 迫る屍たちはピタリと動きを止めた。


捕縄呪縛(プレヘンデレ)――」


 ジュガが行使した魔法は、広範囲にわたって動きを強制的に静止させるものだった。

 更に、名を知る者ならば対象外とすることも可能。当然、家族は魔法の影響を受けない。


「気を付けろ、魔法までは止められん。燃やす男の視界に入らぬ様に仕留めるんじゃ」


 他の者はジュガの指示に従って動く。アンデッドであれば素直に首を刈れば仕留めることができる。

 しかし、【死者への冒涜(ネクロマンシー)】によって動かされる屍たちは、何をどうしても動き続ける。

 対応策があるとすれば、魔力の供給を断つか、体をバラバラにすることぐらいだろう。

 それを知らない彼らは、屍たちの首を断とうとする。

 ジュガが魔法を解いたとき、尚動き続ける屍に驚くことだろう。

 だがそれだけだ。少なくとも彼らが負けるとは考えられない。【死者への冒涜(ネクロマンシー)】は強力だが、五十人程度の屍ではS級冒険者たちを抑え込むには物足りない。


 一時苦しい表情を見せた【這い寄る静寂(シーカーリウス)】であったが、結果的には勝利を収めた――かに思えた。


「く……がはっ……」


 ジュガの首は裂かれ、そこから夥しい量の血が流れ落ちる。


「じいちゃん!」


 キプロスは叫びながら直ぐにでも駆け寄りたかった。

 だが、膝から崩れ落ちたジュガは手印を保っていられない。屍たちは再び動き出すだろう。

 それにジュガを襲った者の正体も掴めていない。まずは状況を把握することが生き残るための最優先。

 ぐっと下唇を噛んで、キプロスは気持ちを押し殺した。


「何故動ける……何者だ?」


 カルスは陰に隠れたその者に問いながら目を凝らす。

 そこには裸のヒューリカが、一本のナイフを片手に佇んでいた。


「魔法は使えるのでしょう? だから動きを止められた後に(わたくし)を増やしました」


 ヒューリカは何処にでも潜んでいる。

 狭い地下室に溢れる屍の中に、服を着た一人のヒューリカが瞬きもできずに静止していた。

 魔法発動時点でその場にいなかった者ならば、その影響を受けることはない。

 よって、静止したヒューリカが魔法で増やした新しいヒューリカは動くことができる。


「幸い、ここは誰の目もありません……。久々に、本気を出すことができます」


 ヒューリカが話し終えると同時に、【這い寄る静寂(シーカーリウス)】の面々は自身に向けられた刃が一本ではないことに気が付く。

 屍の陰から現れる無数のヒューリカ。同じ顔、同じ背丈、同じ瞳。


 ヒューリカに本体という概念はない。どのヒューリカも【分裂(オムニス)】を行使できる。

 そして全てのヒューリカの記憶、経験は共有される。

 だが、寸分違わぬ分身に見えて、実はその才能までは共通しない。それは、彼女たちが分裂して生まれたからであろう。


「火――」

「水――」

「土――」

「岩――」

「金――」

「風――」

「樹――」

「雷――」

「闇――」

「光――」


 次々とヒューリカたちが呟く。

 それは、それぞれの個体が持つ才能……魔法の適性。

 敢えて口にしたのは全て一般的な魔法。初見では対処の難しい魔法は無詠唱にて発動する。

 それに加えて動き出す屍たち。この状況は【這い寄る静寂(シーカーリウス)】がほとんどの戦闘を避ける理由を物語っている。

 それは圧倒的な物量による制圧。逃げ場のない空間で、彼らが生き残る術は残されていなかった――。



 人知れず伏魔殿の地下で巻き起こる戦闘の最中、ミシェルは物陰に潜みながら侵入者の様子を窺っていた。

 幾つもある食堂の扉の一つ……それは解放されており、外から中を覗くことができた。


(まさか、城内にまで侵入者が……ということは、【悪の特異点(マレフィキウム)】は不在。城を空にするなんて何を考えているの……?)


 ミシェルは考えを巡らせる。

 食堂で腰を落ち着かせた侵入者たちは、どのようにして【悪の特異点(マレフィキウム)】の不在を知ったのか。

 前線に“終末級”が現れないことから推察したのだとしても、確信が無ければ伏魔殿の中にまで足を踏み入れることはできないだろう。

 仮に侵入者たちが牧緒への謁見を取り付けたとしても、食堂には集まらないはずだ。


(奴らの目的は何? 城内から何かを盗み出そうとしている? だったら何故、そこから動かないの?)


