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62…忘 思出 却

「移動しよっか」

「はい…」

椎名さんに着いていくと、屋上についた。あれ?

オレしか鍵もってないはずなのにどうやって


「その鍵って?」


「あぁこれ?福嶋先生がくれたんだよ。君もそうでしょ?」

あの先生、生徒ポンポン鍵渡すなよ。無くしたりしたら責任取れるんかよ。


「あれ?てことは昨日」


「うん、そこで寝てたら君と女の子が来て」

ドアの上を指さす。一応登れるけど、わざわざ登らないからな普段生息してる時間帯が一緒でもオレからは気づかなかった。


「それで昨日の話を聞いててオレがなんか言うと思って録音してたと」


「録音は普段からしてるよ。そもそも独り言でボロだすなんて思わないしおどろいたよ。」

…独り言でボロ出すのめっちゃ馬鹿じゃね?考えないでおこう


「まぁ別に秘密にしてる訳でもないし話すよ」


「ありがとう、欲を言えば君じゃなくて女の子のほうから聞きたかったけどね。」

きっと女の子が好きなんだろう。決してバカなオレから聞きたくないわけではないな。


「それでその…能力者とはそういうものでして」

10分ぐらい能力者について知ってることを伝えた。我ながらいい説明だったと思ってる。


「うん、6割ぐらいはわかった。あとは女の子から聞くね。んー、そんな感じの話記憶にあるんだけど、なんかの本の設定かな?」


「まぁオレもそこまで詳しくない。オレと佐々木ってやつは超能力者になりたてだから、昨日いたミナトって子に聞いてくれ」


「ミナトちゃん?覚えとく。」


「あ、知念てやつも能力者らしいよ。」


「知念ちゃん?」キョトンとしてる。まさか2位の子知らないのか?


「ほら、テスト2位の知念一冴。いつも君の下に名前あるじゃん」


「知念くん?ごめん私順位とか見てないから、2位が誰なのか知らない」

お〜、これはオレと別ベクトルの馬鹿だぞ。


「椎名さんて授業中いつも寝てるらしいけどなんで勉強できるの?」


「あぁ、それは家で勉強してるから。学校は睡眠時間 兼 休憩時間にしてるの」


「じゃあ何しに高校来てんねん」


「高卒認定を取りに」


「なるほど、何のために勉強してんの?」


「それはね…んー…えっと…」

本気で悩んでいる。まさか特に理由もなく勉強ガチってるのか?


「あはは、子供の時に頭ぶつけてね。あんまり記憶力よくないんだ。なんで勉強してるのか忘れちゃった。」


「え?でも頭いいじゃん?」


「知識は残るみたい。思い出とかがない分容量に余裕があるんだよ。」


「思い出ないの?修学旅行とかは」


「多分行ったと思うよ。今の私なら行くから昔のわたしも行ってると思う。」


「ちょ、待ってどれくらいで忘れるの?」


「んー、1週間かな来週には君のことは忘れてるだろうけど超能力があるってことは覚えてると思うよ。」

少し寂しそうな顔をしている。1週間で忘れるとしたらクラスメイトの顔も覚えていないんじゃないか?


「ねぇ、もし良ければ私のこと殺してみない?」


「は?」

何言ってんだこいつ?殺して?


「だって君に殺されても生き返れるでしょ。私の記憶がないわたしとして」


「そう別人だよ?椎名さんは死ぬんだよ?」


「別の私ならさ、思い出とか残ってるかもしれないじゃん。それにもとは私なんだから私だよ」


なんて声をかければいいんだ?思い出がないってどういうことなんだろう…


「もう嫌なんだよね。家に帰っても1人、家族の顔も思い出せないしなんで1人なのかも思い出せない。」オレに背中を向け外を見ながら話している。表情は見えない…声は明るく振る舞おうとしているように聞こえる。


「…」


「もう生まれ変わりたい。今の私には何も無いから。次の私なら…」空元気で話していても鼻水をすする音や震える声でわかる。泣いているな


「泣いてんじゃん。思い出がないってのはよく分からないし考えても分からないけどさ…」


「分からないよね。わからないのが普通だよ。」


「うん分からんし知らん。だけど勉強したり高卒認定取ろうとしてたりなんかやろうとしてんじゃないの?」


「それは知識しか記憶に残らないから、」


「オレは馬鹿だけどさ一つだけ言えることがある。」


「なに?」


「人の感情とか性格ってさ思い出の積み重ねで、できてるんだと思う。なんか記憶にあってこれで怒られたからこういうことはしないとかこういうことしたら褒められたからとか」


「感情は脳内の扁桃体だし、性格は親の遺伝だよ。」


「…何言ってんのか分からん。まぁそう焦るな。オレらみたいな人間は思い出に残ってる部分が今の性格に影響してると思うんよ。」


「どっちかと言うと人格…」


「そうそれ!それで言うと君の人格って結構変わったんじゃない?昔から授業中寝るような子だったの?昔から家にかえって寂しいと感じていたの?」


「昔のことなんて覚えてない。でも多分昔からそうよ。」


「いや違うね。椎名さん去年はもうちょい笑顔が多くて、頭もそこまで良くなかったよ?

毎日思い出が記憶に残らなくてもなんかしら積み重ねてるんだ。それで人格とか変わって進化してるんだよ。」


「それは知識が増えて考え方が変わってるだけでしょ」


「確かに…でもさ変わってきてることは確かじゃん。思い出がなくても死ななきゃ今は生きれるよ。まぁあれだ今日も明日も明後日もオレと話せば忘れないだろ?」


「なにそれ、君結構バカだね。」

少し笑った気がする。まぁぶっちゃけた話をすると去年から椎名さんは変わっていない。去年もあまり人と関わらず一人寝ていて1位をとっていた。交友関係を作ったところで夏休みでリセットになるし進級でもリセットになる。それはまぁ消極的になるよな。


でも椎名さんは何かしら変わろうとしているのだろう。そのために日常の思い出を少しでも残せるように録音したりしてんだろうな。あまり人と関わらないから少しでも関わったら記録し記憶する努力をしている根が真面目だ。親の遺伝だな。親知らんけど。


死にたがってたのも事実だろう。何も思い出がないって言うのは考えられないけど辛んいだろうな。毎日毎日自分しかいない家で勉強してるなんて頭がおかしくなってもおかしくない。自暴自棄になる気持ちも分かる。

「ま、明日もオレ屋上にいるから暇だったら来いよ。」


「暇だったらね。」


「ていうかもう一限始まってるやん」


「私はお昼寝してから行こっかな。一緒に寝る?」


「いや、オレは戻るわ。進級できんくなる。」


屋上を後にしようとすると椎名さんに呼び止められる

「あのさ、」


「何?」


「パンツ返して」


「…」

ポッケには白い布切れが入っていた。もうちょいでもって帰れたのに…

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