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0話 プロローグ

 記録。

 メリアナ山岳地帯のヴァーリア監獄にて、六名の囚人が脱獄。

 単独で世界を滅ぼし得る“終末級”の囚人が含まれていることを確認――。



 貴賓室の隅に据えられた本棚から取り出した一冊の歴史書。

 気分転換のために背表紙も見ず手に取ったそれは、偶然にも男の琴線に触れる内容だった。


「懐かしいな」


 その先の史実を知っている男は、一節にだけ目を通してパタリと本を閉じた。

 目を瞑り、深く息を吸い込んで思い出す。

 世界の秩序を崩壊させ、仮初の平和を一変させた事件。

 脱獄した六名の囚人は、全ての者にとっての脅威であった。

 

 神とも厄災とも伝わる、世界でただ一頭の種であると目される唯一竜。

 強欲の限りを尽くし、あらゆるを貪り奪った、千年以上を生きる魔女。

 かつて全人類に絶望を与え、人類に討滅された魔王。その魂を宿す悪役令嬢。

 闇ギルドを牛耳り、冥王と呼ばれた裏社会のフィクサー。

 生物の常識と、人の倫理を超えた合成獣人(キメラ)

 そして、脱獄の首謀者にして異世界からの来訪者。


 その来訪者は全ての元凶であり、悪逆非道を歩んできた者たちを率いる男。


「……やっぱり俺が一番悪い奴だな」


 男は目を開けて諦めた様に呟いた。

 名は鉢木(はちのき) 牧緒(まきお)

 現代日本からこの世界に召喚された、何の変哲もないただの青年。


 その体に魔力は宿らず、魔法も使えない。

 特殊な能力(スキル)も与えられず、専門的な知識も持っていない。

 無力な彼に特筆すべきモノがあるとすれば――。


「マキオ、時間だ」


 金色(こんじき)の髪を束ねた魔女が、牧緒の肩にそっと手を置いて囁いた。

 牧緒はその手を取って貴賓室を後にする。


 長い廊下を進むと、天井の高い謁見の間に辿り着く。

 牧緒は迷わず(から)の玉座に歩み寄り、腰を下ろした。

 僅かに高い位置から見下ろした先には、本来この玉座に座るべき男が片膝を付いて首を垂れている。

 その者は王冠を床に置き、王ではなく只人としてそこにいる。


「発言を許す」


 魔女がそう言うと、男は顔を上げずに口を開いた。


「魔境の王よ、どうかその御手(みて)で世界をお救いください……っ!」


 立場を捨てた男は、恥も外聞も捨てて懇願する。

 それを受けて、牧緒はできる限り尊大に振る舞った。


「救いはしない。我々にできるのは滅ぼすことだけだ」


 足を組み、頬杖をついて不敵な笑みさえ浮かべてみせた。

 このくだらない演出が、無力な牧緒には必要だったからだ。

 しかし、その言葉に嘘はない。口にしたからには覚悟を決めてやり通す。

 

 そう、牧緒に特筆すべきモノがあるとすれば、仲間と自身のために命すら省みない覚悟だ。

 それだけが彼の武器。それだけが世界を変える唯一の選択。


 世界は救いを求めている。

 だが、手を差し伸べた者が望まれた結末を紡ぎ出すとは限らない。

 むしろ世界を滅ぼす悪逆にこそ、希望を見出だすかもしれない。


 その真相を語るには、鉢木(はちのき) 牧緒(まきお)の始まりを知る必要があるだろう――。

 

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