 まさかニャプチが彼らを案内したとは思い至らないだろう。得られるはずもない答えを求めて、ミシェルは頭を捻り続けた。

 【知恵と石塊の輪(テネル・ラトムス)】たちが食堂から動かない理由も、ニャプチにある。

 当てもなく魔女の部屋を探すよりも、ニャプチに案内してもらった方が効率が良いからだ。


(このまま逃げてしまおうかしら……)


 現状、町の獣人たちに被害はない。そして伏魔殿の防衛まではミシェルたちの仕事ではない。

 ここで我が身大事に背を向けたとしても、問われる責はない。

 決断しようとしたその時、食堂に一人の男が現れた。


「お待たせした。貴殿らの様な来客があるとは思いもしなかったものでね」


 その巨体は頭をぶつけないよう、僅かに屈みながら入口をくぐった。


「冥王オルガノ……」


 ドーラの表情が曇る。ニャプチの様に、簡単に言いくるめられるような相手ではない。

 ミシェルの電報はオルガノに届いていた。

 “旅の間”に用意された転送魔法を使用した場合、伏魔殿に帰るには一度転送された座標まで戻る必要がある。そのため帰還が遅れたのだ。


「まさか勝ち目もないのに我々を討滅しに来たわけではあるまい。目的はなんだ?」


 オルガノは臆することなく堂々と問う。


「何、ただの敵情視察というやつですよ」


 ドーラは目的を誤魔化しながら、会話の中で“終末級”の現在を探ろうとしている。

 オルガノだけであれば、勝てない相手ではない。しかし、“終末級”も同じく帰還しているのであれば、下手に動くわけにはいかない。


「魔女の部屋に何があるというのだ?」


 対してオルガノは既知の情報を駆使して相手を逃さない。

 レアラはそれを知られていることに動揺し、表情を強張らせる。泳ぐ視線は、オルガノの大きな背に隠れたニャプチを捉えた。

 舌を出し、片目をつぶってお茶目な表情を作っている。まるで「ごめーんにゃ」と聞こえてくる様だった。


「そうですか、ニャプチさんからお聞きになったのですね」

 

 ドーラは諦めた様に息を吐き出しながら言った。


「S級冒険者としての矜持を刺激されたのだな。命を懸けてまでやる仕事ではあるまい」


 同情するようなオルガノの態度は、余裕を見せると同時に相手に歩み寄ることで戦意を喪失させようという作戦だ。

 流石のオルガノも、準備もなしにS級冒険者に勝利することは難しい。彼はニャプチの実力を当てにするほど、ニャプチを信頼してはいないのだ。


「魔女の部屋……そうか、貴殿らの雇い主はシオンレウベの者か。確かに尤もらしい理由だな! 魔女の部屋の存在など誰も知らないというのに」


 伏魔殿の情報が外に漏れるはずはない。たとえヒューリカをはじめとする部外者の中に裏切者がいるとしても、魔女の部屋の有無や場所など知るはずもない。

 ならば、魔女に拘るシオンレウベの何者かが、それらしい理由を付けて彼らを雇った可能性が高い。


「貴殿らは担がれたのではないか? 大方、場をかき乱すために遣わされたのだろう」


 オルガノは、シオンレウベの者が何か別の目的を持って彼らを魔境に侵入させたものと考えた。

 これだけの騒ぎを起こしたのだから、この機に乗じないはずがない。

 少なくとも、ドーラが言う様なただの偵察ではないだろう。

 分かることは一つだけ。


「すれ違いというわけか……。さて、どうやって収拾をつけたものか……」


 オルガノは溜息をついた。

 牧緒とリデューシャが魔法大国シオンレウベに侵入したのと同時に、その国の手の者が魔境に侵入した。

 恐らくは互いに飛車角落ちの状態。先に崩されるのはどちらとなるか――。



 魔境を望む丘の上。

 他のS級冒険者たちが侵入を成功させても尚、そこに留まる者たちがいた。

 少数精鋭の超新星【渡り鳥の賛歌(アド・アストラ)】のパーティーである。

 

「なかなか姿を現さないなぁ」


 リーダーのリジンが魔法も使わずに、その両の目で遠く離れた魔境の様子を確認した。

 彼らの目的は他のS級冒険者たちとは異なる。始めから“終末級”と戦うことを想定していない者たちとは真逆だ。

 【渡り鳥の賛歌(アド・アストラ)】は魔女を討滅するためにここへ来た。

 だが、彼らに“終末級”を屠るだけの実力はない。協力者が必要だ。いや、むしろ【渡り鳥の賛歌(アド・アストラ)】こそが協力者である。


「かつての魔女ならば、己が領域を荒らされれば黙っていないはず……まさか魔境に魔女はいない……?」


 リジンに声を掛けたのは同じパーティーの仲間ではない。

 彼らに仕事を依頼した者たちの一人、異端審問官が第四席のポリトラ・クルヘンであった。

 その背後には、他八名の異端審問官たちがずらりと並ぶ。

 第一席のオーギュオンと、第九席のキュラハを除いた全ての異端審問官たちが集っている。


「大丈夫! 魔女はいますよ。それに、勝つのは俺たちだ」


 リジンは自信満々に言い切る。


「俺、少し先の未来が読めるんで!」


 それこそが、彼がS級冒険者に至れた最大の理由であった。


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